アジア圏で人気を誇る台湾のスター俳優、シュー・グァンハンと日本の実力派女優、清原果耶をW主演に迎え、台湾で話題を呼んだ紀行エッセイを映画化した『青春18×2 君へと続く道』が公開中。『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)などで知られる俳優のチャン・チェンがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、『余命10年』(22)の藤井道人監督初の国際プロジェクトとなった本作は、日本と台湾の絶景を映しだし、多くの人を魅了している。

18年前、日本から台湾を訪ねたバックパッカーのアミ(清原)は、財布をなくしたことから現地のカラオケ店でアルバイトをすることに。そこで18歳の高校生、ジミー(グァンハン)と出会い、バイト仲間と共に充実した日々を過ごす。ジミーにバイクに乗せてもらい、台南の様々な場所へ行き、台湾の風土と人情をたっぷり味わっていたアミだったが、突然帰国を決意する…。映画鑑賞後に「台湾に行ってみたい」という声がSNSで続出。MOVIE WALKER PRESS編集部員は、アミのようにバックパック一つで台湾のロケ地を訪ねた。現地で感じた温かい雰囲気と共に、ロケ地情報を紹介していく。

■夢に破れたジミーが戻る地元「保安駅」(台南市・仁徳区)

物語は36歳のジミーの目線から始まる。人生につまづき、台北から地元の台南に戻り、憂鬱そうな顔を浮かべたジミーが降り立ったのが保安駅だ。編集部員が現地を訪ねた3月中旬、日本ではまだ肌寒さが残る時期だが、台南はすっかり暖かくなっていた。駅の構内で咲いている色鮮やかなブーゲンビリアを見た瞬間、自分が南国に到着したのだと実感した。初めて来た場所だが、木造の駅舎は懐かしい感じがした。ゆっくりとホームに入る列車はレトロな雰囲気満載。主演のグァンハンも本作の台南での撮影で、古い電車が実際に走っていたことに驚いたという。今回の『青春18×2』台湾の聖地巡りは、この年季の入った列車に乗車してスタートした。

台南駅から電車で約7分。

■ジミーとアミの“運命”の場所、地元の占いを体験できる「台湾首廟天壇」(台南市・中西区)

アミが「最後までいい旅になりますように」と台湾式の占い擲筊(ズージャオ)でポエ(願掛け)をした廟は、台南にある台湾首廟天壇。バイトに遅刻しそうな日ですら、日課としてジミーが通うところでもある。ここでジミーは初めてアミの姿を見かけ、アミはその後、財布をなくしてジミーと同じカラオケ店でアルバイトをすることに。まさに2人の“運命”を紐づけた場所とも言える。

台湾首廟天壇は、1854年に建てられた台湾初の玉皇上帝(中国道教における事実上の最高神で、天界の支配者)こと天公を祀った廟で、「天公廟」とも呼ばれている。お参りに行った日はちょうど「天赦日(てんしゃび)」という百神が天に昇り、天が万物の罪を許す日と言われる吉日だった。参拝客であふれ、廟の前には供え物がびっしり並んでいた。まさに台南市民の信仰の場として現地の人々に大事にされている廟宇だ。

台南駅からバスで約20分。

■バイクの2人乗りで駆け抜ける「四草大橋」(台南市・安平区)と「武聖夜市」(台南市・中西区)

アミはカラオケ店でアルバイトをしながら、ジミーたちに台南を案内してもらい、現地の人々の生活を味わう日々を送っていた。なかでも、多くの観客の印象に残っているのは、ジミーとアミが2人乗りのバイクで街中を駆け抜けるシーンだろう。2人乗りバイクは日本の都市部ではなかなか見られない光景だが、台湾では日常に欠かせない交通手段の一つ。初々しい2人が同じバイクに乗って、ドキドキしながらも相手への感情を隠そうとする姿は、なんとも甘酸っぱい。

誰もいない橋の上、バイクに乗り、海風に吹かれて「ソンラ〜(気持ちいい)!」と思いっきり大声で叫ぶジミーとアミ。2人が駆け抜けた四草大橋は、台南市にある台湾海峡を眺められる名スポットとして知られている。ジミーとアミのようにバイクでデートに来る人もいれば、1人で釣りを楽しむ人の姿も。橋から見える果てしなく続く海は心を落ち着かせて、日常の悩みから解放させてくれる気もする。

