『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(公開中)で、小室哲哉とタッグを組み、西川貴教 with t.komuroとして主題歌「FREEDOM」を歌う西川貴教。過去、「機動戦士ガンダムSEED」(以下「SEED」)のオープニングテーマ「INVOKE -インヴォーク-」や「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」(以下「DESTINY」)のオープニングテーマ「ignited -イグナイテッド-」など、シリーズのテーマソングを数多く手がけているほか、「SEED」にはミゲル・アイマン役、「DESTINY」にはハイネ・ヴェステンフルス役で声優として出演した経験を持つなど、「ガンダムSEED」には欠かせない存在だ。

一方、小室はTM NETWORKとして『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88)の主題歌「BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜」を手がけた経緯がある。今回、西川が小室にプロデュースを依頼したきっかけの一つは、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』(19)の第3弾オープニングテーマとして、LUNA SEAが「BEYOND THE TIME 〜メビウスの宇宙を越えて〜」をカバーしていたことがヒントになったと話す。

■「“いつか”とか“また今度”と言っていられなくなった」

「ガンダムの40周記念ライブ『GUNDAM 40TH FES. LIVE-BEYOND』に出演させていただいた時、同期でアマチュア時代から切磋琢磨してきたLUNA SEAが『BEYOND THE TIME』のカバーを演奏したんです。時代を超えて、作品に込められた理念やいろんなものが繋がっていることを感じて、この曲のことがずっと心のどこかに引っかかっていました。そんななかで昨今は身近なアーティストが多く亡くなられ、目の前のことだけに一生懸命になっていると時間が止まったように感じていましたけど、明らかに自分も年月を重ねてきているので、“いつか”とか“また今度”と言っていられなくなったなと思っていました。それにちょうどT.M.Revolutionの創業メンバーにはTM NETWORKのデビューから関わっていた人がいて、小室さんとはずっとご縁を感じていたんです。ただ、何度かお話したことはありましたが一緒に制作をする機会が無かったので、そのチャンスをこのタイミングで使わせていただけたらと思ったんです。監督を含めた関係者の皆さんと相談をして、小室さんとお話をする機会を作っていただき、今回こういうかたちにいたることができました」。

これまで西川がT.M.Revolutionとして制作してきた「ガンダムSEEDシリーズ」のテーマソングは、耳に残るイントロが特徴的なデジタルロックのサウンドと、ハイトーンのボーカルやキャッチーなサビメロが印象的だった。今回の「FREEDOM」はそれらとは異なり、民族的なリズムと雄大なメロディが印象的で、西川の低音のボーカルが力強く響く。

「楽曲に関しては福田監督から一任されていて、せっかく小室さんと制作できるのだから、小室さんの船に乗せてもらおうという感じでした。実際にデモがあがってきて聴いた時は、素直な驚きがありました。例えば最初のピアノとボーカルだけのところは、デモをいただいた時に『え!』ってなりました。というのも小室さんのサウンドには、いろいろな音がコラージュされたデジタルサウンドという部分におもしろさを感じていたので、『こんなにシンプルに始まるんだ!』と。しかも主題歌というのは、観る人の心をつかむ大事なところで、そこを僕のボーカルだけに委ねていただいたことには、『信頼していただいているのだな』と感じました」。

■「『FREEDOM』は “これしかない”絶妙なタイトル」

小室が作詞も手掛けた「FREEDOM」では、歌詞のワードチョイスにも驚きがあったと西川は語る。「あえて難しい言い回しではなく、すごくシンプルでわかりやすい言葉を選ばれている印象を受けました。いまのJ-POPやJ-ROCKは、一聴しただけでは歌詞をはっきり聴き取れない曲や、イントロも無ければ間奏も無く3分くらいで終わってしまうような曲も多いです。それに反して『FREEDOM』は、たっぷり5分近くありますし、あらゆる部分で時代と逆行している楽曲です。あえて時代に対して挑戦しているような気概をすごく感じましたし、そういう曲を小室さんと共に届けることができることにすごく意義を感じています。きっと、何度も聴いたり何度も口ずさんでいくうちに、世界観がどんどん馴染んでくる。そういう魅力がある曲になったのではないでしょうか」。

昔はギター一本の弾き語り音源が送られてきて、それを元に楽曲が作られていた。現在のポップスは打ち込みで、アレンジもほぼ完成されているものが多いという。「このままで本チャンまでいけちゃうんじゃないかと思うほどのクオリティが当たり前になっている」と西川。そんな時代において、小室のデモは非常に胸に響くものだったと話す。

「すごくシンプルなリズムパターンに最低限の鍵盤と歌のメロディだけで、それも小室さんご自身が仮歌を歌ってくださっていました。それを元に、本番のボーカルを録る前にはデモの状態で歌わせていただいたり、小室さんの手によってオケ(楽曲からボーカルを除いた音源)が目に見えて変化していったりと、久々に音楽が形を成していく経過を一緒に辿っていくような感覚がありました。“一聴して良い”だけじゃなく、聴いた人の心象風景と重なることで、その人の音楽に変わる。聴き手に委ねられるような楽曲だなという印象です。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』をご覧になった方のなかで楽曲『FREEDOM』が熟成されて、それぞれのなかでどんな曲になっていくのか期待しています」。

楽曲のタイトル「FREEDOM」は、デモの段階で小室が付けていたものであり、「 “これしかない”という絶妙なタイトルです」と笑顔を見せる。同曲の歌詞には、「純粋な笑顔を支えに 駆け抜けたあの頃の風を もう1度感じたい Save Tears」というフレーズがある。ここからは、シリーズの20年の積み重ねと、作品に関わってきた人々の想いが感じられる。戦争とは?愛とは?―「FREEDOM」という楽曲は、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』と共に、いまという時代に様々なことを問いかけている。

取材・文/榑林史章