イスラム教徒(ムスリム)が集い、礼拝する県内初のモスクが今月、長崎市川口町に完成した。礼拝や食事などで独自のルールを守りながら暮らす県内のムスリムにとって、念願の居場所。開所間もないモスクを訪ね、イスラムの世界をのぞいた。

 20日午後6時、ライトブルーの外観が目を引く4階建てのビルに入ると、すでに多くの外国人が集まっていた。モスクは県内ムスリム有志でつくるNPO法人長崎イスラムセンターが昨年7月、住居ビルを購入して改修。フロア全体にじゅうたんを敷き、礼拝前に身を清めるための洗浄スペースなどを備えた。礼拝は男女別で、1、2階を男性、3、4階を女性が使う。
 壁に掛かったデジタル時計は、1日5回と毎週金曜のジュマと呼ばれる礼拝の時刻を表示。ジュマは集団で行わなくてはならないため、場所の確保が課題で、これまでは大学の一室や公民館などを借りていた。
 この日はモスクの本格オープンとあり、200人近くが集まった。同センターによると県内には700人近いムスリムが住んでいるとされる。代表のアハメド・ジュナエド・ウッディンさん(42)は「この場所はイスラムの連帯と日本人との交流を担う。イベントも開き、ムスリムが平和と慈悲を愛する人々だと発信したい」と言葉に力を込めた。
 日没後のマグレブ礼拝の時間になり、全員が聖地メッカがある西の方角を向いて座った。若い男性が先頭に進み出て、手で耳をふさぎ朗々と文句を唱える。礼拝の始まりを告げるアザーンだ。その後、立ち上がって両手を膝に頭を下げたり、額を床につけてひれ伏したりする流れを3セット繰り返した。回数は礼拝の時間で異なる。
 礼拝後はイスラム教の戒律に沿ったハラル料理の弁当が配られ、一転にぎやかな空気に包まれた。長崎大3年のアハマド・イマンさん(22)は4年前にマレーシアから家族と横浜市に移住し、現在1人暮らし。長崎でもムスリムの集まりに積極的に参加し、ハラル食品が買える店を教わるなどした。「私の家族は日本にいるが、多くの留学生にとって、ムスリムのコミュニティーは家族といるような安心が得られる場所」とモスクの完成を喜んだ。
 国内では「過激派」や「テロ」などの言葉と並べて報じられることも多いイスラム教。同センターの前代表でバングラデシュ出身のモハマド・シャーさん(49)は「日本人はとても親切で偏見や中傷を感じたことはない」と語る。2012年から長崎で暮らし、ムスリムコミュニティーの代表としてモスク設立に奔走してきた。行政や大学、民間企業のさまざまな協力を得て感謝しているという。
 モスクは今後、ムスリム同士の結婚の認証やイスラム教を学べる図書館、子ども向けのコーラン教室などの構想があるが、地域との交流や情報発信も同様に重視している。シャーさんは「日本人はイスラムについて知らないことがまだ多いと思う。お互いを知り、交流ができる場所になれば」と願った。