ハリウッド版「ゴジラ」と『キングコング:髑髏島の巨神』(17)の世界観がクロスオーバーする「モンスターヴァース」の最新作にして、すでに全世界興収5億ドルを突破する大ヒットを記録している『ゴジラxコング 新たなる帝国』(公開中)。前作『ゴジラvsコング』(22)につづいてメガホンをとったアダム・ウィンガード監督は、「究極の戦いを繰り広げた両者が次に進む道は明確でした。それは“協力”するということです」と本作の制作過程を振り返っていく。

「しかしそれは決して容易なものではありませんでした。彼らは2大モンスターであり、非常にナワバリ意識が強い。どちらもエゴが大きすぎるため、協力したとしても常になんらかの不安定な休戦状態が存在することにもなります。バディの刑事のようでもあり、相反するキャラクターでもあり、もちろん同じ視点を共有しているわけでもない。むしろそれこそが、私たちが探究しようとした要素でもありました」。

日本が世界に誇る怪獣映画の金字塔「ゴジラ」の生誕70周年と、「モンスターヴァース」の10周年というふたつの節目が重なった本作。前作で激闘を繰り広げた“破壊神”ゴジラと“守護神”コング。ゴジラは地上世界の王として、一方でコングは地下に広がる空洞世界の王として戦いの日々を送っていた。そんなある時、未確認生物特務機関モナークは、ある異常なシグナルを察知。やがて地上世界と地下世界が交錯し、ゴジラとコングの前に未知なる脅威が出現することとなる。

■「“昭和ゴジラ”から多くの影響を受けた」

“共闘”という新たなステージに駒を進めるうえでウィンガード監督は、ゴジラとコングをはじめとした怪獣たちの描きかたが大きな挑戦のひとつだったと明かしている。「彼らの撮影スタイルを理解し、最適なアングルを把握すること。それは彼らとの充実した映画製作を経験することでしか習得できません」と、前作に引き続きメガホンをとったからこそできたものであると振り返りながら、「ゴジラとコングと映画を作ったという経験があれば、彼らと信頼関係を築くことができます。それは俳優たちと同じでしょう」と得意気な表情。

そして「同時に興味深くあったのは、これもほかの登場人物たちと同じように、ゴジラもコングも常に進化を続けているという点です」と続ける。「前作の時には、ほかの映画との連続性を確立することを重視していました。ゴジラはモンスターバースで確立された特有の雰囲気を活かし、コングも同じように『髑髏島の巨神』と同じキャラクターとして認識されることが重要だったのです。それでも私は、開発初期から彼らに新しい外観を与え、アップデートすることを考えていました」。

そこで取り入れられたものの一つが、ポスタービジュアルや予告映像でも話題を集めている、背びれがピンク色になったゴジラというこれまで見たことがないビジュアルだ。「私は元々ピンクや青色が好きでした。だからゴジラをその方向に連れていくことは自然の流れだったと思います」と語るウィンガード監督は、“新しい外観”をゴジラに与える案として脱皮することも視野に入れていたと明かす。しかしストーリーの流れとして、このようなかたちになったのだとか。

「この新しいデザインによって、“昭和ゴジラ”のような不条理な感覚に近付けることができたと思います」と、やはりその根底には日本が生んだゴジラへのリスペクトがあったようだ。「私は“昭和ゴジラ”から多くの影響を受けました。あの映画で体験できるアンダーグラウンドな領域やトリッピーなテクニカラーの雰囲気が大好きで、この映画でも同じような不条理を盛り込みつつ、それがさも現実であるかのように感じてもらいたかったのです。常に不条理と現実との境界線上にいられるように、地に足についたものにできるのか。この境界線上で遊ぶイメージを試みました」

■「怪獣映画を作るのはとてつもなくおもしろい経験」

本作を手掛けるにあたり「ありきたりなシチュエーションではダメだ」と考えたウィンガード監督は、まず多面的な悪役を作りだすことにも心血を注いだ。「これまでのゴジラやコングの映画では、最大の脅威であり最大の問題となるのは人類でした。人類が地球を破壊し自然を脅かす。そうした人類の悪の側面を、怪獣の視点から語る糸口となったのは、コングのなかにある人間性の部分でした」。そうして考えだされたのが、スカーキングという悪役だ。

「スカーキングは悪の独裁者の典型のようなものでしょう。古代の邪悪な存在であり、人類の暗黒面を象徴している。地下空洞に住む猿の部族を支配し、そこでショーを運営し、利己的な方法で行動している。劇中では彼の玉座の部屋のショットで、明らかにミニスケールな類人猿と、小さなハーレムが確認できると思います。彼はこの猿たちを自分の下で働かせている。猿たちは地獄に住んでいて、スカーキングはまさに悪魔のような存在なのです」と、ウィンガード監督はこの新たな脅威について解説する。

また一方で、“地下空洞”という舞台においてふたつのストーリーが同時進行することも本作の魅力的なシチュエーションとなる。「ケイリー・ホットルが演じるジアが、同族であるイウィ族が地下空洞の文明のなかにまだ存在していることを発見する旅と、その裏側でコングもまた同族がいることを発見しようとしている。このふたつの異なる世界を対比させ、ジアとコングがそれぞれの旅路で非常に似た経験をしていることを示したかった」と語るウィンガード監督は、「この映画は地下空洞内のふたつの異なる現実を探検するふたりの物語なのです」と断言。

「地下空洞はなんでも可能であり、私たちはずっと、歴史を裏返したような地下空洞を思い描いてきたと思います。イウィ文明は、エジプトのピラミッドの下にある隠されたポータルから直接アクセスできるようにしました。これが私たちにとってのアトランティス文明です。地表に存在していたのではなく、ずっと地下に存在していたのかもしれませんね」。

そして「『ゴジラvsコング』を作ったことで、私は怪獣たちに自分たちの物語を語らせることができるという自信を得られました。それは怪獣たちの非言語的な現実とコミュニケーションを描くというエキサイティングなことでもあります。怪獣映画を作るというのは、事前に準備できないスキルがどうしても存在する、とてつもなくおもしろい経験です」と満足そうに振り返る。

「私はただのモンスターヴァース映画ではなく、誰も見たことがないようなスリル満点の怪獣映画を作りたかった。だから今後どんな映画を作るにせよ、少なくとも怪獣に関してはこの『ゴジラxコング 新たなる帝国』ですべてを語り尽くたし、やり尽くした。そう思っています」。

構成・文/久保田 和馬