また、ジミーとアミが人波をすり抜けたのが武聖夜市だ。台南市中西区で毎週水・金・土曜日に開催される武聖夜市は、台南四大夜市の一つ。ところ狭しと並ぶたくさんのカラフルな屋台には台湾の名物B級グルメがずらり。蒸籠から上がってくる白い湯気、現地特有の香辛料の匂い、大音量で流れる台湾アーティストの軽快な音楽…台南の活気ある生活が夜市にあふれていた。台湾での記者会見でグァンハンが清原と藤井監督におすすめしたいグルメの一つとして挙げた、「地瓜球(ディーグゥアーチョウ)」というさつまいもをふかして、練って揚げたスイーツを食べてみた。外はぱりっと香ばしく、中はもちもちの食感で、ほんのりさつまいもの甘さを感じる。シンプルだけど止まらない!台湾の国民的屋台スイーツとして、いまも昔も愛され続けていることに納得。アミのように台南の生活を体験してみたいなら、夜市巡りは外せない。

四草大橋:台南駅からバスで約1時間、車で約30分。
武聖夜市:台南駅からバスで約25分。

■映画ファンは必ず行ってほしい!レトロな映画館「全美戯院」(台南市・中西区)

ジミーがアミを初めてデートに誘ったのは、岩井俊二監督の『Love Letter』(95)が上映されている映画館。「レトロでかわいい!」と台湾の映画館にアミもはしゃいでいた。

ロケ地となった全美戯院は、1950年に開業した台南の歴史ある名画座で、昔から地元のカップルたちに人気のあるデートスポットだったそう。『グリーン・デスティニー』(00)や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(12)などを手掛けた台湾出身の名監督のアン・リーが、少年時代に頻繁に通った場所として映画ファンには知られている。一般的なシネコンで飾られている劇場ポスターと違い、昔ながらの手描き看板は味わい深く、遠くからでも目を惹く。戯院のスタッフに尋ねてみたところ、この看板は70代の男性画師が、長年描き続けているものという。早朝に訪ねると、映画館の向かいの歩道で画師が作画する姿を目にすることができる。

『青春18×2』が台湾で公開された3月、全美戯院は久しぶりにリバイバル上映ではなく、ほかの映画館と足並みをそろえて本作を上映していた。戯院のショーケースには、ジミーとアミが使った『Love Letter』のチケットをはじめ、2人のアルバイトの制服、「カラオケ神戸」の仲間たちが日本に戻るアミのために作った寄せ書きなど、様々な小道具が飾られていた。

独特な雰囲気を醸し出している全美戯院は、『青春18×2』好きな人にも、映画ファンにもぜひ行ってほしいスポットだ。

台南駅からバスで約10分、または徒歩約20分。

■ジミーとアミが約束を交わした「十分駅」(新北市・平渓区)

全美戯院内に飾られていたポスターを見て、アミが「行ってみたい」とジミーに言ったのが、新北市に位置する平渓線の十分駅。ランタン(天燈)の町として知られる十分は、物語のハイライトでもあるジミーとアミが約束を交わした重要なシーンの舞台だ。

ローカル線の平渓線では、日中約1時間ごとに上下線1本の列車が十分駅で交差する。列車が走っていない時間帯には、十分駅からちょっと離れた線路沿いは観光客の入場が許されており、写真撮影やランタンを飛ばすポイントになっている。ランタンは願いの種類ごとに色分けされており、赤は健康・安全祈願、黄は金運、紫は勉強運・合格祈願とされている。世界各地からやってきた観光客が次々とランタンを空に飛ばし、カラフルなランタンがあふれる幻想的な光景を目にすることができる。

ちなみに、十分は台湾のラッキースポットの一つで、「幸福になれる場所」と言われており、多くの人々を惹き付けている。

台北駅から電車で約1時間20分。

MOVIE WALKER PRESS編集部員のロケ地巡りはここでいったん途中下車となったが、紹介したい本作のロケ地はまだまだたくさん。

■古い街並みでノスタルジックな雰囲気を味わえる「府中街」(台南市・中西区)〜「神農街」(台南市・中西区)

