特集は店の再出発です。常連客に惜しまれつつ2023年、長野市の金物店が60年の歴史に幕を下ろしました。あれから3カ月。客の声も後押しとなって「刃物」に特化した店で再スタートを切りました。
慣れた手つきで包丁を研ぐのは吉沢正彦さん59歳。
3月3日、長野市東和田の「あおぞら市場」の一角に刃物の専門店「吉沢刃物」をオープンさせました。
包丁の研ぎを請け負う他、100本以上の包丁を並べ販売しています。
鎌や鍬もー
客:
「立派なものがいっぱいある」
「自分も料理をやっているので、刃物に興味があるんで。素敵な包丁ばかり」
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「ずらっと家庭用からプロ用までそろえてあるんで、刃物のことは多分「長野一」だと思う」
吉沢さんは3カ月前まで金物店の主。この日、新たな店で再出発を果たしました。
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「きょうからオープンということで、最初はちょっと不安もあるんですが、心機一転頑張っていきたいと思います」
昭和43年・1968年に先代の貞次さんが創業した「金物のデパート 吉沢金物店」。
家庭用品から、専門的な器具まで常時2万点以上をそろえ市民の暮らし、職人たちの仕事を支えてきました。
しかし、ホームセンターの出店やインターネット販売の影響を受けるようにー。
昨今の物価高も追い打ちとなり、2代目の吉沢さんは苦渋の決断をします。
吉沢金物店・吉沢正彦社長:
「消費者からすると食べ物とかが一番になって、金物とかは傷んでもまだ買い替えようとはそこまで手が回らなかったと思う」
2023年11月30日を持って店を閉めることにー。
吉沢金物店・吉沢正彦社長:
「長い間ありがとうございました」
常連客:
「なんか寂しいね、お父さんのときからずっと知っているからさ社長時代の流れで」
常連客:
「寂しいですよ(泣)。時代には勝てないね、やっぱり」
午後6時、最後の客を見送ります。
吉沢金物店・吉沢正彦社長:
「ありがとうございました。最後のお客さま帰りました」
ガランとした店内。するとー。
子どもたちが花束をー。
吉沢金物店・吉沢正彦社長:
「どうした(泣)。ちょっと、こんなことしなくていいよ、ありがとうね(涙)」
長女・里彩さん:
「長い間お疲れさまでした」
閉店から3カ月―。
吉沢さんは妻・弘美さんと新たな店「吉沢刃物」の開店準備に追われていました。
再起を決意したのは「研ぎ直し」の需要の高さを感じたからです。
金物店の閉店間際、「駆け込み」で500本以上、研ぎ直しの依頼が舞い込みました。
吉沢刃物・吉沢正彦さん(3月3日):
「(閉店後)どうしようかな、またやろうかなって、客からも刃物(研ぎの要望)の声が多いから、そういう声にこたえてあげなきゃいけないんじゃないのって。最初は不安はあるよね、刃物1点に絞ったから」
午前10時にオープン。
すると「金物店」時代の客が多く訪れました。
客:
「小さいころから吉沢さんちにお世話になりましたので、なくなったの寂しいと思っていたんですけど、また再スタートとなるとうれしいですね」
客(元居酒屋経営):
「今通りかかって、『吉沢刃物』って書いてあったんで、今聞いたら(元吉沢金物店)そうだって、ちょっと懐かしくて」
客:
「おうちで使う包丁なんですけど、どのあたりが」
妻・弘美さん:
「形は三徳包丁でいいですか?菜切り型もありますが」
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「うちのは安いのも鋼なので切れはいいんですけど、値段の違いで高くなるほど刃が硬くなるので、1回研ぐと長く使える」
三徳包丁を購入―。
三徳包丁を購入した女性:
「専門店で買った方がいいもの買えることが多いので、とてもいいと思います。(この包丁で何を切る?)主人!(笑)違う違う、子どもたちとか家族のご飯を作るのによく切れたらおいしいはず」
早速、「研ぎ直し」の依頼も。
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「これ今まで自分で研いでた?」
魚をさばくのが趣味の男性:
「そうです」
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「刃がないもんね、今」
魚をさばくのが趣味の男性:
「切れなくて、手直ししたくて。切れるように、ぜひ」
魚をさばくのが趣味の男性:
「出刃(包丁)なんですけど、いつも魚を自分でおろしている。こちらで再オープンということで、今後も末永くやってもらえば」
空いていれば「即日対応」も可能。
来店できない人向けに刃物研ぎの「引取・配達サービス」も新たに始めました。
研ぐこと約10分ー。
刃物研ぎを依頼した女性:
「すごくきれいです。研ぎをお願いして、そのまま買い物にも行けるので便利だなって思いました。家に帰ってさっそく料理に使わせてもらいます」
以前の金物店に比べれば随分、小さな刃物店。
でも、客の喜ぶ姿に吉沢さんは手応えを感じています。
吉沢刃物・吉沢正彦さん:
「長野でこれだけ刃物をそろえている店はないと思うので、さらに充実するように、客第一の要望を聞いて、そういうお店にしていきたい」