MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、安倍晴明の知られざる学生時代を描くエンタテインメント、山田太一の小説を原作とする愛と喪失の物語、人間の闇をあぶりだすアンチモラル・ロマンスの、幻想的な3本。

■陰陽師について詳しく知りたい人にもおすすめ…『陰陽師0』(公開中)

時は平安時代。陰陽師界でトップの実力を持つ安倍晴明と、雅楽家としても有名な貴族、源博雅が名コンビを組んで、京の都で起こる数々の怪奇事件に挑む。夢枕獏の大ベストセラーシリーズ小説「陰陽師」をもとに、原作者と親交が深く、陰陽師や呪術を研究しつくしたという佐藤嗣麻子監督が自らオリジナル脚本を執筆して映画化。これまでの映像化作品とは切り口を変え、清明の知られざる学生時代を描いているのが本作の大きなポイントだ。

若き日の清明を演じるのは山崎賢人、清明のバディとなる博雅役に染谷将太。本格的に共演するのは今回が初めてという2人のフレッシュな顔合わせが、この華やかな伝奇ミステリ作品に、青春ストーリーとしてのみずみずしさをプラスしている。当時の省庁のひとつであり、陰陽師をめざす学生たちが学問を学ぶ学校でもあった“陰陽寮”のシステム、ピラミッド型の細かい組織体制などの説明も分かりやすく、陰陽師について詳しく知りたい人にもおすすめだ。陰陽寮の学生の殺人事件と、皇族の女王を襲う怪奇現象、同時進行する物語の謎を解くカギは“呪”。清明の夢のなかの緑の丘が広がる壮大な風景、博雅と徽子女王(奈緒)のまわりに花が咲き乱れる異空間、火龍と水龍が戦う壮絶な呪術バトルシーンなど、ハイクオリティなVFXで描かれたイマジネーション世界の映像の迫力も圧巻!(映画ライター・石塚圭子)

■映画ならではのマジックが随所に仕掛けられた…『異人たち』(公開中)

日本を舞台に、1980年代に書かれた山田太一の小説を、イギリスに移し変えてのこの映画化は、原作へのリスペクトと作り手ならではの改変のバランスが、見事なケミストリーを起こしたと断言する。主人公をゲイの設定に変えることで、監督のアイデンティティーが色濃く投影され、再会した亡き両親との対話などで原作とは違うエモーショナルなせつなさが漂う。主演のアンドリュー・スコットもゲイを自認する俳優なので、繊細を極めた演技アプローチに心を揺さぶられない人はいないだろう。

主人公アダムが両親と過ごした80年代の気持ちに戻るドラマなので、当時のカルチャー、特に音楽が効果的に使われる。なかでもペット・ショップ・ボーイズの「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」を登場人物たちが歌うシーンは、その状況に歌詞を重ねれば涙を禁じ得ない。ロンドンのタワーマンションから望む夕景の美しさ、両親と住んだ街へ向かう電車の幻想的な演出、そして深すぎる余韻を残すラスト…と、映画ならではのマジックが随所に仕掛けられた珠玉の一編だ。(映画ライター・斉藤博昭)

■世間的にタブー視されているテーマに挑んだ…『マンティコア 怪物』(公開中)

主人公のフリアン(ナチョ・サンチェス)はスペインのマドリード在住の青年。優秀なゲーム・デザイナーである彼は、ホラーゲーム向けの“怪物”や“獣”のクリーチャーを創作している。そんなある日、隣家の少年を火事から救い、パニック発作に襲われたフリアンは、それをきっかけに自分の内に潜む“怪物”と対峙することに…。

日本の魔法少女アニメにインスパイアされた『マジカル・ガール』(16)で脚光を浴びたカルロス・ベルムト監督の新作は、またしても観る者を予測不能のストーリー展開に引き込むサスペンス映画。しかも道徳上許されない欲望を抱えた青年の心の闇をあぶりだす本作は、世間的にタブー視されているテーマに挑んだ一作でもある。題名の“マンティコア”とは、人間の顔と野獣の体を持つ伝説上の生き物のこと。クライマックスとその先のエンディングには二段構えの衝撃が待ち受ける問題作を、おそるおそるご覧あれ!(映画ライター・高橋諭治)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記