それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

250円ラーメン

250円ラーメン

ラーメン業界には「1000円の壁」があるそうです。ラーメン1杯が1000円を超えると値段が高いのでお客さんが離れ、1000円以下にすると材料費、人件費、光熱費の高騰でやり繰りできない。「1000円の壁」の狭間で廃業するラーメン店が増えています。

そんななか、茨城県水戸市に250円のラーメン店がオープンしました。店名は「ラーメン・餃子250」。店主は村上英雄さん・33歳です。

実家は、市内の飲食店に中華麺や餃子の皮を卸す老舗の「松月製麺所」。長男の村上さんは6代目になりますが、大学を卒業すると「家は継がない!」と言って、つくばのIT企業に就職します。その後、独立して起業しますが、コロナ禍で経営がうまくいかず……2年前、水戸に戻ってきました。

厨房でラーメンをつくる村上さん

厨房でラーメンをつくる村上さん

かつて実家の製麺所は十数人の従業員を雇っていましたが、現在は父親が闘病中で、母親が1人で麺を製造しています。「家は継がない」とは言ったものの、母親をどうにか助けたい。「どうしたらいいものか」と考えていたとき、村上さんはひらめきます。

子どものころの夢は「ラーメン屋さんを開くこと」でした。「水戸黄門もラーメン好きだった」と言うだけあって、水戸はラーメンの激戦区です。そこで店を開くとしたら、どこがいいのか。企業経営やマーケティングが専門の村上さんが選んだのは、歓楽街の「栄町」でした。

「夜の街なので、昼間はすべてのお店がシャッターを下ろしているんです。そこで250円のラーメン店を出したら、逆に目立つでしょう? SNSでお客さんが広めてくれるので、宣伝費も広告費もかからない。絶対にうまくいく自信がありました」

3つのこだわりを掲げています

3つのこだわりを掲げています

しかし、問題は開店資金が足りないことでした。知人や友人に話を持ちかけても「やめとけ」「失敗する」「絶対無理」と、99%が反対意見。「飲食店の経営はそう甘くないよ」と言われると、村上さんの気持ちも揺らいでいきます。

「ラーメン屋さんで働いたこともない自分が、店を開くのは無謀なのか」

諦めかけていたとき、ふと耳にした曲が、ラップとギターのユニット「MOROHA」の『革命』でした。その歌に心を打たれた村上さんは、「諦めちゃダメだ。いまこそ自分の革命のときだ!」と気持ちを奮い立たせます。

以前勤めていたIT企業の同僚に会い、自分の夢や店を開くための戦略を熱く語ったところ、同僚だった2人が「250円のラーメンか、いいじゃないか。やってみろよ、応援するから!」と言ってくれました。こうして「ラーメン・餃子250」は開店の運びとなります。

手作り餃子(4個)

手作り餃子(4個)

2月1日、開店初日の朝10時……お店の前には長い行列ができていました。次の日も、明くる日も、ずっとお客さんが絶える日はなく、予想を超える反響でした。

ところが、またまた困ったことが起きます。予定していたラーメンや餃子の数が午前中にハケてしまい、営業時間にもかかわらず「完売御礼」を出すことも。並んでいたお客さんから「お昼前に何で店を閉めるんだよ」と怒られたこともありました。

「まだまだペースが掴めないんです。これからは営業時間に完売にならないよう、しっかり在庫管理をしたいと思っています」

さて、肝心の「250円ラーメン」のお味ですが……まずスープを啜ると、醤油をベースにした豚の脂のコクと旨みがよく出ています。中細のストレート麺は、さすが自家製麺とあってツルツルシコシコ、程よく腰があり、のど越しがいいのです。

営業時間中に「完売御礼」も

営業時間中に「完売御礼」も

国産豚を使用した薄切りのチャーシューが1枚。大きめの海苔が1枚。刻んだ玉ねぎがひと摘み。「これで250円なの?」と、食べたお客さんは満足顔で帰っていきます。250円のなかに村上さんのこだわりが詰まっています。

「実家の製麺所には先代からの教えがありまして、『原価率を上げること』……つまり麺の材料費にコストをかけ、なるべく低価格で、おいしい麺を提供することなんです。とは言っても、250円のラーメンだけではやっていけません。ほとんどのお客さんが『手作り餃子』も注文してくれるんですよ。ラーメンと餃子で税込500円。これで何とかやれるんです」

朝6時から実家で麺をつくり、夜10時まで店に立つ村上さん。250円ラーメンで業界に革命を起こせるのか? その熱き挑戦は始まったばかりです。