能登半島地震では下水道管の破損が相次ぎ、生活の再建に支障が出ている。下水道は衛生的な環境の確保に必要なインフラだが、鹿児島県内の自治体では携わる職員数が減少傾向だ。2023年度は「平成の大合併」が本格化する前の05年度から10%以上減った。管の老朽化も進み、災害対応への影響が懸念される。職員の技能向上や全国的な応援体制の構築が課題だ。

 4月25日、鹿児島市薬師2丁目の歩道で、亀裂が入った陶製の下水管1.2メートル分を塩化ビニール製に交換する市水道局の工事が行われていた。陶管は、深さ約1.6メートルの地中に1973(昭和48)年に設置され、耐用年数の50年を超える。

 業者6人がかりの作業に立ち会った下水道管路課の若手技師、平原綾大さん(22)は「現場に出ないと工法や材料の細かいことは分からない。日頃の維持管理で、知識や経験をもっと積みたい」と話した。

■民間委託メイン

 工事に限らず、点検や清掃といった場面で実働を担うのは委託業者だ。県内で最も早い52年に下水道事業に乗り出した同市では「当時はそもそも専門業者がおらず、職員の手で設置していた」。外注化が進み、95年に整備を始めた薩摩川内市は「下水管が詰まるなどトラブルがあった際に職員が中を見る」と説明する。

 立ち会いや路面陥没を警戒する目視チェックはあるものの、日常業務の大きな柱は発注や調整といった役所での作業。平成後半の行政改革も職務環境が変化する一因となった。

 総務省調査によると、県内自治体の下水道に携わる職員数は2005年度に307人だったのが、23年度は272人に減少。新規採用の抑制などで、年齢層は40〜50代に偏りがちだ。複数の自治体関係者は「1人で担当できる工事には限りがある。職員数に見合う発注数にならざるを得ない」と明かす。

■老朽ラッシュ

 今後大きな課題となるのが、管路の寿命だ。重要な管路だけで約312キロを管理する鹿児島市の場合、新設のピークは1980年代後半で、耐用年数のラッシュは目前。他の自治体では平成に入ってからの着工が多数とはいえ、老朽化は避けられない。

 国土交通省のまとめによると、震度7程度を想定する現在の耐震基準を満たす下水道管路は、能登半島地震でも致命傷を負わなかった。県内の耐震化率は2022年3月末時点で52.3%(全国平均54.8%)。県生活排水対策室の綾織孝文室長は「まずはこれまで通りの計画的な耐震化を推進する」と話す。

 ただ、災害時は調査や復旧にマンパワーが必要だ。専門的な職員が減る中での対応は早々に限界が出かねない。鹿児島市の土木技師出身の湯浅慎太郎県議は技術職の人手不足を懸念し、「全国からの応援でカバーできる体制を国が政策として構築すべきだ」と提案した。



 下水道事業 人口密集地に向く汚水処理方式で、県内では鹿児島市など18市町が持つ。処理場につながる重要な管路の総延長は479キロ(2022年3月時点)。勾配をかけて流すため、利用者が最も多い鹿児島市の処理場近くの配管は深さ10メートルにあり、口径は2.4メートルに及ぶ。県内の汚水処理普及人口の43.5%が下水道で、合併浄化槽は38.5%(22年度末)。15.2%がくみ取り式など。県は将来的に下水道49.5%、合併浄化槽47.3%とする整備構想を進めている。