利便性評価の新提案

 最近、京葉線の「通勤時間帯の快速系統廃止問題」が鉄道行政を騒がせている。

 快速列車の運行や停車駅については、特に神奈川県鉄道輸送力増強促進会議のように、国から市町村まで鉄道ダイヤの本当の専門家がいない場合、自治体が鉄道事業者に意見をいう傾向がある。

 列車接続で解決できる問題なのに、やみくもに増便や停車駅の増設を求め、混雑の偏重を考慮せず、快速の設定や復活を求めている。

 では、本当に便利でよい路線とは何かを考えるには、どのような視点が必要なのだろうか。本稿では、路線の利便性を

「有効本数」

で見ることをひとつの指標として提案し、いくつかの路線の事例を紹介する。なお、現行ダイヤは2024年3月改正時点のダイヤに基づいている。

東急田園都市線(画像:写真AC)

友人からの教え

 有効本数とは

「ある目的地に行くのに、追い抜きや接続を考慮した上で、実質的に使える列車の本数」

のことだ。10年ほど前に某大手電鉄会社に勤務する友人が、当時の東急田園都市線の日中ダイヤが不便だったことについて、この考え方を用いて筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)に語ってくれた。

 その当時、田園都市線長津田駅発の日中の上り列車は1時間あたり急行4本、各駅停車8本の運転だった。本数だけ見れば12本もあるため便利そうに見える。しかし、当時の各駅停車は必ず途中の鷺沼、または桜新町で後続の急行に抜かれるため、最速で渋谷に行こうとすれば鷺沼か二子玉川で急行に乗り換える必要があった。

 つまり、次の各駅停車に乗っても、結局は

「後続の急行に乗り換える」

ことになる。それなら長津田で次の急行を待っても到着時間は変わらない。ということは、実際には長津田から渋谷へ行くのに使える列車は1時間に4本の急行しかないことになる。この4本を友人は「有効本数」という言葉を使って表現していた。

 その後のダイヤ改正で、東急は大井町線直通急行(途中の二子玉川で渋谷方面行きの各駅停車に接続)を毎時2本新設。従来は朝の上り限定だった準急(長津田〜二子玉川間のみ急行運転)も毎時2本設定した。

 これによって、渋谷への有効本数は毎時8本まで増えた。長津田駅発の運行本数は毎時12本から毎時16本へと1.25倍に増えているが、実際の運行本数に対する有効本数の比率は33%から50%へと1.5倍に増えた。

 また、従来は停車本数が毎時8本なのに対して有効本数は4本しかなかった途中の急行通過駅も、すべての各駅停車から同じ途中駅で急行系列車に乗り継げるようになったことで、有効本数比率は100%になった。各駅停車と急行系列車の本数の比率が1対1になったからである。

 これらの改善は、単純に列車本数を増やした以上の効果を生んだことになるのではないだろうか。なお、現在はコロナ禍でダイヤを見直し、1時間あたりの本数も内訳も変わっているが、最大毎時9本の有効本数を確保しているようだ。

中央線(画像:写真AC)

運行本数増やさずに有効本数増やした「中央線」

 このように、実際に利用する上では運転本数以上に重要なのが有効本数だ。そして、運転本数を増やすことなく有効本数を増やすことも可能である。その例がJR中央線だ。

 かつて中央線の立川以西の区間は、運転本数の割に有効本数が少なかった。

 例えば土休日の豊田駅上り12時台は10本と都心の地下鉄並みだったが、このうち6本は中野へ着くまでの間に後続の特快に抜かされる列車であり、中野より先を目的地とする人にとっての有効本数は特快3本と、立川で青梅線から来る特快に接続する快速1本の計4本しかなかった。ということは

「平均15分間隔でしか電車が来ない」

のと同じだ。

 しかし2013(平成25)年3月のダイヤ改正により、日中1時間あたりの特快の本数が平日は5本、土休日は6本まで増えた。既存の快速の一部を特快に置き換える形での増発で、運転本数は変わってはいない(むしろ若干減った)が、立川以西の有効本数は大幅に増えた。土休日の豊田駅上り日中帯で比較すると、本数自体は1時間に9本に減ったものの、有効本数は特快4本と、立川で青梅線から来る特快に接続する快速2本の計6本まで増えたのだ。

 これで、都心部へ行く人にとっては平均10分間隔で電車が来るのと同等の利便性にまで改善されたことになる。時刻表上の停車本数が多い駅が必ずしも便利な駅ではないことを示すビフォーアフターの好例である。

