長崎県内の養殖業を巡っては、現在──
(1)船の燃料代やエサ代の高騰
(2)融資による資金調達の難しさが課題にあげられています。

このうち(2)の「資金調達」については、養殖生け簀の中の魚の数や大きさを正確に測ることが困難なため、資産価値を算出するのが難しく、それを担保とした融資を金融機関から受けにくくなっています。

こうした課題を解決しようと、東京が本社で長崎に事業所を置くシステム開発会社が、地元の養殖業者や大学と連携し、AIを活用して《いけす内の養殖魚の大きさや重さ》などを測定するシステムを開発しています。

AIを使った『スマート養殖』の実現に向けた取り組みです。

養殖のデータ化で高効率で新規参入を

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橘湾に浮かぶ生け簀で養殖されている「ゆうこうシマアジ」です。月に1回、網ですくい出して大きさや重さを測り、成長を管理しています。手間と時間がかかるこの作業をAIで効率化しようと取り組んでいるのが長崎市に事業所を置くシステム開発会社「シーエーシー」です。

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魚の成長をデータで管理しエサの量を適正化できればこれまでよりロスを減らすことができると見ています。

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シーエーシー新規事業開発本部 井場辰彦サービスプロデューサー:
「経験や勘に頼って作業されているところもかなり多いという中で、養殖技術をデータとして使えるものにしていけば『ここまでエサを減らしても体重はちゃんと増えているので、無駄なエサを与えなくても大丈夫だ』とか、エサ代がすごくかかっているという課題を解決できて“効率的な養殖”ができたり、“若い新規参入”の方も入っていただいたりと、一つの解決策にはなるんじゃないか」

2台のカメラの“視差”で大きさを判定

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大学とも連携し、1年前から月1回のペースで実証実験を続けています。実験に使うのは平行に並べた2台の水中カメラ。

人間の目が右と左で見え方が違うように、左右のカメラの見え方の差《視差》を利用して、物体の大きさを割り出します。

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水中に沈めたのは事前にサイズを測った紙。カメラを動かしながら撮影し、正確に測定できるかどうかを調べます。

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長崎総合科学大学 工学部 工学科船舶工学コース 松岡和彦教授:
「カメラ2つで人間の目と同じで立体として捉えるというか」

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井場辰彦さん:
「(2台のカメラで)“距離感”であったりとか “サイズ”とか《立体の情報》を解析できるようになります。水の中だと(光の)屈折率が空気中と違うので、格子状の模様でチェックして、もしおかしい屈折率だったら補正するような処理をしています」

エサの量は適切か──いけす内の魚の大きさ・重さをデータ化

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この日は実際に生け簀にカメラを入れて魚を撮影しました。泳いでいるのは出荷まで1年以上かかるゆうこうシマアジ。いま生後およそ10か月です。

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自動給餌器で1日15回エサをまいていますが『魚が食べる量』に対して多いのか、 少ないのか──今は判断が難しくロスも少なくありません。これを減らすには魚の成長をデータ管理し、それに合わせてエサの量を調整する必要があります。

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カメラの映像をもとにAIは正確な数値を割り出せるのか──

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まずは現場で実際の魚の重さと大きさを測ります。網ですくいあげたサンプル魚の重さは510g、体長は28センチでした。

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昌陽水産 山口繁隆さん:
「今、何グラムっていうのもAIで分かるので、それに合わせて餌やりの仕方も変わると思うんですよね。自分たちで事務所で『きょう何匹死んどったとか、今、何匹おる』っていうのは把握しているんですけど、実際に(網で)すくってみたりとかしないと数はしっかり分からないんですね。(AIシステムができると)ありがたいですね」

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《AIによる画像分析》の前に、人間が《画像データから魚のサイズと重さ》を推定し《実測値》と差がないかどうかを確認しました。

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井場辰彦さん:
「いけすで実際に測っていただいたのが、だいたい《26センチ〜30センチ弱》だったんですけど、(画像で推測すると)この魚が《26センチぐらい》、この魚は《29センチぐらい》という結果だったので、そこまで外れてないんじゃないかなと。
このあとは《AIで動画を全量チェック》して、平均をとってみてどうか、っていう感じです」

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このシステムでAIは《10分間の動画》をもとに《約300匹の魚》を分析しました。結果、AIは《体重500gほどの個体が最も多く、体長は平均で約28センチ》と算出し《実測値》とほとんど差がないことが分かりました。

保有資産をデータ化できれば融資も円滑に

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このシステムはスマートフォンのアプリとして提供される予定で、シーエーシーでは年内のサービス開始を目指しています。

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井場辰彦さん:
「難しいからこそ、取り組んでいかなきゃいけない取り組み、価値のある課題なんじゃないかなと思っています。
魚を育てることも、日々天候が変わったりで、すごく神経を使う作業かなと思っています。なるべくそちらに集中できて、邪魔にならず、かつ今は手作業になっているところがちょっとでも効率的になるような形になって使っていただければありがたいかなと」

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このシステムが実用化されれば、養殖業における魚の資産価値をデータで算出することも可能になり、金融機関からの融資の円滑化にもつながると期待されています。

長崎の課題から生まれたAIアプリが国内の養殖業者の救世主となる日が来るかもしれません。