焼肉の市場規模は、店舗数2万2000店、年商約1兆2000億円と推計されている(2019年12月、日本フードサービス協会調べ)。コロナ禍での焼肉は、テーブルごとに吸気ダクトが備えられた店内設備が「換気がいい=3密回避」とのイメージが定着。加えて、外出規制で外食したくても外出できない中、どうせ行くなら、1回の外食で満足したいと人気が集中した。
 昔、贅沢な外食と位置づけられていた焼肉だが、最近ではファミリー層向けが進展し、勢力を拡大してきている。特に焼肉食べ放題は、経営側から見ても、客単価が高く、オペレーションや会計も単純。人件費の抑制など費用構造的にも最適で、一時は業績不振に苦しむ居酒屋など異業種からの参入が相次いだ。

 今回は家族連れに人気の焼肉食べ放題「焼肉きんぐ」と、孤食を希望する客をターゲットにした「焼肉ライク」の経営モデルの違いと今後の展望について、分析してみたい。

◆「牛角」は店舗数減少。家族連れに人気「焼肉きんぐ」

 人気の焼肉チェーンだが、各社の公式サイトやIRデータを見ると、1位は牛角588店(24年3月7日時点)、2位は焼肉きんぐ318店(同時点)となっている。だが、牛角が店舗数を減らしているのに、焼肉きんぐは前年比6%増と勢いが店舗数に表れている。

 食べ放題が人気の焼肉きんぐは、焼肉の基本である肉質が高く、キムチ・サラダ・石焼ビビンバ・冷麺といったバリエーション豊かな一品料理が一部コースでは無制限に食べられるのが魅力である。加えて、食べ放題メニューが税込み3058円〜とリーズナブル。落ち着いて食事ができる個室感覚のレイアウト、若い子を中心とした元気で笑顔あふれる接客などが、ファミリー客に人気のようだ。

 運営元である物語コーポレーションは、1949年愛知県におでん割烹店の創業からスタート。80年代後半から90年代にかけて同県を中心に海鮮料理屋を展開し、95年にオープンした「焼肉一番カルビ」を機に焼肉事業へと参入。しかし同チェーンは芽が出ず、2001年に開店した丸源ラーメンが当初の中核事業となった。

 焼肉きんぐの1号店をオープンしたのは07年。様々な業態の飲食店を展開していたが、特に丸源ラーメンと焼肉きんぐの拡大が競争力の源泉に。そして現在、焼肉きんぐは300店、丸源ラーメンは190店舗を突破し、17のブランドを展開している成長著しい企業である。

◆「内心ほくそ笑んだ」儲けのカラクリ

 食べ放題スタイルの店は多いが、あれだけ食べられて店は採算が取れているのか不思議に思う人は多いと思う。もちろん慈善事業ではなくちゃんとした収益事業なので食べ放題業態で運営している店は、損をしないための工夫をしている。

 筆者は飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士だが、前職は食べ放題メニューがある焼肉店の経営者だった。よくお客さんから「焼肉食べ放題の店はあれだけ食べられて何でやっていけるのか」とよく質問を受けた。「いやいや大赤字ですよ」と、店の窮状を表面上は訴えながら、ほくそ笑んだものだった。

 焼肉食べ放題は調理のメインである「焼く」をお客さんに任せることと、一品メニューを簡単メニューにすることで、職人が必要なく、コックレスの仕組みを確立して人件費を抑制させる特性がある。

 また、食べ放題に飲み放題をセットすれば、多くの場合、客単価もアップする。大概のお客さんはどちらかに偏るもので、二刀流は滅多にいない。適度に酒類の調達が増えて、ビールメーカーや酒屋との取引で仕入れ額や販促奨励金など優位な交渉も可能となり原価低減ともなる。

◆焼肉食べ放題はどうやって儲けるのか?

 私が焼肉店を経営していた時、最も儲かるメニューと言えば、食べ放題であった。単品注文用で高額商品の和牛の特選ロースや特選カルビもあったが、一般のお客さんではなかなか注文しにくい価格かつ、商品回転率が低いので在庫管理に苦労した。また、高級和牛肉や専門性の高い一品料理を提供するには職人が必要となり、人件費も高くなる。

 一方で、食べ放題に関しては、セントラルキッチンである程度の加工をしていれば、店のアルバイトでも十分に対応が可能である。食べ放題に注文が集中すると仕込みや段取りなど作業がやりやすく、作業の標準化・単純化が実現できる。

 味変などで追加できる品目数を増やし、お客さんに選択肢の多さをアピールするものの、実際には追加されるメニューのパターンは決まっているため、アルバイト中心の運営が可能である。

 今は各店の競争が激しくなり、メニューが多品目化し、若干調理作業が煩雑化しているが、それでも食材の共通化や半加工商品化による種類の増加で品数が多い割には、在庫と作業負担を軽減できている。

◆注文されると収益的に苦しい部位は?