常磐線(画像:写真AC)

特別快速新設で有効本数減らした「常磐線」

 一方、中央線と逆に、運行本数は変わらないものの、種別が変わったことで有効本数が減ってしまったのが常磐線だ。

 2005(平成17)年7月、JR東日本は同年8月開業のつくばエクスプレスに対抗するため、常磐線の日中の上野〜土浦間に特別快速を新設した。当時、茨城県内の取手〜土浦間では上野行き快速列車が毎時4本運転されており、このうちの1本が特別快速に置き換えられた。だが特快があまりにも速過ぎてしまい、先行の15分前に出た快速まで抜かしてしまうこととなり、有効本数は3本に減少した。

 当時の土浦駅上りの時刻を見ると、毎時00分発の特快、14分・30分・45分発の快速が設定され、ほぼ15分間隔の発車となっていた。だが、45分発の快速は佐貫で特急の通過待ちを行うため後続の特快との差が9分に縮まり、さらに取手から先、特快の止まらない天王台、我孫子に停車して3分差まで追い上げられ、最終的には北千住で特快に抜かれる。

 ということは、土浦駅の利用者にとって日暮里より先の都心を目的地とする場合の有効本数は毎時00分発の特快、14分・30分発の快速の3本のみとなり、30分発を逃すと事実上、次の特快まで30分待つことになっていたのだ。

 これに対し、並行するつくばエクスプレスの場合、茨城県内の快速通過駅に止まる列車は日中1時間あたり区間快速2本、守谷で快速に接続する普通列車2本の計4本で常磐線と同じだが、快速に追い抜かれる区間快速はないので、この4本がまるまる有効本数となる。常磐線は有効本数ではかえってライバルに劣る結果となってしまったのだ。

 その後のコロナ禍でのダイヤ見直しにより、土浦〜取手間の常磐線では特別快速を減便し、快速をすべて品川まで延長して毎時3本、おおむね20分間隔の運転に均等化した。減便してもすべて有効本数となり、有効列車間の運転間隔均等化が実現されたことを考えれば、かえってこの方が便利といえる。

東西線(画像:写真AC)

有効列車同士の間隔が偏る「東西線」

 有効本数が多くても、有効列車同士の運転間隔が極端に偏る事例が、速達列車設定路線にはよく見られる。最もわかりやすいのが東京メトロ東西線だ。

 日中の東西線の西船橋駅の時刻表を見ると、1時間に4本の快速と、快速の発車1分後に出る各駅停車A(終点まで先着)が4本、快速の発車8分後に出る各駅停車B(葛西で次の快速の通過待ち)の計12本の構成になっている。

 このうち大手町など都心へ先着するのは快速と、その1分後に出る各駅停車Aなので、有効本数は毎時8本と多く見える。ただしこれら有効列車のみを抽出して運転間隔を見ると1〜14分間隔とかなりいびつで、これなら実質15分おきしか電車が来ない駅と同じだとの意見も多い。

 これは各駅停車8本に対し快速が4本しかなく、乗る各駅停車によって追い抜きがあったりなかったりすることによって生じたものであり、快速も8本にするか、各駅停車も快速も6本ずつにするなどで、本数の比率を1対1にしていたら、有効列車の間隔は7分30秒か10分に固定され、偏りは解消されるだろう。

 有効列車の運転間隔に極端な偏りが生じる場合、例えば

・快速発車直後の各駅停車は有効列車としてカウントすべきか排除すべきか
・排除するとしたら何分以上後から発車する列車から、有効本数としてのカウント対象にすべきか

といった議論は必要になってくるだろう。

有効本数と有効列車の間隔の説明(画像:北村幸太郎)

全部各駅停車にすれば有効本数率100%の“愚策”

 では、昨今話題になっている京葉線はどうすればよいか。

 京葉線ではラッシュ時の快速をすべて各駅停車にした。全部各駅停車にすれば有効本数は最大化されるし、有効列車同士の間隔も均一化できて混雑偏重をなくせる。これ自体は何の間違いもないのだが、速達性を犠牲にし、沿線価値の低下を招く。他線区では速達サービスをやりつつ混雑バランスを取っており、全部各駅停車にすればいいというのは

「愚策」

といえる。では、どうバランスを取るのがいいのか。

 京葉線の場合、何も考えずに元々あった4本だけ通勤快速を復活して、千葉市長がいうように海浜幕張に止めると、海浜幕張だけでなく新浦安などで追い抜く各駅停車の利用者まで一部の通勤快速に利用が集中して混み過ぎてしまう。

