人間関係って難しい…視点が変わるとまるで異なる物語に

 理系の大学院生の男子は、研究室の先輩のことが好きでした。外見もきれいだけれど、まっすぐで優しく、根暗な自分を叱ってくれたり、親身に指導してくれたりする内面に惹かれていました。しかし先輩と付き合うには自分は未熟で……。

 X(旧:Twitter)で公開された理系女ちゃんさん(@rikejo_chan)による創作マンガ『先輩は綺麗な人だった』をご紹介します。一見美しい恋物語に見えますが、実はもっと奥深いテーマが込められており、考えさせられる作品として話題となっています。物語の前半は後輩の視点で先輩女子への思いが描かれ、後半は先輩の視点から見た後輩男子が描かれています。

 ふたつの視点から浮き彫りになるのは「コミュニケーションの難しさ」。読者からは「甘酸っぱい恋の話と思って最後まで読んだら怖い話だった」「視点の変化でこんなにも感情が変わるものなのか」「認知の歪み好き」「描写の差がリアル」「対比にゾクッとした」「自分を客観視できてない感じ」などの声があがり、2024年2月の投稿には10万いいねの反響が集まりました。

 作者の理系女ちゃんさんは理系の大学院での生活や研究についての投稿を主に行っています。今回のマンガは、大学院の研究室で人間関係のトラブルがあっても組織の性質上それが解消されにくい現状に問題意識を持ったことから描いたそうで、先輩と後輩のどちらかを肯定または否定するような描写を避け、特定の解釈を促さない内容になるように気を付けたと語っていました。

 作者の理系女ちゃんさんに、お話を聞きました。

ーー『先輩は綺麗な人だった』を投稿なさった当時〜現在で、反響があったことで読者や周囲からはどんな声がありましたか?

 フォロワーが増えたことで、実際に大学院や研究所、企業で勤めている方の目にも留まるようになったと感じています。アカデミアの風通しの悪さに対して同様に問題意識を感じている方からDMや応援のメッセージをいただくことも増えました。

 ただ、大学や研究室内での人間関係にまつわるトラブルは理系というジャンルそのものとは関係ないといった趣旨のコメントをいただいたときは少し残念でした。

先輩からは後輩男子はどう見えていたのか?(理系女ちゃんさん提供)

ーー現在はどんな作品を描いていますか?

 生態学の研究に取り組むふたりの学生を題材にした作品を投稿しています。比較的読者にも親しみやすい内容でサイエンスアウトリーチできればいいなと考えています。

 また、『先輩は綺麗な人だった』の投稿後、書籍化の打診をいただき、現在は理系大学・大学院に関するマンガの出版と、現代の人間関係を題材にしたマンガの連載を検討しています。近々X(旧:Twitter)で報告できればと思います。

ーーX(旧:Twitter)で精力的にマンガを公開なさっています。創作するうえでの原動力になるものはありますか?

「理系の生態」について知ってもらいたいことが一番の原動力です。理系という言葉をさまざまなメディアで見かけますが、実際に理系に進学した学生がどのような生活を送るのかを知る機会が非常に限られていると感じています。自然科学の素晴らしさ、理系大学・大学院というシステムとそれが抱えている課題について今後も発信していきたいです。