「五等分の花嫁」の大ヒットで知られる人気漫画家、春場ねぎが手掛ける異色ヒーローバトルコミック「戦隊大失格」。「TIGER & BUNNY」などでアクションとドラマ性を両立させる手腕をみせたさとうけいいちが監督を務め、待望のテレビアニメ化が実現した。

MOVIE WALKER PRESSでは4月からの放送開始を前に、主人公の戦闘員Dが組織壊滅を目指す「竜神戦隊ドラゴンキーパー」のリーダー、レッドキーパーの声を演じる中村悠一にインタビューを敢行!作品の魅力や自身が演じるキャラクターへの想いを語ってもらった。

■「特撮ヒーローものを、大人の視点で見た時に感じる疑問が前提になっている」

巨大浮遊城をアジトに世界征服をもくろむ怪人たちと、竜神戦隊ドラゴンキーパー(=大戦隊)の存亡をかけた熾烈な戦いは、毎週日曜に衆人環視のなかで行われていた。しかし、この戦いは茶番劇であり、怪人幹部はすでに全滅し、残された下っ端戦闘員ダスターズは、大戦隊と協定を結び、この予定調和の戦いに挑むだけの日々を送っていた。そんななか、ダスターズの一人である戦闘員Dが、敵対する竜神戦隊ドラゴンキーパーを壊滅させるべく立ち上がり、組織に潜入し大戦隊の真実を知る物語が展開する。

中村は、戦闘員Dの前に立ちはだかる大戦隊を率いるリーダーであり、強い存在感を示すレッドキーパーを演じる。これまでもアメコミヒーローや特撮番組など、多くの“ヒーロー”に関わる役を演じてきた中村は、「戦隊大失格」という作品に触れることで、これまでのヒーローものとは異なる視点に大きく興味を惹かれたという。

「日本の特撮ヒーローものは、ほとんどが勧善懲悪に色分けされていて、なぜか世界征服をしようとしているのに、怪人は日本にだけ現れる…という世界が描かれています。『戦隊大失格』は、『じゃあ、なんでそういう状況が成立しているのか?』という、大人の視点で見た時に感じる疑問を描くというのが前提になっていて、そのメタな部分も含めてドラマとしてどうおもしろくなっていくのかが、作品に最初に触れた時には気になりました。子どものころは普通に受け入れていたヒーローの戦い方が、中学生や高校生になると『なんで、変身している時に攻撃しないんだろう?』と考えたりするようになって、見方にギャップが生まれるわけですが、『戦隊大失格』はそれに理由をつけてみようということだと思っています。そして、そこから始まった物語がどう着地するのか?どのようなゴールが描かれるのかも気になる作品です」。

■「レッドキーパーは視聴者の気持ちに委ねるキャラクター」

「戦隊大失格」の“敵役”のなかで、最重要人物であるレッドキーパー。一般人から見ればドラゴンキーパーを代表する偉大なヒーロー、その本性は正義の味方とは思えない狂気を内包した人物だ。「心の奥底でどんな考えを持ち、どういう行動理念でヒーローとして動いているのかわからない」と話す中村は、演じるにあたって難しかったキャラクターの内面について明かす。

「僕自身もその内面を知って演じているわけではないんですが、いつか描かれるであろう隠された“本心”を、観る側が感じる余白を残さないといけない。だから『こう思っているに違いない』と決め込むのもいけないし、『こいつ、なにを考えているんだろう』って思わせるような存在感も必要になってきます。その一方で、見方を変えると本当はいい人なのかもしれないとか、そういう想像させなければいけないという部分で、視聴者の気持ちに委ねるキャラクターだと感じました。だから、どういうふうにキャラクターを見せていくかを決めきらず、でも話の通じないサイコ味というか、普通の会話ができない人の雰囲気が出せればいいかなと思って演じました」。

■「時代に合わせてリーダー像の描かれ方や印象が異なることも多い」

ストーリー上で描かれるレッドキーパー個人の性格や言動に加え、いわゆる“ヒーローチームのリーダー像”というお決まりとのギャップに、さらに苦労があったという。

「例えば、ブルーはニヒルとかクールで、ヒロイン的なポジションがピンクであるなど、特撮ヒーローのメンバーのキャラ付けで頭の中に刷り込まれている共通認識があると思います。ただ、レッド(=リーダー)になると誠実な青年だったり、熱血系で周りが止めないといけないくらい突っ走るような人物だったりと、みんなのイメージにブレがあるんですよね。特撮ヒーローものは、時代に合わせてチームリーダー像の描かれ方や印象が異なることも多いので、そういう意味では、自分が見てきて自分の中に書き込まれたリーダー像の出力が正しいのかどうかという部分で悩みました。極力、100人の視聴者がいたら、80人くらいが『ヒーローチームのリーダーだね』と思えるくらいに持っていきたいと思ったので、そこに苦労しましたね」。