 一般的に焼肉食べ放題の費用構造は原価35%、人件費25%、業務費10%、管理費20%、営業利益10%の店が多い。業態にもよるが飲食店の場合、重点管理費用は当然に原材料費と人件費であり、これら「FLコスト(材料と人件費)」を徹底的に管理すれば、儲けが出る。

 食べ放題の品目の中でも、原価10%の商品もあれば70%の商品もある。メインの焼肉の中でも塩牛タン、歩留まりにもよるがロース、カルビ、上ハラミなどは原価が高く、これらに集中すれば店は収益的に苦しい。特に希少部位である牛タンは上価格帯の食べ放題でしか入れられないのが現状である。

 高原価の肉ばかり食べられると原価が高騰するから、他の一品メニューに分散させて原価率の安定化に努める。ホルモン系統、キムチ、サラダ、わかめスープなどの低原価商品に誘導し、推奨販売させれば、標準原価である35%を維持でき、店も顧客も双方が満足する。

 食べ放題店は必ず複数のプランを用意しており、上・中・下の価格帯になっている。その中で、和牛や国産牛を入れた上位のプランは儲けが一段と違う。和牛などの霜降り肉は脂でしつこくなるから、量を食べられず、すぐにダウンしてしまうからだ。最初はピンク色の霜降り肉を見て、歓声を上げるが、実際に食べるとなるとそれは別である。すぐにあっさりとした原価の低いサラダやキムチなど一品メニューに移行してしまい、店としても単価は高く、原価も低いドル箱プランである。

◆孤食をターゲットにした「新たな焼肉」スタイル

 最近は1人で焼肉を食べたいといった潜在ニーズを顕在化させた店が店舗数を増やしている。それが東京都を中心に全国86店舗 (24年3月6日付)を展開する「焼肉ライク」だ。

 焼肉は1人では入りにくいものだが、その1人客をターゲットにした小型(20坪程度)で効率の高い焼肉店の存在感が出てきた。孤食を好み、気兼ねなく焼肉を食べたい1人焼肉の需要に応えた店づくりで、客席回転率の向上による坪当りの売上・利益を拡大させている。

 焼肉ライクは「焼肉をもっと自由に」をキャッチフレーズに、フランチャイズの加盟店を積極的に応募し、多店舗展開をしている。18年8月、東京・新橋に1号店を開店した。生みの親はなんと、牛角の創業者でもある西山知義氏が率いるダイニングイノベーションだ。

 店の特徴としては、1人でも気軽に行ける焼肉屋、焼肉のファストフード、自分風にカスタマイズした焼肉を目指し、1人1台の自分専用のロースターを設置し、周囲の目を気にすることなく、自分のペースで焼肉を堪能できる店づくりにしている。

◆「焼肉ライク」人気の要因とは

 焼肉ライクの想定客単価は、時間帯にもよるが、昼が1100円、夜は1500円。滞在時間は25分で「低単価、高回転」を徹底した新たなビジネスモデルが、加盟店希望者には魅力のようだ。競争相手は焼肉店だけでなく回転寿司なども視野に入れており、今後も顧客動向を注視しながら、さらに磨いていくだろう。

 新業態が一過性のブームにはならないための工夫もされており、例えば、肉の部位が50グラム単位で選べるカスタムメニューや店舗推奨メニューの組合せなど、飽きのこない仕掛けで再来店を促すなど、永続的価値の提供に努めている。

 焼肉ライクは、①誰に気兼ねすることなく、1人で焼肉を食べたいという潜在ニーズを満たしている、②あまり時間がない時でもさっと食べられる、③自分好みで、自分のペースで自分が焼いた肉を誰にも取られることなく堪能できる、④手軽な価格で焼肉をお腹一杯食べたいといったお客さんのニーズに適合させているのが人気の要因である。

 焼肉ライクの出現により、同じようなコンセプトの1人焼肉店をあちこちで見るようになった。単身者世帯の増加でさらに成長するか。

◆今後の焼肉業界の動向はどうなる?

 飲食業界は、円安・物価高・人手不足など店を取り巻く外部環境には逆風が吹いている。特に輸入牛肉に依存する焼肉食べ放題店にとっては、大きな痛手である。

 また、日本は外食慣れした人が多く、世界一、品質に対する目が厳しいからコスパ評価も手厳しい。また、今はSNSの普及で、お客さんの持つ情報量が多く、店側の情報優位性がなくなりつつある。情報武装したお客さんが多いと、店側が利益を確保する機会が減り、飲食店の営業利益率の低下を招いている。

 そういった環境の中でも、計画的な大量仕入によるスケールメリットを発揮した食材を効率よく活用し、食べ放題の品目を多さとコスパの良さを実現した店は強く、競争上の差別的優位性を確保しているようだ。

 外食業界の人手不足はかなり深刻で、省人化とDX化は、今後もさらに難しくなる人材の確保への対応策となるであろう。焼肉は調理のメイン(焼くこと)を顧客にやらせるなど職人が不要で人件費を抑制しやすい。また今は、大手焼肉チェーンの多くがタッチパネルのオーダーシステム、配膳ロボット、セルフレジを活用し、省人化投資を競い合っている状態である。

 人件費や原材料が上昇する中、できるだけ価格を抑えながら大量に集客し、効率よく食事を提供する為の手段のDX。各店が、今後のさらなる人手不足も視野に入れ、店内の無人化への競争が令和の今は激化している。お祝い事など「ハレの場」には、「焼肉でも行こうか」との声も多く、家族団欒で食事をするには最適な場所としての存在感がある。それだけに、今後の動向に目が離せない。

<TEXT/中村清志>



【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan