インフラの更新にはまた、PFASを取り除く新システムを設計するエンジニアの雇用や、それがうまく機能するかどうかをテストする試験プロセスも必要になる可能性がある。

 EPAは、規制の順守にかかるコストを年間15億ドルと見積もっているが、ムーディ氏はこれを著しい過小評価だと考えている。AWWAは2023年の報告書で、実施にかかる予算は年間約38億ドルにのぼると推定している。

 水道料金にはどの程度の影響があるのだろうか。コスト負担は地域の水処理施設の規模によって異なると、ムーディ氏は言う。「小規模なシステムではスケールメリットがないため、1世帯あたりのコストが大幅に高くなります」

 EPAはすでに、米国の超党派による「インフラ投資・雇用法」を通じて連邦政府から新たに10億ドル(約1500億円)を補助すると発表しているが、自治体は州レベルでも資金を確保しなければならない可能性があり、その費用の大半はおそらく水道の利用者が負担することになると思われる。ムーディ氏は、小規模施設の地域であれば顧客1人あたり年間数千ドル、多くの人口に負担が分散される大規模システムでは数百ドルのコストがかかると見ている。

その価値はあるのか

 それでも多くの専門家は、PFASに関連する健康問題を示す「証拠の重み」を考えれば、新たな基準値は理にかなっていると主張する。

「これだけ低い濃度でも、長い年月の間には大きな影響を及ぼすことがあります。化学物質が体内で生物濃縮を起こすからです」と、米ノースカロライナ州立大学PFAS環境・健康影響センター所長のスコット・ベルチャー氏は言う。

 PFASはそこら中に存在し、洗剤から食品包装、耐水性の布まで、あらゆるものに含まれている。ベルチャー氏によると、「長期的な汚染危機」を解消するための対策として、飲料水の浄化は取り組みやすく実現しやすい目標だという。

 EPAが科学的証拠の重要性に基づいて規制をかけたPFASは6種類にとどまっているが、環境にはさらに何千種類ものPFASが存在している。新たなインフラが整備されれば、まだ禁止されていないPFASの多くも取り除かれると期待される。

 将来的には、汚染源を事前に特定することを優先しなければならないと、ベルチャー氏は言う。「過去数十年間でわれわれが学んだのは、いったん環境内に入り込むと、これらの化学物質を取り除くのは非常に難しいということです」