大きな驚きを持って世界中を駆け巡ったトヨタ自動車の社長交代のニュース。そして新社長となった佐藤恒治氏に代わりレクサスインターナショナルの新しいプレジデントに就任したのが、RZのチーフエンジニアも務める渡辺氏である。(Motor Magazine 2023年6月号より)

「チームレクサス」のキャプテンとして新たなことにチャレンジ

千葉知充 Motor Magazine 編集長(以下千葉) レクサスの新プレジデント就任おめでとうございます。渡辺さんとはRZのチーフエンジニア(CE)として何度かお話していますがRZのCEは代わるのですか。

渡辺剛プレジデント(以下渡辺) RZのCEを兼任しながら全体も見ます。レクサスのプレジデントは商品開発も見るのが通常です。

千葉 内示は佐藤さんからですか。

渡辺 豊田前社長からです。

千葉 それは想定していましたか。

渡辺 まったく考えていませんでした。内示は、豊田会長が社長を退任する会見の翌日でした。金曜日の午前中に社長から話があるというので、木曜日の夕方に東京へ向かう新幹線の中で、『豊田社長退任、佐藤プレジデントが社長に』というニュースを見て、驚いてスマホを3度見くらいした。佐藤さんからもそんな気配はまったくなかったので、現実だと実感するのにしばらく時間がかかったほどです。

このタイミングで、社長に呼ばれているのはどんなことなんだろうと翌日、ドキドキしながら会いに行くと、佐藤さんもそこにいて、『昨日のニュース見たよね。レクサスのプレジデントは渡辺さんにお願いすることにした』と。

千葉 信じられないという気持ちだったのですね。

渡辺 ニュースを見て、何かあるだろうとは思っていたものの、自分がプレジデントになるとはまったく考えていなかったので正直、驚きました。CEとして1から開発を担当したRZを立ち上げたばかりだったので、これからはクルマづくりに今まで以上に没頭できるなと考えていた矢先でした。

千葉 今は落ち着いて「さあ、やろう」と前向きな気持ちに?

渡辺 そうですね。ここからがスタートだと思っていたので、もう少しCEとしてクルマづくりに没頭していたいという気持ちもあり、この1カ月ちょっと過ごしてきたというのが正直なところですが、これからはプレジデントとしてクルマづくりにどう向き合っていくかが課題です。

とは言えプレジデントの役割を果たす意味でも、CEの役割を全うすることが大事だと思うので、自分らしいクルマづくり、佐藤さんの言い方を借りると、「チームレクサスのキャプテン」として、新しいチャレンジを進めていきます。

「みんなを笑顔にするレクサスを作ってくれ」と言われました。

千葉 やると決めたときに、最初はなにをしようと考えましたか。

渡辺 豊田会長からは『皆を笑顔にするレクサスを作ってくれ』と言われました。それには多くの想いが込められていると思いますが、レクサスはクルマを中心に置きながら、モビリティカンパニーへの変革、ブランド変革を進めていますのでしっかりクルマと向き合いながら皆を笑顔にしたいと考えています。

千葉 期待されているのは、どのようなことだと思いますか。

渡辺 レクサスブランドでしか味わえない、やはりレクサスだよねと感じていただけるクルマづくりです。RZをイチから開発した渡辺という人間が、BEVの技術を使い、どうレクサスらしさを打ち出していくか。レクサスの未来みたいなものを知っていただくきっかけになればと思っています。

千葉 渡辺流の施策はありますか。

渡辺 これまでと違うことをやりたいとは思っていません。RZの開発のときも「何が新しいのか」、「今までにない変化は」なども議論しました。しかしクルマである以上、無理に変化を求めたり、パッケージにそぐわない新しいことをやるのではなく、お客様の求めることに見合った性能に作り上げることを考え、そうしてできたのがRZなんです。

今後もレクサスは、電動化をひとつの軸に置きながら、ブランドを高め、レクサスらしいクルマづくりを追求していきたい。具体的には、ひと目見てわかるデザイン、走ってタイヤが転がる瞬間に感じる乗り味です。これはレクサスの大切な軸として継承し、さらに進化させていきます。

千葉 下山に開発拠点ができることで、変化はありますか。

渡辺 カンパニーの一体化はできていましたが、ロケーションは分散しているので、下山に一堂に会して開発や実験や製造、営業までワンチームでクルマづくりができます。レクサスの本拠地として、すぐ横にテストコースがあるというのも大きいですね。現地現物で、設計から製造まで一貫でき、スピーディな決定やアジャイルにいろいろな改善が進んでいきます。

千葉 渡辺プレジデントの率いるレクサス、とても楽しみです。

(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:永元秀和)