ネットバンキングの普及にともない、偽サイトへ誘導し、IDやパスワードを盗み出す「ネットバンキング泥棒」の被害が増えている。金融機関ももちろん対策をしているが、そのすき間をかいくぐってくるため、完全に被害をなくすのは難しい。

自分や家族が被害者にならないためにも、ネットバンキング泥棒の手口や対策を理解するのと同時に、普段から十分注意しておくことが大切だ。

それでは、もし自分が被害者になってしまったらどうすればいいのか?

今回は、ネットバンキング泥棒の手口や対策法、被害にあったときの補償について解説する。

■ネットバンキング泥棒が横行中!

近年、「ネットバンキング泥棒」が横行していることをご存じだろうか。ネットバンキング泥棒とは、偽のログインサイトに、メールやSMSであなたを誘導し本物そっくりな画面にIDやパスワードを入力させて情報を盗み出す、という犯罪だ。銀行側がインターネットバンキングの利用拡大を図る一方で、不正送金が急増している。

金融庁によると、令和4年8月下旬から9月にかけて被害が急増して以来、落ち着きを見せているが、令和5年2月以降、再度被害が急増している。

令和5年12月8日時点において、令和5年11月末における被害件数は5,147件、被害額は約80.1億円となり、いずれも過去最多を更新した。

■ワンタイムパスワードも安全ではない!

「ワンタイムパスワード」も安全でないことを認識しておくべきだ。ワンタイムパスワードは一度使用したら無効になるため、漏洩のリスクが低く、不正ログインを防ぎやすいというメリットがある。

しかし近年は、このワンタイムパスワードも狙われている。ワンタイムパスワードが送られたタイミングを見計らい、偽サイト上に誘導し、入力させるのだ。ユーザーの「ワンタイムパスワードは大丈夫」という心理をつく手口となっている。

■ネットバンキング泥棒に対策する方法は?

ネットバンキング泥棒の被害にあわないために最低限しておくべき対策を紹介する。

●メールやSMSのリンクからアクセスしたサイトにログインしない

ネットバンキング泥棒の手口であるフィッシング詐欺対策として最も有効な方法は、メールやSMSのリンクからアクセスしたサイトにログインしないことだ。あらかじめブックマークした公式サイトや、公式アプリを使ってアクセスすることをおすすめする。

●パソコンのソフトウェアやウイルス対策ソフトは最新状態に更新

パソコン上の基本ソフトは、常に最新状態に更新しておこう。古いままだと最新のウイルスやマルウェアを防げないことがあるからだ。Windowsの場合、自動更新プログラムを有効にしておく(デフォルトは自動)Macの場合、App Storeでアップデートの状況を確認するといった、ことで対策が可能だ。

●ネットバンキング口座の出金を定期的に確認

不正な送金があっても気が付かないと対応が遅れてしまう。定期的に取引明細を確認することも大切だ。前回ログイン日時と取引明細を確認し、もし心当たりのない送金があったらすぐに金融機関へ連絡する必要がある。

●パスワードの保存先に注意

パスワードの記録場所にも注意が必要だ。クラウド上にデータを保存するメモアプリやドキュメント、表計算ソフト、メールの下書きといった場所に記載しておくと、不正アクセスされる原因にもなってしまう。このような場所で保存しているなら、一刻も早くパスワードの変更をおすすめする。

■もし自分が被害者になったら補償される?

ネットバンキングは、預貯金の出金被害などを補償する預金者保護法の対象外だ。しかし、全国銀行協会は利用者に過失がなければ全額を補償する方針を示した。被害の多くは金融機関に補償される一方で、利用者に落ち度があれば減額されるケースもあるようだ。

金融庁が19〜22年度の金融機関の対応を調べたところ、利用者側に過失があったと判断された不正送金被害の8.2%は補償の対象にならなかった。

●減額されるケース

減額されるケースは金融機関により異なる。ここでは、実際に補償が全額ではなく減額された例を紹介する。

・銀行が複数回にわたって具体的に注意喚起した手口でIDやパスワードを入力してしまった
・警察や銀行をかたる者に安易にIDやパスワードを答えた
・IDやパスワードを記載した携帯電話や手帳をなくして不正利用された
・身に覚えのない引き出しがあったのにも関わらず銀行への通報を怠った
・パソコンの基本ソフト(OS)やウイルス対策ソフトを最新のものにしていなかった

■地道な対策がネットバンキング泥棒を回避する

横行するネットバンキング泥棒にいつ狙われるとも限らない。きちんと対策をしておくことが、大切な預金を守ることにつながるだろう。SMSのURLを安易に開かない、OSを最新にアップデートするなど地道な対策に思えるかもしれないが、抜けのないように対策しておくことが大切だ。

また、管理するネットバンキング口座が増えると対策がおろそかになりやすいため、活用するネットバンキング口座はできるだけ少なくしておくのがいいだろう。

文・勝目麻希(ファイナンシャル・プランナー)
新卒で総合職としてメガバンクに入行し、法人融資・金融商品販売等を担当。転職・結婚・出産を経て一時は専業主婦になったが、自分の金融知識や実務経験を活かしたいと独学でライターの道へ。現在はファイナンシャルプランナーの知識を活かして金融系メディアを中心に執筆。