本来は別々の世界観でつくられた作品を、共通する世界観で1本にまとめる“シェアード・ワールド”はここ10年ほどヒーロー映画の主流を占めている。それにしても、スーパーマンを筆頭にDCコミックスを代表する歴史あるヒーローたちが集まったジャスティス・リーグと、独立プロダクションが自主制作した「RWBY(ルビー)」の共演には誰もが驚いたことだろう。

■異色のコラボ!ジャスティス・リーグ×RWBYとは?

「RWBY」は2013年から制作会社ルースター・ティースが自社で配信してきたウェブアニメで、スピンオフ「RWBY 氷雪帝国」(22)が日本で制作されるなど、近年では横への広がりを見せている。DCヒーローたちとのコラボは2021年発表のコミック「RWBY/JUSTICE LEAGUE」に遡るが、今回の新作アニメ「ジャスティス・リーグxRWBY:スーパーヒーロー&ハンターズ」はコミックとは別に、新たに2つの世界の融合を試みている。スーパーマン、ワンダーウーマン、バットマンらが「RWBY」の世界へ飛ばされてくるのだが、彼らは大人ではなくティーンの姿となっているのだ。この大胆なアイデアのおかげで、「RWBY」の持ち味である飄々とした会話、ことに日本語版特有の若者言葉を多用した軽快なセリフまわしが存分に活かされ、全体に若々しく明朗快活なアニメに仕上がっている。

■複雑で多面的な「RWBY」には“声”の表現力が不可欠

「RWBY」の原語(英語)版は、ルースター・ティース内の制作スタッフが自らアフレコしていたが、2015年に日本語版パッケージを正式に商品化するにあたって、プロのボイス・キャストがキャスティングされた。翻訳スタッフはキャラクターたちの役割を深く理解し、実力重視で吹替キャストが揃えられた。主役4人の日本語版キャスティングについて簡単に触れておこう。

主人公のルビー・ローズは直情径行タイプのお転婆娘。「魔法科高校の劣等生」(14)「SPY×FAMILY」(22)など話題作に引っ張りだこの早見沙織が、いつも前向きなルビーを元気に演じている。ルビーの姉であるヤン・シャオロンは格闘戦が得意。「キルラキル」(13〜14)で纏流子を演じた小清水亜美が、包容力のあるヤンを堂々と演じている。ワイス・シュニーは、ルビーにライバル心を抱くプライドの高いお嬢様。「けいおん!」(09)の秋山澪、「世紀末オカルト学院」(10)の神代マヤなど、七色の声音でシリアスからコミカルまで幅広い役を演じ分ける日笠陽子が、ワイスの複雑な性格を丁寧に表現している。最後に、ファウナスという亜人種のため深いコンプレックスを抱えるブレイク・ベラドンナ。最近では劇場版『Gのレコンギスタ』シリーズ(19〜22)でアイーダ・スルガンを演じた嶋村侑が、芯に強さを秘めたブレイクの内面を情感豊かに演じている。

現在、Volume 8までが日本語吹替版付きブルーレイで発売されている「RWBY」は、スタート時点では怪物を退治するハンター養成学校ビーコン・アカデミーを舞台にした学園ものだった。人類の生存を脅かす怪物、グリムとの激しい戦闘シーンもあるが、ダンスパーティーやトーナメントを交えながらルビーら個性豊かな4人の少女たち “チームRWBY”の成長を描く学園アニメなのだと誰もが信じていた。ところが、Volume 3で衝撃的な展開が待っていた。グリムを操り、影からチームRWBYに戦いを仕掛けていた闇の勢力の存在が明らかとなり、彼らの計略の前にビーコン・アカデミーは壊滅、重要人物が命を落とし行方不明となり、敗北したチームRWBYの4人も散り散りになってしまうのだ(「ジャスティス・リーグxRWBY:スーパーヒーロー&ハンターズ」はVolume 3以降を舞台にしているため、「RWBY」を未見の方にはVolume 3までの視聴をお勧めしたい)。

当初は学園もののように見えた「RWBY」は、レムナントという架空世界の創世を巡るハイ・ファンタジーであり、神話や童話が何層もの入れ子構造になっていることが少しずつ明らかにされていく。一見すると類型的に見えかねないキャラクターたちは社会や家庭との軋轢を抱えている。彼らの多面的な人物造形が「RWBY」の魅力であり、だからこそ日本語吹替版のボイス・キャストたちには生半可ではない表現力が求められるわけだ。例えば、影のあるブレイクと陽気なヤンは、互いに探り合うようにして彼女たちだけの友情を育てていく。本作でも、2人の絆を感じさせる会話がある。ルビーと話す時のヤンは頼りがいのあるお姉ちゃんだが、ブレイクと話す時のヤンは慎重に言葉を選んでいる。いつもは元気いっぱいに怒鳴っている、ヤン役の小清水亜美の声色が、ブレイクを演じる嶋村侑の低い語りにテンションを合わせるように深く沈む。本作の繊細な感情描写には、「RWBY」の古参ファンでも唸らされるはずだ。

■吹替版だからこその新発見!お馴染みのヒーローの意外な魅力

そして、「RWBY」の世界にとっては新参者であるジャスティス・リーグの面々とチームRWBYの新しい人間関係が新鮮だ。プライドの高い一方で恋多き乙女でもあるワイスは、バットマン/ブルース・ウェイン(声:石毛翔弥)に好感を抱き、レムナントにとどまるよう提案する。ワイスの日笠陽子とブルースの石毛翔弥、上流階級らしい礼儀をわきまえた知的なやりとりを聞いていると、まさに「お似合い」の組み合わせだと納得してしまう。ボイス・キャストの演技力に説得させられてしまうのだ。

また、その出自ゆえに苦悩を抱えたブレイクに、同じようにチームの中で孤立感を覚えているワンダーウーマン/ダイアナ・プリンス(声:白石晴香)が理解を示すくだりも「わかる!」という感じ。ブレイクの嶋村侑とダイアナの白石晴香、深く澄み渡った声の重なり合いに聞き惚れ、最後にちょっとだけ元気になるブレイクの声色にホッとさせられる。

その反面、フラッシュ/バリー・アレン(声:千葉翔也)はバトルの前に「テンション爆上げ!」などと軽口をたたき、もともと「RWBY」の世界に住んでいたかのようなノリ。そして、千葉翔也の演技が“いかにも「RWBY」っぽくて違和感がない”ことが、ストーリー上の重要な要素ともなっているのだ。

まだまだ、ここには書ききれないぐらいたくさん、吹替キャストが新たに生み出す人間関係が本作には宝石のように散りばめられている。意外な掛け合いにクスッとさせられるし、そのキャラクターの声が聞こえてくるだけで緊張感を覚えるシーンもある。メリハリのきいたアクション、鮮やかな色づかいやコスチュームデザインの華麗さも魅力だが、何よりも日本の声優たちのレベルの高さに、あらためて感心させられること請け合い。何度でも“聴きたくなる”アニメだ。


文/廣田恵介