「かませ犬」から大出世した花田純一

 ずっと読んでいたマンガなのに、生活状況の変化などで途中離脱してしまい、そのまま戻る機会を逃してしまっているマンガはありませんか? 今回は、そんな途中離脱した方に向けて、長寿マンガで近年に起きた「サプライズ展開」を振り返ります。

※この記事には『刃牙』シリーズ『キングダム』『ベルセルク』のネタバレを含みます。

●かませ犬がまさかの活躍『刃牙』シリーズ

 1991年から連載されている人気格闘マンガ『刃牙』シリーズは、2023年に第6部『刃牙らへん』の連載がスタートしました。そのタイトルから、刃牙の周囲にいるキャラが主役になることが予想されていましたが、第6部の序盤では誰も予想しなかったキャラにスッポトライトが当たったのです。

 第6部では、現在、刃牙の腹違いの兄弟であるジャック・ハンマーと、鎬昂昇の戦いが行われています。噛みつきを極めた「噛道(ごうどう:実際の「噛」の漢字は印刷標準字体の方)」のジャックと、手足をナイフのように操る「斬撃拳」の昂昇の戦いの行方には要注目ですが、それ以上に再登場した花田純一の活躍には、多くの読者から驚きの声が上がりました。

 花田純一と言う名前を見てすぐにピンときた方は、かなりの『刃牙』マニアでしょう。おそらく、大半の読者が忘れていたであろう彼は、第1部で刃牙の対戦予定相手のプロレスラーとして登場しました。しかし、プロレスをバカにした花田はマウント斗羽に制裁を受けて、刃牙との対戦が実現しなかった「かませ犬」キャラでもあります。

 さらに、彼は「最大トーナメント」出場をかけた加藤清澄との戦いで睾丸をひとつ潰されてしまいます。それでも、実践型武術家の本部以蔵門下で唯一「免許皆伝」となった弟子であり、「格闘技の天才」とも呼ばれる花田の実力は確かでした。

 その後、多くの実戦を経験して成長したという花田は、第6部で日本一の喧嘩師である花山薫との戦いに挑み、花山の全力の一撃に「カウンター」の投げを決めたのです。外伝まで描かれた最強格キャラの花山を相手に、かませ犬だった花田が活躍したのは驚きでした。また、カウンターを決めた後は、その場から逃げることで花山の反撃を回避しています。

 かつて、勇次郎を怒らせながら逃げおおせた師匠の本部を思わせる逃げ足を見せた花田に、うれしくなった読者も多いのではないでしょうか。その後、花田は昂昇とも互角の戦いをみせており、これまでの扱いが嘘のような活躍を見せました。花山との因縁も残っているため、もしかすると本部が宮本武蔵に勝ったときのような、波乱の展開があるのかもしれません。

人気の大将軍がまさかの

●桓騎の死『キングダム』

正気を失っていた時代のキャスカが表紙の『ベルセルク』20巻(白泉社)

 2006年から連載されている歴史バトルマンガ『キングダム』の単行本は、70巻まで刊行されています。そして、政が正式に秦王になってからは、中華統一を目指す秦国とそこに立ちはだかる李牧率いる趙国との戦いが長く続いていました。そして激化する秦と趙の戦争のなか、69巻でついに人気キャラの桓騎が死亡したのです。

 戦の天才と呼ばれている桓騎は、元野盗という出自から、拷問や殺戮、人質など、手段を選ばない戦い方を得意としていました。また、彼の冷酷さは、真っすぐで正義漢の強い主人公の信とは対称的に描かれ、「心配すんな 全部上手くいく」などの名言や高いカリスマ性から、キングダム屈指の人気を誇っています。そして、初登場時は蒙ごう軍の副将だった桓騎は、そのカリスマ性と知力を活かし、多くの武功を上げて秦の六大将軍のひとりにまで出世しました。

 そんな人気と実力を兼ね備えていた桓騎ですが、趙北部の要衝「宜安」を巡る攻防で、李牧が入念に準備した罠にはまり窮地に追い込まれます。そして、土壇場で繰り出した起死回生の策も一歩及ばず、桓騎軍ごと討ち死にしました。

 同作のエピソードは史実を元にしているため、桓騎が死亡することは予定されていたようです。しかし、桓騎には秦で反乱を起こして燕国に亡命した樊於期(はんおき)との同一人物説があり、人気が高かったこともあって「本当に死んだんだ」「樊於期説は無理か」と彼の死に驚く意見も見られました。

●ついにヒロインが正気に戻る『ベルセルク』

 1989年から連載されているダークファンタジーの金字塔『ベルセルク』は、作者の三浦建太郎先生が2021年に死去されたため、現在は盟友の森恒二先生監修、三浦先生の弟子たちが所属するスタジオ我画の作画で連載が続いています。同作のマンガ史に残る恐るべき惨劇「蝕」が起きた際、ヒロインのキャスカはグリフィスの転生した姿であるゴッド・ハンド「フェムト」に凌辱された影響で心が壊れて、長く正気を失っていました。

 キャスカの壊れた心を元に戻すべく、妖精の島を目指していたガッツ一行は、多くの困難を乗り越えて妖精の島にたどり着きます。そして、これまで献身的にキャスカを支えていたシールケとファルネーゼが彼女の夢に入り、その心を悪夢から解き放ったのです。

 休載も多かった同作は、読者から「キャスカが元に戻るのはいつになるか」と心配されていました。現実の時間で20年以上が経過したものの、ついにキャスカが心を取り戻した展開は読者にうれしい驚きを与えてくれています。

 しかし、キャスカの心にはまだ蝕のトラウマが根強く残っており、さらに最新42巻ではさらなる衝撃展開がキャスカとガッツを襲いました。果たして、彼らは最終的にどのような運命を迎えるのでしょうか。