「来週も観てね!」というフレーズは化石化した?

 2024年春も新作アニメがたくさん放送されます。TVアニメは、地上波、BSなどで3か月ごとに新作が50本以上、入れ替わります。そうしたアニメ作品について、おっさん世代である筆者としては、実は「ちょっと寂しいな」と思うことがあります。それは「次回予告」がほとんどないことです。

 昨今、特に深夜帯のアニメ番組は「次回予告」が簡略化されています。昭和から平成初期までは夕方からゴールデン枠での放送が多く、『サザエさん』や『ワンピース』のように、ED曲の前か後に10秒から30秒程度の「次回予告」がありました。ダイジェスト映像とNA(ナレーション)で内容が紹介され、サブタイトルを読み上げる、という流れが王道パターンになります。地上波は視聴率を最後まで落とさない意味でも、「次回予告」は重要なのです。

 では、なぜ「次回予告」は簡略化されるようになったのでしょう。「深夜番組だから」というなら、その理由は何なのでしょうか。

 まず、データを取りました。次回予告の基準を「次回のサブタイトルを表示すること」として、筆者が視聴することができた地上波、BS、VODで、2024年冬新作アニメ55作品(2クール目の『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』なども含む)をチェックして、いくつかのパターンに分けてみました。番組は、地域による違い、配信との違いがあるかもしれないので、出した数字はあくまで参考としてください。

A:10秒以上+ダイジェスト映像+NA付+サブタイトル表示(ほぼ昔の王道スタイル)……8作品

 深夜としては珍しい『ぽんのみち』『月刊モー想科学』などのほか、シリーズ第21弾『わんだふるぷりきゅあ!』は昔のスタイルを貫いています。番外で『薬屋のひとりごと』や『カードファイト!!ヴァンガード Divinez』はダイジェスト映像が流れるものの、NAが付いていません。

B:数秒+ダイジェスト映像+サブタイトル表示……4作品

 短いながらもダイジェスト映像があり、最後にサブタイトルが表示されます。『異修羅』『HIGH CARD』などが該当し、そして『葬送のフリーレン』はセリフの文字を画面にたくさん映すという手法ですが、ここに分類しました。NAの有無は半々といったところ。

C:数秒+サブタイトルのみ表示……12作品

 画面にサブタイトル表示のみというシンプルな次回予告で、Bと区分するのが難しい番組もありました。NAで読み上げるのは6割ほどです。『キングダム』『うる星やつら』『MASHLE』『魔法少女にあこがれて』などが該当。

D:なし……31作品

 『外科医エリーゼ』『佐々木とピーちゃん』『姫様“拷問”の時間です』『百妖譜』などが該当。

 このようなデータになりました。いまや「次回予告なし」が半数以上です。

WEB版予告映像は見応え十分。TVアニメ『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』ビジュアル

次回予告はwebで!

 次に、「次回予告が簡略化された理由」について調べました。ちなみに、深夜の新作アニメの走りは、『エルフを狩る者たち』(テレビ東京、1996年)だといわれています。ED後には王道の次回予告もあり、「来週も起きててくれよ!」といったシメのセリフが好評でした。

 結果として「次回予告」は、2008年頃には減少傾向にありました。当時そのような傾向にあったおもな理由は、「時間と人員と予算」だと思われます。アニメ制作は、通常ならオンエア時に次回の映像ができているものです。しかし特に昔は、1クールのみの深夜アニメともなると低予算で、人員も限られ、進行が破綻して作業が遅れるなどということがよくあったそうです。コンテが遅いと映像の仕上がりも遅れます。また、予告用にも編集と台本が必要ですし、声優のスケジュールや収録スタジオもおさえなくてはならないなど、作業は意外にヘビーで予算もかかります。

 もちろんほかにも理由はあるでしょう。ともあれ制作の負担になることには違いのない「次回予告」は、映像と時間が減り、NAはなくなり、テロップだけになって、ついには全カット……と、徐々に簡略化の方向へ流れていったと推測できます。

 ただし、ネガティブな考え方だけではないようです。逆に「次回予告がないのでネタバレしない」というポジティブな声も聞かれるようになり、それを反映させた番組もあったことでしょう。制作側も「次回予告がなくてもいいのなら、その15秒ほどの時間も本編を作って見せたほうが視聴者は喜ぶ」という考え方にもなります。

 2010年代になると、高速なインターネット網が普及し、番組HPやSNSで次回の情報を流すことが広く行われるようになりました。

 そして近年は、TVでは流さない「次回予告」を番組HP、SNS、動画サイトで、「WEB版予告映像」という形で配信するというパターンが見られるようになります。こうなると、TVで本編を楽しんだ数日後、「予告映像」が観られるという、すなわち「興味の持続」という意味で、次の本編までのスパンを刻むことができる利点があります。

 2024年3月現在、アニメ番組の5割ほどが「WEB版予告映像」を公開しています。たとえば『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』はおおむね長さ1分以上、『葬送のフリーレン』も30秒以上の長尺で次回の見どころなどを伝えています。「WEB版」は自由で楽しく作られているものがたくさんあって面白いです。

 つまり結論として、「次回予告」を簡略化する理由は、ポジティブに考えれば「本編を長く作ったほうが視聴者は喜ぶ」「次回予告はWEBで公開すると効率が良い」と考察しました。

 とはいえ、最初に述べた「おっさん世代は次回予告がなくて寂しい」気持ちも分かっていただけますでしょうか。

 古くは『元祖天才バカボン』の「見ないとタイホなのだ」、『ドラゴンボール』の「オッス! オラ悟空」、『機動戦士ガンダム』の「キミは生き延びることができるか」、『北斗の拳』は千葉繁さんによるハイテンションNAからの「北斗の掟は俺が守る」など、「次回予告」には忘れられない決めセリフがたくさんあります。

 できれば、思わずマネしたくなる次回予告の名セリフが生まれることを深夜アニメでも期待したいです。

『ONE PIECE Log Collection “SKYPIEA”』:
(C)尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』:
(C)藤孝剛志/アース・スター エンターテイメント/即死チート製作委員会