アミがバックパックを背負い、地図を見ながら訪れていた台南の観光地「老街(下町)」。「老街」は名前のように、古い通りのことを指しており、古い家と街が残るエリアだ。ノスタルジックな台湾を体験できるため、台湾の若者からも外国人観光客からも注目されている。ちょっと古い家屋が、カフェやショップ、レストランとしてリノベーションされて、街歩きにはおすすめのスポットだ。

アミが訪れた府中街と神農街は、台南の老街のなかでも代表的な場所。府中街は孔子廟のすぐ近くにあり、細い道路の両脇に緑の樹木が美しい。神農街は夜になったら、提灯が灯り、幻想的な世界が広がっていくのが特徴だ。どちらも風情があり、劇中でもアミが「懐かしくて画になる街」と街の美しさに感激していた。

府中街:台南駅から徒歩約20分。
神農街:台南駅からバスで約15分、徒歩約30分、または府中街から徒歩約20分。

■アミが台湾の仲間たちに受け入れられた「カラオケ神戸」(雲林県・虎尾鎮)

アミが台南で一番長い時間を過ごしたのは、ジミーと一緒にアルバイトとして働いたカラオケ店。オーナーの親切心から、財布をなくしたアミはその一室を滞在場所としても使わせてもらっていた。実際に撮影に使われた場所は物語の舞台である台南ではなく、雲林県(台湾の中部に位置する県)にある総領KTV(現:甜心時尚會館)だそう。

台湾高速鉄道雲林駅からバスで約20分。

■台湾ならではの光景を体験できる朝市「水仙宮市場」(台南市・中西区)

カラオケ神戸でアルバイトを始めたアミは、ジミーやバイト仲間と一緒に朝市に買い出しに。そこは、野菜や海鮮、肉など、様々な食材が並ぶ水仙宮市場。劇中のような活気ある台湾ならではの朝市の光景を見るなら、早めの時間に行くのがおすすめ。早朝からオープンし、お昼や午後の早い時間帯に閉めてしまうお店も多い。

台南駅からバスで約12分。

■仲間たちと海遊び…青春らしさ満載の「黄金海岸喜樹」(台南市・南区)

カラオケ神戸の仲間と海へ行き、ジミーたちが思いっきり浅瀬ではしゃいで、アミは少し離れたところで絵を描きながら彼らの様子を眺めている。これも、アミ役の清原が台湾での撮影で印象に残っていると挙げたワンシーンだ。ジミーたちの明るくて楽しい様子を見てから、1人でビーチに座っているアミの姿に少し哀愁を感じてしまう。

ロケ地になったのは台南最南端にある海岸。台南安平区の漁光島から黄金海岸まで、およそ5kmにわたる砂浜が続いている。夕日が浜辺に差し、金色にきらきらと輝く光景を楽しめるため、「黄金海岸」という名前になったとも言われる。

台南駅からバスで約45分。

■ジミーとアミが眺めた夜景を楽しめる「大崗山超峰寺」(高雄市・阿蓮区)

ジミーとアミがバイクで向かったジミーのおすすめスポット、夜景が見える展望台。1763年、高雄市(台湾南部に位置する大規模な港湾都市)の大崗山に建てられた超峰寺の敷地は広大で、登山道を歩いたら、街を見渡せる展望台がある。ジミーとアミがここで互いの気持ちを探りながらも、将来の夢について語り合う姿が印象に残っている人も多いはず。

台湾の記者会見で、現地出身の司会者が劇中に登場した絶景のスポットの一つとして挙げて、藤井監督にロケ地について訊ねていた。本作をきっかけに、初めてこの展望台を知ったという台湾の人も多いようで、スタッフたちが念入りにロケハンした、知る人ぞ知るディープなスポットだそう。ちなみに、現在Googleマップでは「ジミー&アミ観景台」としても登録されており、この映画に憧れて大崗山超峰寺を訪ねる観光客が増えそうだ。

台南駅から電車とバスで約1時間40分。

世界一周の旅を夢見るアミが、旅のスタート地で訪ねた台湾。初めて訪れたのに、どこかで懐かしく、温かい人たちに迎えられるところだった。映画を観て、アミのような自分を確かめる旅、ジミーのような青春にサヨナラを告げる旅など、旅の目的は人ぞれぞれ。ロケ地を巡り、“青春”をもう一度を楽しんでみてはいかがだろうか。

取材・文/編集部