2023年開催の第73回ベルリン国際映画祭でC.I.C.A.E Award、Label Europa Cinemasをダブル受賞し、本年度のアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた5月17日(金)公開の映画『ありふれた教室』から日本版予告と本ビジュアル、場面写真が解禁された。

本作は現代社会の縮図というべき“学校”を舞台に、ある新任女性教師の悪夢のような極限心理を、ドイツの新鋭監督イルケル・チャタクがあぶり出したサスペンス・スリラー。校内で発生した小さな事件をきっかけに事態が予想もつかない方向へと激しくうねり、わずか数日間で学校の秩序が崩壊してしまう様を活写する。第73回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でワールドプレミアされたのを皮切りに、ドイツ映画賞最多5部門(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞)の受賞を達成。本年度アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートを果たした本作は、これが日本劇場初公開となるチャタクの長編4作目にあたる最新作だ。

チャタク監督は教育分野で働く様々な人々へのリサーチを行い、自らの子ども時代の実体験も織り交ぜてオリジナル脚本を執筆。誰にとってもなじみ深い学校という場所を“現代社会の縮図”に見立て、正義や真実の曖昧さをサスペンスフルに描ききったその試みは、ミヒャエル・ハネケやアスガー・ファルハディといった名匠の作風を彷彿とさせる。主演のレオニー・ベネシュはハネケ監督の代表作『白いリボン』(09)で注目され、「THE SWARM/ザ・スウォーム」「80日間世界一周」などのテレビドラマシリーズで活躍する実力派。次々と重大な選択や決断を迫られる主人公カーラの葛藤を生々しく体現した本作でドイツ映画賞主演女優賞を獲得し、ヨーロッパ映画賞女優賞にもノミネートされた。

『ありふれた教室』が追求した多様なテーマは、教員のなり手不足や過酷な長時間労働、モンスター・ペアレンツなどの問題がしばしば報じられる日本社会とも無縁ではない。教育現場のリアルな現実に根ざし、世界中の学校やあらゆるコミュニティーでいつ暴発しても不思議ではない“いまそこにある脅威”を見事にあぶり出している。

このたび解禁となった本ビジュアルは、真っすぐこちらを見つめる若手教師カーラの意味深な眼差しを捉えたもので、違和感を覚える表情と「先生(わたし)、おかしい?」というキャッチコピーが添えられている。カーラの表情と不穏なキャッチコピーも相まって謎めいた不気味さが漂うビジュアルとなっている。


あわせて場面写真も到着。教室で叫ぶカーラの姿や中指を立てる生徒等、張り詰めた空気のなか、様々な姿が切り取られている。予告編では、ただならぬ緊張感を漂わせながらカーラが次第に窮地に追い込まれていく様子も描かれる。彼女は、盗難が相次ぐ校内で生徒を守るために職員室で隠し撮りを仕掛けていた。それをきっかけに生徒の反乱や同僚教師との対立が起こり、保護者からもカーラは猛烈な批判を浴びてしまう。また予告編には、いち早く本作を鑑賞した著名人からのコメントも引用されていて、映画監督の白石和彌は「感じたことのない凄まじい余韻。今年の間違いなく必見の一作だ」と絶賛。ドイツ文学翻訳家の池田香代子は「とほうに暮れて見回すと、あの教室と相似の社会が私たちを取り巻いている。こんなミステリーがあったのか!」と、映画の中で描かれる教室と現代社会の相似性を指摘する。このほかにも、小島秀夫、森達也、瀬々敬久らからのコメントも盛り込まれている。

社会の縮図でもある教育現場を徹底リサーチし、サスペンス・スリラーに仕立てた本作。リアルな描写だからこそ感じる驚きとスリルを劇場で体感してほしい。

■<著名人コメント>

●白石和彌(映画監督)

「恐ろしい。目まぐるしく起こる出来事の連鎖に翻弄され、見ているこちらもすり減っていく。教育現場での地獄めぐりを体感させられ、絶対に教師にはなりたくないと誓いたくなる。しかし、本当に恐ろしいのはラスト数分、いや数秒で全てがひっくり返る瞬間だ。感じたことのない凄まじい余韻。今年の間違いなく必見の一作だ」

●小島秀夫(ゲームクリエイター)

「こんなにも息苦しくなる映画はない。最後の最後まで、これでもかと胸や胃を締めつけられ、ラストでは絶望の淵に落とされる。些細な事から、ありふれた学校が憎しみの場所へ、制御の効かない無法地帯へと変貌する。この何処にでもある“教室の崩壊”の経緯を目撃してしまうと、『現実世界からもはや紛争や争いは未来永劫になくならないのでは?』と結論づけざるをえない。鑑賞後の後味の悪さは、“ありふれた映画”のものではない。ご注意を」

●森達也(映画監督/作家)

「あまりにも凝縮された99分。最後まで目を離せない。音楽の使いかた、言葉の一つひとつ、教室と職員室を行き来するカメラワーク、子どもたちのちょっとした仕草、映画を構成するすべての要素が、ありえないほどの完成度に達している」

●池田香代子(ドイツ文学翻訳家)

「些細なミスの重なりが、収拾不能の事態を招く。いったいどうすればよかったのか。とほうに暮れて見回すと、あの教室と相似の社会が私たちを取り巻いている。こんなミステリーがあったのか!」

●瀬々敬久(映画監督)

「学校だけで民族差別や貧困格差と監視社会の危機を描き切っている。冷徹に見守りながら至るラストの衝撃。決して問題は解決してない。だが、少しだけ前へ進んだのだろうか。自分たち世界の向き合い方が示された気がした」

文/スズキヒロシ