2024年4月上旬、活火山として有名なイタリアのエトナ山で、噴火口からゆらゆらと青空に立ち上っては消えてゆく無数の煙の輪が観測され、話題になった。

 同じような煙の輪は、昔から世界のほかの火山でも目撃されてきたが、どのようにして形成されるのか、なぜ一部の火山だけで見られるのかなど、詳しいことはわかっていなかった。しかし、そのような疑問に挑んだ論文が、2023年2月9日付で学術誌「Scientific Reports」に発表されている。

 火山がつくる煙の輪の直径は数十メートルに達することもあるが、すぐに消えてしまい、予測不可能なため、研究するのが難しい。そこで2019年、ファビオ・プルビレンティ氏率いる科学者チームは、コンピューターでこの現象をシミュレーションすることにした。氏は当時、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)の上級研究員で、現在は中国の河南理工大学に所属している。

 その結果、火山で見られる輪はタバコの煙を吐き出してできる輪や、段ボール箱などに小さな穴をあけて作ったおもちゃの空気砲と同じ原理で形成されることがわかった。いずれの場合も、きれいな輪ができるには、大量の蒸気が集まって瞬間的に排出される必要がある。

火山性渦輪とは

「煙の輪」といっても煙でできているわけではないと、イタリア国立地球物理学・火山学研究所の火山学者ボリス・ベンケ氏は言う。火山が作り出す輪は、主に水蒸気から成る凝縮ガスがマグマから出て噴火口から吐き出されたもので、「火山性渦輪(うずわ)」と呼ばれている。なお、ベンケ氏はこの研究には関わっていない。

 周囲の空気よりも温かく密度が低い火山性蒸気が十分にあると、そこから細い「渦輪」が生まれる。強い風が輪の形成を妨げることもあるが、風がなければ、渦輪は空に向かって上昇し、大きくなっていく。やがて蒸気がなくなると、輪は消滅する。

 しかし、渦輪ができる火山は限られていて、できる時期も決まっているようだ。2013年に初めてこのことを知ったプルビレンティ氏は、科学的文献を見てもはっきりした答えがないことに気づいた。好奇心に駆られた氏は、仲間の研究者とともにその謎解きに挑戦することにした。

 プルビレンティ氏の研究チームは、過去の火山性渦輪に関する多くの観測記録を調べ、渦輪が上昇する高さや、移動する速度、冷却する速さのほか、成分はどのくらい異なるのか、火山灰はどのくらい含まれているのかを調べた。さらに、ガスがどのように火道(マグマがマグマ溜まりから地表まで上昇する通路)を移動し、外に排出されるかについても資料を読み込み、研究室での実験によって、流体で渦ができる複雑なしくみについて一つ一つ確かめていった。

 次に、わかったことすべてのデータをコンピューターモデルに入れ、火道内での圧力の蓄積と、仮想上の噴火口の形を調整することによって、渦輪ができる条件を絞り込んだ。

次ページ:渦輪はどのように形成されるのか?