 また、新浦安などで通勤快速に抜かされる各駅停車(左図灰色の線)の後に海浜幕張で通勤快速の待ち合わせがある各駅停車があったりすると、どちらに乗っても同じ通勤快速に乗ることになり、新浦安で抜かされる列車は東京へ行く人にとっては実質的に使えない列車(有効でない列車)となってしまい、検見川浜や稲毛海岸駅利用者にとっては有効列車だけで見ると間隔が大きく広がってしまう。

 こういった問題を考慮してあるべきダイヤの姿を考える必要があるが、JRの快速設定のやり方には残念ながらこの発想はない(私鉄では常識なのだが)。

京葉線の理想ダイヤ案。朝夕ラッシュ編5(特急追放ダイヤ)(画像:北村幸太郎)

求められる混雑偏重の防止

 対策としては各駅停車と通勤快速の本数の比率を1対1とし、東京先着列車(有効列車)の間隔を統一することにより、混雑偏重を防ぐことだ。

 具体的には、朝ラッシュ時は7分30秒に通勤快速1本、各駅停車1本、武蔵野線1本のサイクルにするのが望ましい。夕ラッシュ時はこれを10分のサイクルで同じ本数にする。これなら市川塩浜〜越中島駅は、朝は2分30秒〜5分間隔、夕方は4〜6分間隔と、通勤快速運転をしながらでもかなり整ったダイヤになる。

 そして特急は総武快速線に押し付けて追放しよう。京葉線内無停車で何の恩恵もなく、追い抜きで通勤電車の運転間隔を乱すだけの特急は、今からでも線路にまだ余裕がある総武快速線に押し付けるか、グリーン車を連結している総武快速線列車の一部を勝浦へ延長したり、君津行きを増やしたりするなどして、特急の代替とすることを考えたほうがいい。本案の通勤快速は特急追放で空いたダイヤ枠も活用する。

 このようなダイヤにすると、どのタイミングで乗っても有効列車同士の間隔が均等化され、混雑の偏重なく速達サービスが提供できる。

通勤快速復活後の所要時間の変化。伊藤市議作成のグラフ。「通勤快速復活後」のピンクと赤の線は筆者追記(画像:北村幸太郎)

「快速のせい」はデタラメ

 千葉市議会議員の伊藤隆広氏は、住民向けの議会報告会で

「夕方ラッシュ時の東京駅ホームに着いた時間(1分単位)から千葉みなと駅に着くまでの時間」

をギザギザ状のグラフにしたものを公開した。

 東京駅ホームに着いた時間からにしているのは、発車時刻までホームや車内で待つ時間も考慮するということである。1本前の列車にギリギリ乗り遅れてしまい、ホームでの待ち時間が最大になった人から、発車間際にホームに着いて乗車が間に合い、ホームでの待ち時間ゼロの人の場合まで測ることができる。

 これによると快速廃止前の所要時間の最大は65分、最小は39分で、平均51分だった。一方快速廃止後は、最大は63分、最小は46分で、平均53.3分となり、平均時間の延伸は2分と限定的で、最大と最小の幅は26分から17分へと縮んだ。これだけ見ると

「JRの狙い通り」

とも見られる。だが速達列車があってももっと平均時間も最大最小の幅も小さい結果を出すことはできる。前述の10分間に通勤快速1本(海浜幕張で各駅停車に連絡)、各駅停車1本、武蔵野線1本のサイクルのダイヤを作って筆者が試算しグラフに追記してみたところ、最大は48分、最小は39分、平均は43.5分と10分も短縮。最大最小幅も9分にまで、さらなる圧縮ができた。

 JRのいう混雑偏重や各駅停車の運転間隔の偏りは

「快速のせい」

であるという説明はデタラメということだ。逆に速達列車の設定をやみくもにやるのではなく、キチンとパターン化したダイヤでやれば、利便性は高まるということである。

自治体へのメッセージ

 いかがだっただろうか。

 自治体の皆さんにおかれては、速達列車に関する鉄道事業者への要望案を作るにあたって、本稿で紹介した「有効本数」と「有効列車間の運転間隔」も検討材料のひとつになれば幸いである。

 もし快速の設定が中途半端と感じるなら、多少、各駅停車の減便になったとしても、快速と各駅停車の本数が1対1になるような形にするよう要望すべきだ。

 速達列車の設定と有効本数の最大化は必ずセットで考えなければならない(追い抜きがある線区の場合、快速停車駅では50%、快速通過駅では100%が有効本数率の最大値になる)。