変形性股関節症は、股関節に強い圧力がかかり軟骨が摩耗し骨が変形する病気です。脚の付け根の痛みや違和感、歩行困難などが見られ、日常生活にも影響を及ぼします。今回は日本人工関節学会認定医の大嶋浩文先生にお話を伺いました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年3月号に掲載の情報です。
2403_P070-071_01.jpg
どんな病気?
・股関節に強い圧力がかかって軟骨がすり減り、骨が変形する病気。
・原因は、生活習慣、骨の形成不全、遺伝など。
・主な症状は、脚の付け根の違和感や痛み、歩きにくい、あぐらをかくのがつらい、O脚やX脚になる...など。

脚の付け根の痛みが骨の変形のサイン
春の到来ももうすぐ。
暖かくなると外出する機会も増えますが、歩き始めるときに「脚の付け根が痛い」と思うことがあるかもしれません。
歩いているうちに痛みが和らぐと、そのままにしてしまいがちですが、しばらくすると歩くのもつらくなるほどの痛みとなることがあります。
その原因の一つが「変形性股関節症」です。
太ももと骨盤をつなぐ股関節の骨が変形し、痛みを引き起こします。
「股関節は、太ももの骨の先のボールのような『大腿骨頭(だいたいこっとう)』が、受け皿となるお椀のような『寛骨臼(かんこつきゅう)』にはまってスムーズに動いています。股関節が不安定な状態で負荷がかかると、関節のクッションの役割をもつ軟骨がすり減り、大腿骨頭と寛骨臼が直接ぶつかって骨が変形し、痛みや歩行困難などの症状を引き起こします」と、大嶋浩文先生。
変形性股関節症の早期段階では、いすから立ち上がって歩き始めるときなど、股関節に負荷がかかったときに痛みを感じます。
進行すると、歩行中ずっと痛みが走り、靴下をはくことや正座なども困難になります。
さらに骨の変形が進むと、就寝中も痛みが続きます。
また、立ったときに脚の付け根を伸ばせなくなり、直立の姿勢を維持できず、体が曲がった状態になって元に戻らなくなることもあります。
「股関節の変形は、加齢なども関係しますが、患者さんの約9割は『寛骨臼形成不全』や、乳児期の『発育性股関節形成不全』による骨の変形に関係しています」と、大嶋先生は説明します。
寛骨臼形成不全は、本来はお椀のような形に形成されるはずの寛骨臼が、浅いお皿のような形で成長が止まる状態です。
大腿骨頭に負荷がかかるようになり、これが長く続くと骨が変形します。
発育性股関節形成不全は、生まれながら遺伝的に、または成長の過程で股関節が正常の位置からずれた「亜脱臼」の状態になっており、適切な治療を受けないと、中年期以降に変形性股関節症を発症する確率が高くなります。


症状の進み方
<正常>

2403_P070-071_02.jpg
<進行期>
2403_P070-071_03.jpg
<末期>
2403_P070-071_04.jpg・一次性 変形性股関節症:股関節への負荷により発症するもの→肥満の欧米人に多い
・二次性 変形性股関節症:寛骨臼形成不全、発育性股関節形成不全により発症するもの→日本人に多い(約9割)

股関節にかかる負荷はひざの痛みの原因にも
「寛骨臼形成不全のような原因により発症する変形性股関節症を『二次性』といいます。日本人はこの二次性が圧倒的に多く、欧米人は、通常の股関節への負荷により発症する『一次性』の人が多く見られます。股関節には体重の3〜5倍の負荷がかかりますが、欧米人は肥満の人が多く、寛骨臼形成不全などがなくても、体重によって股関節が変形しやすいのです」と、大嶋先生。
日本人は二次性の変形性股関節症の人が多いとはいっても、体重が増えることも骨の変形の原因になります。
例えば、体重が5kg増えると、股関節には15〜25kgもの負荷が増すようになります。
そもそも女性の筋肉量は、男性と比べて少ない上、運動不足の場合はさらに減ります。
その状態で体重が増えると、股関節に大きな負荷をかけてしまいます。
加えて、ひざに悪影響を及ぼすことも。
「変形性股関節症により関節の可動域が狭くなると、O脚やX脚になることがあります。そのまま歩き続けるとひざにダメージを与え、変形性膝関節症の根本的な原因となります。実際、ひざ痛で受診した患者さんの骨を検査したら、変形性股関節症だったというケースも珍しくはありません」と、大嶋先生は話します。

手術を怖がらず早めに適切な治療を
予防や初期の治療において、大切な点は二つあります。
一つは運動を習慣化して股関節を支える脚の筋肉量を増やすこと、もう一つは股関節への負荷を減らす生活を送ることです。
これにより骨への負担が軽減されます。
「基本はこの二つですが、骨の変形が進行して歩くこともできず、日常生活に支障が生じている場合は、手術が選択肢となります。人工関節置換術など、近年、その素材や技術は格段に進歩しています」と、大嶋先生。
2019年には、ロボットを使った人工関節置換術も保険の適用となりました。
その精度はより向上し、使用する人工関節は新素材の登場によって耐久性が高まっており、術後の患者の満足度が非常に高い治療法となっています。
「『手術は怖いから』と痛みや歩きにくさを我慢して症状を進行させる前に、整形外科を受診しましょう。股関節の状態を知った上で、自分に合った治療法を医師と選択することをおすすめします」
構成/岡田知子(BLOOM) 取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史




NTT 東日本関東病院  人工関節センター  センター長
大嶋浩文(おおしま・ひろふみ)先生

2004年、弘前大学医学部卒。JR東京総合病院や東京大学医学部附属病院などを経て18年より現職。日本人工関節学会認定医、ロボティックアーム支援人工股関節置換術指導者などの資格を有し、数多くの治療を行う。