アフレコのとき、宮崎駿監督が思わず漏らした言葉とは?

 第96回アカデミー賞でアカデミー長編アニメ賞を受賞した、宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』(2023年)は、事前にまったく情報を明かさない特殊な宣伝方法を取っていたことで知られています。

 声優のキャストが発表になったのは、公開当日である2023年7月14日のこと。豪華な出演者が名を連ねましたが、なかでも話題になったのが、主人公である眞人の父を演じた木村拓哉さんです。

 昨年放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』「ジブリと宮崎駿の2399日」では、木村さんが思わず「何だ、このストーリーは」と漏らす場面や、木村さんの演技に宮崎監督が「素晴らしい!」と小さく叫ぶ場面が映されていました。木村さんの冗談に宮崎監督が冗談で応える場面もあり、ふたりが信頼で結ばれている様子がよく分かります。

 木村さんの宮崎監督作品への出演は、主演を務めた『ハウルの動く城』(2004年)に続いて2回目となります。宮崎監督に自身の父をイメージしたキャラクターだと聞かされていたものの、宮崎監督の父のことを知らない木村さんはその場その場でイメージを膨らませて演技していきました。収録を終えた後、木村さんは宮崎監督から「父のことを思い出しました」と声をかけられたそうです(『SWITCH』Vol.41 No.9)。

 ところで、キャストが発表される前に本編を観た人たちからは、「池田秀一さんかと思ったらキムタクだった」という声が数多く上がりました。木村さん自身、かつてラジオで好きな声優について「間違いなく池田秀一さん」と語っています(『木村拓哉のWhat’s UP SMAP!』2018年6月3日)。

 池田秀一さんの代表作といえば、なんといっても『機動戦士ガンダム』の赤い彗星のシャアと、『ONE PIECE』の赤髪のシャンクスでしょう。『ガンダム』と『ONE PIECE』の大ファンだと公言している木村さんが、池田さんの演技に心酔するのも無理はありません。

『ハウルの動く城』場面カット (C)2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

「眞人の父」と「赤い彗星のシャア」の共通点は?

『君たちはどう生きるか』の眞人の父は、息子を助けるためインコたちに立ち向かおうとしたり、日本刀を持って塔に向かっていったりと、いくぶんヒロイックな自分に酔っているところがあるような人物でした。また、息子思いのように見えますが、息子の言葉に耳を傾けず、自分の思いを息子に押し付けている場面もあります。軍需工場を営んで成功していることから、エゴイスティックな部分も見え隠れします。

池田さんが演じたシャアも、ヒロイックであり、ナルシスティックであり、エゴイスティックでもある人物です。木村さんは眞人の父に、シャアの面影を感じて演技に反映させたのかもしれません。宮崎監督の作品にこのような「強い父親」が登場することは稀ですが、木村さんの演技が見事に命を吹き込みました。

 木村さんが声優として出演した作品は、宮崎監督の2作品のほか、『REDLINE』(2010年)、『ドラえもん のび太の新恐竜』(2020年)などがあります。日本では知らない人はいないスター俳優の木村さんは、いったいどのように声優の仕事を捉えているのでしょうか。かつて、自身の番組で声優の仕事について語っていたことがありました。

「声というカテゴリーのみで、キャラクターを担うことによって、すべて感情も温度も観ている人に伝えなければいけないという、ものすごくハードルの高いお仕事だと思います」(『木村さ〜〜ん!』2019年4月21日)

 この言葉からも、声優の仕事に対する敬意がよく分かります。「ものすごくハードルの高い」仕事だと自覚しているからこそ、全身全霊をかけて声の仕事に向き合い、その結果、高い評価を得ているわけです。

 アニメ好きの木村さんにとって、声優とはけっして片手間にやる仕事ではないのでしょう。また新たな声優としての仕事も聞いてみたいものです。