菅田将暉が主演を務め、黒沢清が監督と脚本を手がける映画『Cloud クラウド』の製作が発表され、9月に公開されることも決定。菅田と黒沢のコメントとスチール写真も解禁された。

菅田と黒沢が初めてタッグを組む本作は、顔の見えない社会で拡散する、憎悪の連鎖から生まれる“集団狂気”を描いたサスペンス・スリラー。出演オファーを即決したという菅田は、この映画で「ラーテル」というハンドルネームを使い、転売で稼ぐ主人公、吉井良介を演じている。

菅田は、黒沢と本作の撮影現場で10年ぶりに再会。初対面は、青山真治が監督を務めた主演映画『共喰い』(13)で参加した2013年の第66回ロカルノ国際映画祭で、2022年に57歳の若さで故人となった青山から紹介された時以来だったという。今回の発表に際して、菅田は「生活の中に潜む、怖さとユーモア。 黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、贅沢な時間でした。 ピュアで歪な人間のアクションがたまらない。とにかく完成が待ち遠しい」とコメント。一方の黒沢は「現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた」と明かし、主演の菅田について「菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた」と称賛している。

『へレディタリー/継承』(18)、『ミッドサマー』(19)のアリ・アスターをはじめ、スリラー、ホラー映画の作り手を目指す世界中の監督たちが、必ずその影響を口にする日本人監督“Kiyoshi Kurosawa”。1990年代にその道を切り拓き、今年第17回AFA(アジア・フィルム・アワード)の審査委員長も務める黒沢が、映画界のトップクリエイターたちのリスペクトに応じるかのように、最高にスリリングな作品に着手。昨年商業映画デビューから40年を迎えた黒沢が、サスペンス・スリラー作品に挑むのは、2016年公開の『クリーピー 偽りの隣人』(16)以来となる。本作の撮影は2023年11月25日から12月22日にわたって行われ、現在制作中だ。

菅田と黒沢による初めてのコラボレーションがどんなケミストリーを見せてくれるのか。その答えはぜひスクリーンで確認してほしい。

■<キャストコメント>

●菅田将暉(吉井良介役)

「生活の中に潜む、怖さとユーモア。黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、贅沢な時間でした。ピュアで歪な人間のアクションがたまらない。とにかく完成が待ち遠しい。映画『Cloud』宜しくお願いします」

●黒沢清(監督・脚本)

「(作品について)現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた。主人公は、ささやかな金儲けによって少しでも人より優位に立ちたいと願う、ごくありふれた男である。この人物が不用意に周囲の恨みを買い、最後には命を賭けた死闘へと引きずり込まれる物語だ。しかし撮影が進むにつれて、私はこの映画がそう簡単にスカッとするアクションにはなっていかないことに気づいた。その理由のひとつは、主演の菅田将暉が驚くべき演技力でこの人物に深い陰影と複雑さをもたらしてくれたこと。もうひとつは、この死闘が思いがけず“戦争”の様相を見せ始めたことだ。金儲けと復讐が折り重なって増幅され、ついに暴力が作動し、気が付いたらもう引き返せなくなっている。現代の戦争も、ひょっとするとこのようにして起こるのかもしれない。

(主演、菅田将暉について)菅田さんは、誰の目も釘付けにする俳優だ。なんと言ってもあの顔つき、そして声、立ち姿、奥の方にいても一発で菅田将暉とわかる唯一無二の個性があらゆる場面から立ち昇る。にもかかわらず、人混みの中だと市井の人物に溶け込んでしまう一般性、庶民性のようなものも同時に持ち合わせている。持って生まれた資質と計算とを巧みに組み合わせることのできる実に聡明な方なのだろう。そんな菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた。繊細な部分が計算で、堂々としたところが資質なのか、あるいはその逆なのか、どちらかはわからない。いや、どちらも計算かもしれない。それとも全ては直感なのか。正体は不明だが、この正体不明こそ大スターの証なのだなとあらためて納得した」

文/スズキヒロシ