特許庁は25日、2023年度の特許出願技術動向調査を発表した。同調査は世界中の特許情報を論文や各国地域別の出願件数などと合わせて分析、各国や各企業の研究開発動向を把握する。将来の進展が予想される技術テーマを毎年選定し、今回は「全固体電池」「量子計算機関連技術」「パッシブZEH・ZEB」「ドローン」「ヘルスケアインフォマティクス」について調査した。日本は全固体電池で特に強みを有するほか、国際競争が進む各テーマでも複数の日本企業が活躍している。(大川諒介)

全固体電池日本国籍、上位20社中14社

※自社作成

全固体電池は電解液に代わり固体電解質を採用した二次電池。現在主流のリチウムイオン電池(LiB)などと比べてエネルギー密度や安全性の向上が見込まれ、電気自動車(EV)への搭載などを見据えた関連技術の開発が進む。2カ国・地域以上に出願された「国際展開発明件数」で日本国籍は全体の48・6%と首位で、他国籍に比べて大きくリードする。「発明件数出願人」では上位20社のうちパナソニック(1位)、トヨタ自動車(2位)など日本企業が14社を占めた。

調査は正極や負極、セパレーター層を含む固体電解質に関する構造、セル技術など関連技術や材料、設計製造技術も対象にした。発明件数出願人では蓄電池や車、材料など幅広い日系メーカーが上位を占める。電解質材料別ではEV向けで開発が進む「硫化物系」の出願が最も多い。ただ、同分野では近年、中国をはじめ各国・地域の出願が盛んになっているとし、優位性を保つために今後も持続的な研究開発が必要とした。

量子計算機関連技術富士通やNECなど増加傾向

世界各国で量子重ね合わせや量子もつれといった量子力学の現象を利用し、並列計算を実現する量子コンピューターの研究開発が進む。機械学習やシミュレーションなどの高度化により幅広い産業での応用が期待される一方、超電導方式や中性原子方式など多様な計算機の方式で研究開発が行われている。

IBMのゲート型商用量子コンピューター「QシステムONE」
※自社作成

国際展開発明件数では米IBMなどを擁する米国籍が全体の50・5%と先行する。ただし、「市場としては発展途上で、出願件数も多いとはいえない状況だ」(特許庁)と分析する。富士通やNECなど日本国籍出願人による出願も増加傾向という。

また、技術区分ごとの発明件数をみると「大規模集積化」「コヒーレンス時間の向上」「量子エラー訂正」を課題・主題とする出願が多くなされていると分析する。世界的に本命とされる量子計算機の手法が定まっていない状況では、日本を含めて課題克服などに向けた継続的な研究開発が必要とした。

パッシブZEH・ZEB太陽光一体型建材、巻き返し期待

「ZEH」「ZEB」は、それぞれ「ゼロ・エネルギー・ハウス」「ゼロ・エネルギー・ビル」の略で、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅・建築物を指す。外皮の断熱などのパッシブ技術を調査対象とした。国際展開発明件数は欧州籍が48・5%と約半分を占める。ただし、中国籍の出願のうち国内向けが97%を占めるなど、同テーマでは法規制や気候特性などへの対応から自国籍による出願が大半。出願人をみても各社の件数に大幅な偏りがみられない一方、上位20社中に日本企業6社が含まれるなど活躍がみられる。

「太陽光発電モジュールの支持構造」の技術区分では取り付け架台に関する発明で日本国籍が中国籍に次いで多数出願している。一方、太陽光電池モジュール一体化建材は日米欧中韓国籍の中で日本国籍が最少件数。太陽光電池と一体型の建材はZEHの普及を追い風に市場拡大が見込まれ、日本企業による巻き返しが期待される。

ドローン農業・物流・点検分野で積極展開

飛行ロボット(ドローン)関連の技術、用途、課題の三つの軸から分析した。国際展開発明件数では、17―21年に1042件の出願を行ったDJIを擁する中国籍の出願比率が42・7%を占める。日本国籍は11・1%にとどまるものの、出願人の上位3社に農業用ドローンの設計開発・製造を手がけるナイルワークス(東京都千代田区)が入るなど日本企業の活躍もみられる。

中国籍の出願比率が全体の約43%と先行するも、農林水産業や搬送物流など市場拡大が見込める分野では日本の伸びも期待される(イメージ)

技術区分別でも全区分で中国籍の件数が1位を占めることから、中国企業が積極的な技術開発を展開していることが示された。

日本では近年、農林水産業や物流搬送・点検など産業課題解決につながる分野での積極的な出願がみられるという。「調査を通じて存在感の向上が期待される分野が複数みられた」(特許庁)とし、ドローンの社会実装の加速に伴う、日本企業の展開積極化が期待される。

ヘルスケアインフォマティクス医用画像で強み発揮

ヘルスケアインフォマティクスは、情報通信技術を駆使し、個人の健康・医療に関する情報を本人や医療従事者などが、モバイル機器などを通じて時間や場所の制約を受けずにやりとりを可能にするもの。調査ではヘルスケアソフトウエア、医療、リハビリテーション、介護などの分野における関連技術を対象にした。

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15―21年の国際展開発明件数では全体の34・4%を占める米国籍が先行する。ただ、出願人上位20社のうち日本企業が8社を占めるなど関連技術に対する関心の高さがうかがえる。

技術分野別では近年は世界的に人工知能(AI)・機械学習に関する発明件数が増加傾向にあるが、同分野における日本企業の件数は米国や中国などと比較して少ない。一方、日本勢は画像診断に関する出願が多く、とりわけ放射線診断機器やファイバースコープなどの医用画像分野で日本の強みが発揮されていると分析する。


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