「仮面ライダー電王」出身で、代表作は映画「るろうに剣心」シリーズ。スタントなしでアクションをこなす、高い身体能力を持つ佐藤健。一方でラブストーリーにも定評がある、珍しい俳優である。『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)では自身の正体を隠してかつて所属していた人気バンドのファンの女子高校と付き合う天才サウンドクリエイター、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)における昏睡状態に陥った婚約者を側で支え続ける青年役など、演じるキャラクターの内面をより真実味のあるものとして表現する姿が印象的だった。

どのラブストーリー作品でも言えることが、「この2人が結ばれてくれたら、いいのに」と願ってしまうほどのリアルな余韻をもたらしている。佐藤が演じる役柄もその相手役も共に愛さずにはいられない、独特の臨場感はどこから生まれてくるのだろう。

■完璧なのに恋は不器用!?なキャラクターを開花させた「半分、青い。」

彼の恋愛ドラマ人気を確立したのが、朝ドラ初出演を果たした「半分、青い。」ではないだろうか。佐藤演じる律は永野芽郁のヒロイン、鈴愛と長年一緒に育った幼なじみ。容姿端麗で成績優秀、そのせいで一見、クールに見える。が、実は誰よりも鈴愛のことを理解し、彼女を支える。冷静そうだから、本心が見えにくい。付かず離れずの関係はいつしか、すれ違い、鈴愛の心は律の親友、マアくんに向いてしまう。中村倫也演じるマアくんは律の恋心に気づいているが、鈴愛には焦れったいほど、届かない。なんでもできるのに恋は不器用という佐藤ならではの最強スタイルがこの作品で開花した。

■ドS医師をツンデレ度マックスで演じ、胸キュン姿も自然だった「恋はつづくよどこまでも」

ドS医師をツンデレ度マックスで演じ、佐藤にしか演じられないと話題を呼んだのが「恋はつづくよどこまでも」。初恋の相手に会いたい一心で看護師になった主人公、七瀬が再会した天堂は周囲から恐れられる冷徹エリート医師だった。少女漫画が原作の本作は、「こんな佐藤健、見たことない」「こんな佐藤健が見たかった」と怒涛の悶絶シーンが続く。壁ドンに頭ポンポン、顎クイといった胸キュン姿も自然。新人ナース、七瀬に扮する上白石萌音の恋にまっしぐらな姿も初々しく、あまりにもお似合いで、ドラマが終わると“恋つづ”ロスから“たけもね”推しと化す人が続出した。

永野は10歳下、上白石は9歳下。年齢が少し開いた彼女たちを相手にした時の佐藤は思いがけない包容力が満点。負けず嫌いの肩の力が抜けて、ふっと見せるリラックスした表情も彼特有の魅力だ。

■初恋の面影を追い続ける“静”の表情を豊かに表現した「First Love 初恋」

佐藤健と共演したい!女優側の提案から、キャスティングが実現したのが満島ひかりと佐藤がダブル主演を務めたNetflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」。1999年に発売された宇多田ヒカルの名曲「First Love」と、その19年後に発表された「初恋」。本作はこの2曲にインスパイアされたラブストーリーだ。互いに想い合う宿命の出会いを果たした2人が運命に翻弄されながら、初恋の面影を追い続けるせつない展開が続く。“動”の印象が強い満島に突き動かされる“静”の佐藤の豊かな表情。日本はもちろん、グローバルトップ10のテレビ・非英語部門で3週連続トップ10入りと世界でも大ヒットを記録した。

■過去と現在の恋愛模様を一人で演じ分けた『四月になれば彼女は』

数々の名ラブストーリーを担ってきた佐藤の新作が「世界から猫が消えたなら」の川村元気が執筆した恋愛小説を原作とした『四月になれば彼女は』(公開中)。精神科医の藤代俊(佐藤)の前から、婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)が突然姿を消す。それはかつての恋人、伊予田春(森七菜)から手紙が届いた頃と重なり…。

“佐藤ラブストーリー”の醍醐味である、初恋、すれ違いをモチーフにしており、この1本で恋愛作品における佐藤の魅力を一気に満喫できる内容になっている。愛する弥生になかなか伝わらない藤代の思い。器用なのになぜか恋には奥手な彼が友人に相談しては、(痛いところを突かれて)撃沈する姿が愛らしい。

さらに森七菜演じる春との大学の写真部時代のエピソードでは、恋の始まりを予感させる甘酸っぱいシーンが相次ぐ。バイクでの2人乗りや互いの気持ちを写真で伝え合う交換日記代わりの手紙のやり取り。なにより佐藤がファインダー越しの森に見せる表情の甘さ。二度と戻らない青春を生きる男女のフレッシュさと、酸いも甘いも経験した大人ならではの落ち着いた時間が次々と映しだされていく。


一人の男性の過去と現在の恋愛模様を一人で演じ分け、どちらも甲乙つけ難い色気を放つ佐藤。強いて言えば、「初恋」の満島ひかりと同様にずっと見ていたいと思わせる、本能タイプの女優である森七菜は佐藤の12歳年下でもあり、映像的にもこれまでにない好相性。藤代に扮した佐藤がウインクしている姿を写した、本作のキービジュアルとして公開された“恋するビジュアル(通称:恋ビジュ)”は実際に森が撮影したもので、本物の恋人が撮影したような自然な表情が公開前から話題になっている。“たけもね”以上の社会現象になるのか、期待が高まる。

文/高山亜紀