長崎県佐世保市の四ケ町アーケードにある書店「金明堂京町店」が12日、閉店する。市中心部で約100年にわたり、営業を続けてきた町の書店が、時代の流れにのまれ姿を消していく。
 「京町店は戦火による焼失と復興を経験してきた平和の象徴」と話すのは出田伸久店長(50)。金明堂は1929年7月、福岡県久留米市の実業家、故菊竹嘉市氏の下に奉公した故松尾秀雄氏が佐世保市高砂町に開店したのが始まり。1945年の佐世保空襲で全焼したが、翌年6月、下京町の現在地に移転し、再スタートを切った。
 80年に菊竹氏からのれん分けを受けた書店「福岡金文堂」の子会社となり、金明堂本店と改名した。87年に早岐店、93年には山祇店をオープンするなど事業を拡大(両店舗とも現在は存在しない)。2010年に福岡金文堂と合併した。
 出田店長が入社したのは1994年。正月2日の初売りや佐世保くんち開催時は本がよく売れたと振り返る。ただ、書店を取り巻く環境は様変わりしていった。大手書店チェーンの進出やインターネット通販の台頭、電子書籍の普及などによって地方の書店の状況は厳しくなるばかりだった。
 東京商工リサーチによると、2014年から23年にかけて全国では764の書店運営会社が倒産や廃業などで市場から消えた。
 金明堂京町店も売り上げが低迷し閉店することになった。出田店長は「雑誌も昔に比べて高くなった。スマホやパソコンにお金を使い、本にはお金が回らなくなってきているのかな」と目を伏せた。
 それでも地域に根差した書店の意義をこう語る。「デジタル化や効率化によって利便性は増しているけど、ここでは一人一人のお客さんとの関係、心の豊かさを紡いできた」。20年度には「NHKテキストコーナー飾りつけコンクール」で同店のポップが最優秀賞に選ばれた。高校卒業後、金明堂一筋で働いてきた店員の橋本芳美さん(58)は「小さな書店だからこそできることを頑張ってきた」と誇らしげに話した。
    
 金明堂京町店は閉店するが、福岡金文堂系列の店舗は同市内ではほかに福岡金文堂イオン大塔店(大塔町)、金明堂日野店(日野町)、金明堂大野モール店(瀬戸越4丁目)がある。