奈良県大和高田市を拠点に、猫の保護やTNR活動を行う団体、たかだ地域猫ネットワーク(以下、たかだ地域猫)。

2021年のある日、たかだ地域猫と大和高田市が協働でTNRを行いました。このエリアでの捕獲を終えた後、たかだ地域猫のスタッフが現場から去ろうとしたところ、民家の塀の上や庭で複数の猫がお昼寝をしている様子が目に入りました。

この猫たちは、「この民家の飼い猫」というわけではなさそうで、地域猫として民家に訪れているようでした。心配に思ったスタッフは、迷わずこの民家のチャイムを鳴らしました。

民家の家主が子猫の世話をしていた

民家の家主さんに聞くと、塀や庭でくつろいでいる猫たちは地域猫とのこと。民家にやった時にエサを与えると、しょっちゅう来るようになったそう。そして、このうちの数匹は家主さんが動物病院へと連れていき、去勢避妊の手術を済ませたとも。しかし、去勢避妊の手術が終わっていない他の猫たちが、産んだ子猫を連れてくることが多く困っていると言います。

生まれて間もない子猫たちは体調が心配なので家の中で過ごさせているとも言い、その子猫たちをスタッフに見せてくれました。3匹のうちの1匹は特に体調がすぐれない様子。家主さんは「猫風邪ではないか」とも言います。

スタッフは子猫たちを保護することにしました。まずは健康な子猫2匹を先に保護することにし、猫風邪の疑いがある子猫は家主さんにケアを依頼しました。しかし、猫風邪疑いの子猫は一向に体調が良くならない様子。たかだ地域猫と懇意の動物看護師さんに依頼し、この猫も預かってもらうことにしました。

猫の名は「タラミちゃん」。後に猫エイズウイルスに感染していたことがわかりました。

里親希望者が限られるのが現実

猫エイズウイルスの正式名称は「猫免疫不全ウイルス感染症」または「猫後天性免疫不全症候群」。FIVというウイルスが原因で猫が免疫不全になる感染症の一つで、人間にとってのHIVとよく似たウイルス構造を持っているので、猫エイズと呼ばれています。

猫エイズは猫同士で感染する病気で人間には感染しません。また、FIVに感染しているだけで発症していない状態も多く元気に過ごしている猫もいます。しかし、健康な保護猫に比べ、里親希望者さんが限られてしまうのも現実です。

それでもスタッフはタラミちゃんの幸せを願い、里親募集をかけました。タラミちゃんのかわいい姿をブログなどで発信すると、閲覧者の間ですぐに人気者となりましたが、良縁には恵まれませんでした。

「『家族』として一生お世話します」

タラミちゃんを保護してから3年が経とうとしていました。たかだ地域猫のスタッフはこの長い期間、動物看護師さんに預け続けていることを心苦しく思いましたが、なんとここに来て、この動物看護師さんが「タラミちゃんは、私の『家族』として一生お世話します」と言ってくれました。

スタッフは、3年近くタラミちゃんが住み続けた動物看護師さんの家が「ずっとのお家」になることはこの上なく幸せなことだと思いました。一方、動物看護師さんにお世話をかけさせてしまったことを心苦しくも思い、諸手を挙げて喜ぶこともできず複雑な気持ちにかられました。

当のタラミちゃんは、この家の先住猫たちとも仲良しになり楽しそうに過ごしています。動物看護師さんもこんなタラミちゃんの様子を見て「家猫宣言」をしてくれたのかもしれません。

たかだ地域猫ネットワーク
https://takadaneko.hp.peraichi.com/

(まいどなニュース特約・松田 義人)