趣味性の追求がクオリティアップに貢献?

 ゲーム開発や映画撮影に代表されるクリエイティブな仕事の裏側には、しばしば予想外の動機が隠れていることがあります。もしかしたらある種のゲームは、開発者が趣味と実益を兼ねて作ったのかもしれません。この記事では、そんな「遊び心」が生んだ(?)作品を振り返ります。

●『龍が如く』シリーズ

『龍が如く』シリーズ(セガ)は「大人向けエンタテイメント」というコンセプトで制作されたアクションアドベンチャーゲームです。裏社会を舞台に、熱い魂を持った男たちが己の信念や目的のために戦いを繰り広げます。2023年時点でシリーズ累計2100万本をセールスしており、世界中で多くの人に愛されてきました。

 昭和の任侠映画のような雰囲気の本作ですが、実は物語の本筋に関わらない要素が充実していることでも知られています。特筆すべきは歓楽街の再現度の高さです。ゲーム内でいわゆるキャバクラやカラオケ、麻雀、パチスロ、ビリヤード、カジノなどが楽しめます。ミニゲームながらもそのクオリティは非常に高く、メインストーリーそっちのけでハマってしまう人もいるようです。

 その解像度の高さから、相当、現場を知るために通い詰めたのではないかと邪推してしまうほどです。釣りゲームやゴルフゲームなども、実際の釣りやゴルフを嗜むことはゲーム開発の経費(取材費でしょうか)として計上できるでしょう。「もしかしたらそれが目的では!?」と思わせてくれるほど、『龍が如く』に再現された歓楽街は本気を感じる作り込みで、そしてそれが本作の魅力のひとつです。

 メインストーリーや喧嘩バトルを楽しむだけでなく、本作を歓楽街シミュレーターとして遊んでいる人も多いでしょう。『龍が如く』シリーズには熱い男の魂と遊び心が込められています。

『ガールズRPG シンデレライフ』(レベルファイブ)

「もてなす側」を体験できるゲームも

●『バニーガーデン』

 2024年4月末現在において、大物VTuberがこぞってゲーム実況していることで知られる『バニーガーデン』(qureate)は、Nintendo SwitchおよびSteam向けのゲームです。公式ホームページの記述によると「お紳士の憩いの場『バニーガーデン』に通い、お店で働くキャストと恋愛を育む恋愛アドベンチャーゲーム」といいます。

 プレイヤーはバニーガーデンに足繁く通い、意中のキャストに好意を持ってもらえるようおしゃべりし、お酒やおつまみを頼むなどして散財します。どのキャストとどれだけ接点を持ったか、そのためにどれだけお金を使ったのかによってエンディングが変化するのが特徴です。

 また各キャストとの個別エンディングだけでなく、好意を持たれようと借金を重ねて通い詰めた挙げ句、家に怖い人がやってきて漁船に乗る羽目になったり、逆に通わなすぎて店が潰れたりするエンディングを迎えることもあります。

 1994年にリリースされた恋愛シミュレーションゲームの金字塔『ときめきメモリアル』などと比べると、お金の要素が絡むため大人向けで世知辛く、そこが本作独自の魅力です。女の子のいるお店に通って疑似恋愛を本物にしようとする恋愛シミュレーションゲームを、視聴者と疑似恋愛めいた関係性を築いている美少女VTuberたちが実況する入れ子構造は、自己言及的で極めて複雑だといえるでしょう。

 制作者は「お紳士の憩いの場」にかなり通い詰めたのでは、と思わせるほどの名作です。

●『ガールズRPG シンデレライフ』

『バニーガーデン』とは逆の視点で楽しめるのが、『イナズマイレブン』や『レイトン教授』などで知られるレベルファイブから、ニンテンドー3DS向けに発売された『ガールズRPG シンデレライフ』です。本作でプレイヤーは「ネオ銀座」の「お店」に勤める「ネオジェンヌ」となって、さまざまな客をもてなします。

 本作には、幸せを運ぶ蝶「ハッピーバタフライ」を巡るメインシナリオがあります。特定の客との恋愛を成就させることが目的の作品ではありませんが、接客の質を上げるためにジムやエステに通って自分磨きをしたり、ドレスや髪型、イヤリングやポーチなどの服飾品にも気を配ったりする必要があります。

 また癖のある客が来店することもあるので、会話の選択肢をうまく選んで対処するといった、客としての立場からは見えないキャストの努力が垣間見えるのが特徴です。制作者はきっと取材を重ねたに違いありません。

 お店には「コラボ客」として『笑うセールスマン』の「喪黒福造」や『グラップラー刃牙』の「範馬勇次郎」、『美少女戦士セーラームーン』の「タキシード仮面」などが来店することもあります。各作品のファンにとっては気になる要素ですね。

●制作者が楽しめるテーマだから名作になる!?

 コンピュータゲームの本質はインタラクティブ性をともなう疑似体験です。ゲームのなかでプレイヤーは勇者になったり、特殊部隊員になったり、帝国の支配者になったりして、その役割を楽しみます。制作者はリアリティを求めて多くの資料をリサーチしたり、経験者にヒアリングしたり、実際に銃を撃つため海外に取材に行ったりします。

 従って、舞台となる「場」の臨場感を高めてゲームのクオリティアップに貢献するためには、制作者自身がそうした「場」に通ってみるのが一番ということになります。そこに「紳士の憩いの場に行きたい」「銃を撃ってみたい」といった隠れた動機が存在するかもしれませんが、愛着を持っているテーマだからこそ細部まで作り込まれて名作になるといえます。

 クリエイティブな活動において、目的と手段は相補的な関係なのかもしれません。