岸田政権による防衛力強化の動きについて、米『タイム』誌が刺激的な見出しで記事を掲載。日本政府からの“指摘”により、見出しが書き換えられました。こうしたメディアへの“圧力”のかけ方に、中国共産党を思い浮かべたと語るのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、岸田政権に対しASEANを始めとするアジアから警戒する声があるとして、ASEANが重視する「包摂性」について解説しています。

世界の対中国政策の趨勢は、デカップリングからデリスキングへ

岸田総理大臣は何十年も続く平和主義を放棄し、自国を真の軍事大国にしたいと望んでいる──。

5月9日、アメリカの雑誌『タイム』がウェブで公開した記事の見出しに日本のメディアがざわついた。だが騒ぎはそれだけで収まらなかった。11日午後になって突然、冒頭の見出しは「平和主義だった日本に、国際舞台でより積極的な役割を与えようとしている」と書き換えられたからだ。

共同通信はこの変更の裏側を、「修正を求めたわけではないが、見出しと記事の中身があまりに違うので指摘した。どう変えるのかはタイム誌の判断だ」という政府関係者のコメントとともに報じている。

要するに「圧力ではない」と言いたいのだろうが、これは日本の北京特派員が中国共産党の不興をかったとき中国外交部から呼び出される「指摘」を彷彿とさせる。

いくら言論や表現の自由といっても、本当に機微に触れる問題では限界があることを見事に晒してしまったわけだが、問題はそこだけではない。外国メディアが発信する「日本」は、もちろんそれ自体に不正確なものも多い。だが今回の『タイム』の見出しが、現実と大きく乖離していたとは思えない点にある。

戦後、平和国家を標榜し、その理念を具体的に政策に反映させるため設けた防衛予算の対GDP比1%の枠を取っ払い、さらに専守防衛を踏み越えるかのような敵基地攻撃にも道を開き、憲法まで変えようと意気込む日本の変化を、外国の特派員が「軍事大国化」と表現するのは、むしろ自然だ。

国際舞台で「より積極的な役割を」というが、それを望んでいるのはアメリカとNATO(北大西洋条約機構)が主で、アジアには警戒する声も少なくない。そのことはIPEF(インド太平洋経済枠組み)のため来日した東南アジアの指導者たちが口々に懸念を述べたことを振り返れば明らかだ。

5月11日、その東南アジアの一国、インドネシアで行われていたASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議が閉幕した。シンガポールのテレビCNAは、この会議の成果として、「ASEANと中国の間で進められる協力強化について、これを歓迎し、南シナ海での紛争回避を目指す行動規範の交渉において進展があった」と伝えている。

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もっともASEANにとっていまだ最大の課題はミャンマー問題だ。ここではなかなか進展もみえてこない。だが興味深いのは、そのミャンマー問題での議長国・インドネシアのジョコ・ウィドド大統領の発言だ。
「われわれの信頼性が問われているいまこそ『特定の誰かを排除しない』というASEANの包摂性を貫くべきである」

ASEANのこうした考え方は、「一方的に主張を押し付けるメガホン外交ではなくミャンマー国内で話し合いが進むことを望む」とか、「関与することと相手を認めることは別」といった発言からも強く伝わってくる。聞き方によっては、仲間か否かを分け、一度排除の対象になれば強い制裁で屈服させようとするアメリカのやり方をけん制しているようでもある。

日本ではよくASEANが「中国経済に屈した」と報じられるが、包摂性がASEANの特徴だ。逆に経済的な関係が深い中国と、あえて離れるメリットは何かと問われれば、ASEANはかえって説明に困るだろう。実際、少しずつ対中国で現実的な対応をしようとする動きは、アメリカの同盟国やパートナー国の間にも広がりつつある。

例えば、ASEAN首脳会議が閉幕した同じ日に北京に到着したオーストラリアのドン・ファレル貿易・観光相の動きだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年5月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Popartic/Shutterstock.com

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