「FIFAワールドカップ2026」のアジア2次予選に挑んでいるサッカー日本代表。「AFCアジアカップ カタール2023」での敗退以後、初の試合に臨むことになり、どう立て直しを図るのか注目を集めていた。3月21日と26日にいずれも北朝鮮との対戦が行われる予定で、特に第2戦目は13年ぶりの平壌での試合ということもあって、サッカーファン以外からも関心を持たれていた。
 招集メンバーを発表する際の記者会見で森保一監督は「おそらく想定外のことはたくさんある」と、アウェイでの北朝鮮戦への警戒を示していた。ところが、実際にはその想像の斜め上をいく結果が待ち受けていた。

◆想像の斜め上をいく結果に

 26日に平壌で試合を開催する予定だった北朝鮮は、20日に劇症型溶血性レンサ球菌感染症からの防疫を理由に日本代表の入国を拒否した。中立地での開催を希望する旨をアジアサッカー連盟(AFC)へ通知。日本代表の選手に知らされたのは21日の試合に勝利した後だったという。代替地での開催も検討されたが、翌22日に開催は不可能と判断が下される。日本代表は解散して3月の活動を早めに終えることになった。

 この問題を付託された国際サッカー連盟(FIFA)は、23日に「延期」ではなく「中止」とすることを発表。北朝鮮は責任を問われることとなり、追ってFIFAから罰則などが発表されることになるだろう。過去の事例と照らし合わせれば、おそらく「日本が3−0で勝利」したことになるのが濃厚と考えられる。そうなれば、3月に予定されていた2試合で勝ち点6を得ることになり、日本代表のワールドカップ最終予選進出が決定する。

◆チャンスは多かったのに、1点どまりだった

 早い段階で次ラウンド進出が決定するのは、悪い話ではない。けれども、現状の日本代表はアジアカップ敗退からの立て直しを図る段階。その機会が失われてしまったことは、将来的には喜べない事態になるかもしれない。

 アジアカップで課題となったのが、「ロングボールを主体とした攻撃」への対策。21日の試合を見る限りでは北朝鮮にその狙いがなかったため、日本代表がどのような作戦を温めていたのかまではわからなかった。

 とはいっても、試合内容自体はよかった。特に前半は堂安律と菅原由勢、前田大然と伊藤洋輝がうまくポジションを入れ替えながら、ピッチの横幅を有効的に使った展開から相手ゴールに迫った。試合開始早々に田中碧が得点し、その後も決定機をつくり続けたことから大量得点も期待されたが、結果的にはその1点にとどまってしまったことは残念である。その理由は明白で、相手の守備を崩すところまではよかったのだが、ラストパスやシュートといった最後のプレーが決めきれなかった。

◆森保監督の采配が“進化”していた?

 後半に入り、プレッシングを強めてきた北朝鮮に何度かシュートチャンスをつくられる。前半とは違い、前線からのプレスも仕掛けてきた相手に対して、日本代表のビルドアップの精度が低くなっていった。そこで森保監督は後半29分にシステムを3バックに変更。後方で数的優位な状況をつくりつつ、全体を押し上げてコンパクトな陣形を保つことで、試合のペースを取り戻すことに成功した。

 アジアカップでは状況を見据えた一手を打てていなかった森保監督だが、この試合における采配には進化を感じるものがあった。

 1試合だけではなんとも言い難いが、早期敗退の反省点を生かした戦いはできていたように思われる。苦しい展開を招いてしまったのは、フィニッシュの精度や、プレッシャー下のプレー判断など、“できるはずのプレー”ができなかったためなのだ。

◆「ワールドカップ優勝」を目指しているのであれば…

 三笘薫、冨安健洋、伊東純也など本来のメンバーを招集できなかったことに加えて、招集できた遠藤航や久保建英のコンディションは決して万全ではなかった。しかし、ワールドカップでの優勝を公言するチームであれば、さらにクオリティの高い試合を見せてほしい。実現できるポテンシャルは持っているはずなのだ。

 ピッチ外でのひと悶着に巻き込まれてしまい、アジアカップで露呈した課題の解決は持ち越しだ。おそらく最終予選進出は確実となったが、6月にはミャンマー、シリアとの試合が残っているし、その後は9月からは最終予選が始まる。アジア勢としのぎを削る機会が続くからこそ、現状の課題は必ず解決しなければならない問題である。注意深く観察していきたいところだ。

<TEXT/川原宏樹 撮影/MTK Photo>



【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる