毎年2月から3月にかけて、大手企業の労働組合がその年の春闘に向けて、企業側に賃上げ・待遇改善を求める要求書を提出するのが慣例です。2024年も2月14日、自動車大手各社の労働組合が賃上げを求める要求書を提出し、その内容に注目が集まっています。 今回は自動車産業をはじめ、主要産業でどのような要求書が労働組合から出されたのかをご紹介します。

自動車産業では過去最高水準の賃上げを要求各産業における賃上げ要求の動向実質賃金は改善できるかまとめ

自動車産業では過去最高水準の賃上げを要求

2月14日時点、自動車大手各社の労働組合が賃上げを柱とする要求書を提出しました。その内容は以下の通りです。


・ トヨタ自動車
ベースアップと定期昇給を合算して1人当たり月7,940〜2万8,440円の賃上げを要求。一時金(ボーナス等)の要求額は7.6カ月分となり、1999年以降で最高の賃上げ要求。


・ 日産自動車
ベースアップと定期昇給の合計で月1万8,000円、の賃上げを要求。賃上げ率は約5%。一時金の要求額は5.8カ月分となった。


・ ホンダ
ベースアップと定期昇給の合計は月2万円での賃上げを要求。賃上げ率は5%強。一時金の要求額は7.1カ月分。1992年以来の最高水準の賃上げ要求。


・ マツダ
ベースアップと定期昇給の合計で1万6,000円の賃上げを要求。賃上げ率は約5%。一時金の要求額は5.6カ月分。


・ 三菱自動車
ベースアップと定期昇給の合計で2万円の賃上げを要求。賃上げ率は約6%。一時金の要求額は6.3カ月分。


・ スズキ
ベースアップと定期昇給の合計で2万1,000円の賃上げを要求。一時金の要求額は6.2カ月分で前年と比較して0.4カ月分引き上げ。


・ SUBARU
ベースアップと定期昇給の合計で1万8,300円の賃上げを要求。賃上げ率は5%強。一時金の要求額は6カ月分。


・ ダイハツ
ベースアップの要求はせず、一時金の要求額は5.0カ月分。


軒並み過去最高の水準の賃上げを要求しています。現在、物価高が家計を圧迫するとして問題視されていますが、自動車産業は、円安が追い風となり業績は好調といえるでしょう。業績好調により、日用品・食料品の物価高に十分見合うだけの賃上げを求めているといえます。
なお、ホンダ、マツダについては3月中旬の集中回答日を待たずして満額回答をしています。

各産業における賃上げ要求の動向

自動車産業の各社の労働組合が加盟する全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)は、すべての組合において目標とする賃金水準を実現すると表明しています。こうした傾向は自動車産業以外の業界でも同様です。基本的に2023年をさらに上回る積極的な賃上げ要求を行っています。
主な業界の動きは以下の通りです。


・全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会(電機連合)
ベースアップを月1万3,000円以上、ベースアップと賃金体系維持分を合わせて約2万円の賃上げ要求。


・全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)
4%アップの賃上げ要求。


・日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)
ベースアップを月1万2,000円以上要求。


・ものづくり産業労働組合(JAM)
賃金構造維持分を確保した上で、ベースアップを月1万2,000円基準で要求。


・全日本電線関連産業労働組合連合会(全電線)
賃金構造維持分を確保した上で、ベースアップを月1万円以上要求。


どの業界も、高い水準のベースアップを要求しています。2023年はバブル崩壊以降、最も高い水準での賃上げが実現しましたが、それをさらに上回る賃上げ要求です。

実質賃金は改善できるか

春闘を見る上でポイントとなるのは、実質賃金が上がるかどうかです。
実質賃金とは、労働者が受け取る額面上の名目賃金から、物価上昇分を差し引いた金額のことです。つまり、たとえば名目賃金が前年比5%上がったとしても、物価上昇が5%以上であれば、実質賃金は前年比マイナスとなります。もし実質賃金がマイナスになれば、労働者の購買力(財・サービスを購入できる量)は低下し、生活状況はより苦しくなることに直結するのです。


ここのところは実質賃金のマイナスが続いており、2022年4月から2年弱マイナスで推移しています。月単位で見ると、2023年の1月には前年同月比マイナス4%台にまでなり、その後もマイナス2〜3%台で推移しています。


物価の上昇に賃金が追いついていない状況が続いているということは、「前の年よりも商品・サービスを買える量が減り続けている」状態が続いていることを意味します。こうした状態が続けば、国民生活はどんどん貧しくなってしまいます。


各社の賃金アップと動向も気になるところですが、実質賃金の改善により、どれだけ生活状況が明るくなる賃上げを実現できるかという点も、2024年春闘における注目ポイントといえるでしょう。

まとめ

名目賃金が上がっても実質賃金が上がらなければ、真の賃上げとはいいきれません。実質賃金がマイナスであれば、月給・賞与の額面だけを見て「去年よりも収入が増えた」と思っても、その収入で買えるものの総量は去年よりも減ってしまいます。
とくに製品を海外に輸出して販売している企業の多くは、円安により業績が向上しています。社員は会社の業績に伴った賃上げを期待しているでしょう。