一方で、劇中ではドラゴンキーパーの隠された裏側を描いており、いわゆる型どおりのヒーローチームなイメージではない。そのため、レッドキーパーに関しても、チームのなかでのリーダー感という部分よりも、個人のキャラクター性を意識して演じたそうだ。

「ドラゴンキーパーのメンバーとは、実はあまり絡まないし、描かれるエピソードも独立しているので、ヒーローチーム感というのは実は薄いんですよね。それこそ、次のドラゴンキーパーになるために鍛えられている候補生がいて、彼らには階級があり、死んだらポジションも入れ替わる。例えばメンバー内のブルーが死んだら入れ替わって新しいブルーになるわけですが、その時にレッドキーパーは驚いたり悲しんだりすることなく、『やあ、ブルー』とメンバーが入れ替わったことは気にせずに言葉をかけそうなキャラだと思っています。本心が描かれていないので、レッドがドラゴンキーパーのメンバーに対してあまり気を許していないというか、仲間意識は低そうだなと。なんだったら怪人側のほうがもっと仲がいいですよね。敵拠点からいつも仲間がやられているところを見て、仲間の心配をしているわけですから」。

■「作品の完成図が頭に浮かんでいるのは監督」

このように、謎な部分が多いがゆえに、焦点の絞りづらさが多いレッドキーパーをしっかり演じることができたのは、監督のさとうけいいちとの現場でのやり取りがあったからだった。

「物語が進むとレッドキーパーはオフの顔も増えていくので、カメラが回っていないところではどんな言葉遣いなのか、どんな圧をかけてどんな言い方をするのかの判断がさらに難しくなっていきましたね。相対した敵に対して、まず怒りが出るのか?それとも『おもしろいな』と思ってワクワクした感じなのか?毎回いろいろ考えたなかで演技しています。迷ってはいるんですが、監督のさとうけいいちさんが音響監督も兼ねられているので、収録の際に僕が『こんな感じかな』と投げたものをOKなのか、それとも違うのかを演出的に判断してくれる。だから、さとうさんがねらっているところに演技が入れば良しとしているところが多かったです。やはり、作品の完成図が頭に浮かんでいるのは監督だと思うので、『僕としてはこう思う』と言い続けても完成図からは遠ざかってしまう。そこはしっかり意向に従わせてもらいました」。

■「原作を読んでいる方、アニメから入る方の両方が楽しめるように作られている」

ヒーローと怪人が逆の立場になる本作において、特殊な立ち位置の主人公となる戦闘員D。相対する敵の立場として、セオリーから外れた主人公像についてはどんな感想を持っているのだろうか?

「キャラクターとしておもしろかったのと、小林裕介くんが付けているお芝居のニュアンスが結構ラフというか自然体で、その結果キャラクターがいい立ち方をしているなというイメージを受けました。ある意味、原作を読んだ時よりも戦闘員Dという人物がどういうキャラクターなのかわかりやすくなっている。ちょっとスレた感じが伺えるんですよね。どんどん登場人物が増えていくので、声を聞いた瞬間に誰なのかわからないといけないアニメだからこそ、キャラ付けがしっかりしていないと難しいと思ったので、いい形で表現できているなと感じました」。

放送に向けてファンからの期待も大きく高まっている「戦隊大失格」。最後に本作の見どころ、そして注目してもらいたいポイントについて語ってもらった。

「原作を読んでいる方、アニメから入る方の両方が楽しめるように作られていると思います。特に原作を読んでいると、アニメ版としてのおもしろさ、すごく丁寧で絶妙なアレンジが加わっていることに気付いてもらえるんじゃないかと思います。とにかく、画がしっかりと動いていく作品になっているので、戦うシーンからちょっとコミカルなシーンまで、細かい部分も含めて注目してほしいです。あと、キャラクターも話数を重ねるごとにどんどん増えていきますので、様々な角度や視点から観てもらえるとうれしいですね」。

取材・文/石井誠