2018年1月、動物愛護センターにゴールデン・レトリーバーの容姿の子犬がいました。後につけられた名前は「フォール」。ゴールデン・レトリーバー風ですが、元野犬で月齢は3カ月ほど。

フォールを引き出したピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)はすぐに里親募集を開始。問い合わせが相次ぎ、最も合いそうな里親希望者さんの元でトライアルが決まりました。ところが、この里親希望者さんが体調を崩してしまい、トライアルは中止に。「今は体調が悪いけど、回復したら必ずフォールを迎え入れたい」とまで言ってくれたので、ピースワンコはフォールの里親募集を見送りました。

それから数カ月。子犬だったフォールはすっかり成長し、自我も芽生えはじめるとともにビビリな性格が露呈するように。

里親希望者さんとのトライアルは10カ月先に…

フォールが生後10カ月ほどの頃、ようやくあの里親希望者さんの体調が回復。トライアルがやっと実現しました。

しかし、すっかりビビリ犬になってしまったフォール。里親希望者さんの家では、部屋の隅にジッと固まり1歩も動くことができませんでした。里親希望者さんは根をあげることとなり、フォールは戻されました。

新人スタッフがフォールの世話役を買って出た

戻ってきたフォールは、ちょうど同時期に入職した新人スタッフの目にとまり、彼女の世話を受けることになりました。

スタッフは自らの家にフォールを迎え入れ、「環境馴れ訓練」を実施することにしましたが、当のフォールはあのトライアルの記憶があるのか、車に乗せようとしただけで拒絶し大暴れ。さらになんとかして家に連れて帰っても、トライアルのときのように部屋の隅っこにジッと固まり動きません。

スタッフはしばし考えました。最適な手段かどうかはわからないものの、まずスタッフ自身やその環境が「悪いものではない」ことを理解してもらうために、夜はフォールと一緒に寝ることに決めました。

心を開かないフォールを「家族」に迎え入れることに

それでもフォールはなかなかスタッフに心を開きませんでした。

しかし、今度は世話し続けた新人スタッフが、ツレないそぶりにフォールに情が湧いてしまい、4カ月後には「家族になる」として自身が迎え入れることになりました。

迎え入れることが決まった後も、相変わらずの塩対応。それでもスタッフはフォールのペースを最優先に慌てず接し続けました。トレーニングを始めたのは、家に迎え入れてから1年が経過した頃。スタッフの根気強く、そしてたっぷりの愛情を受け取ったフォールは、心を開き、自ら部屋の中を歩きまわるようになりました。

ビビリな性格は相変わらずですが、ここまでの成長を遂げることができたのは、スタッフの根気強いコミュニケーションがあったからこそです。

「心を開かせるのは数日単位ではなく、年単位で」

保護犬をめぐって「ビビリのワンコの警戒心をなくすためにすべきことは?」といった声がよく上がります。そんな声に対しスタッフはこう語ってくれました。

「怖がりなワンコには、とにかくできるだけ多くの時間をかけ、辛抱強く待ってあげることが必要です。数日とか月単位ではなく、年単位で。特に元野犬を迎えようとする方はこれだけの覚悟をもってください。時間はかかりますが、根気強くたっぷりの愛情を注げば、いつか必ずワンコは心を開いてくれると思いますよ」

(まいどなニュース特約・松田 義人)