貧困、障がい、宗教二世など、多様な困難を抱える男性をあらわした“弱者男性”という言葉。弱者男性当事者の声を集めた話題の新書『弱者男性1500万人時代』で、ライターのトイアンナが、過少評価されてきた弱者男性たちの実態を明らかにするため、これまで数量的に定義されていなかった「弱者男性の人口」の推計に踏み切った。
その結果、「最大で1500万人」、つまり男性の約24%、日本人の8人に1人は何らかの弱者性を抱えていることがわかった。そのなかには、一見“強者”と思われがちな高学歴男性もいる。共感が得られない、孤独な生きづらさの正体に迫った――。

今回は30代前半で年収1000万円を超えるのに婚活で苦戦し、苦い思いをしている男性に話を聞いてきた。彼はなぜ弱者になってしまったのか。

◆年収1000万円超でも顔と家庭環境で婚活に苦戦

「外見がキングボンビーに似ているからと、いじめられたことがあります」

と語るのは、色白でぽっちゃり体形のサライさん(ハンドルネーム・34歳)。

サライさんは、大阪の高専→新潟の国立大を卒業。その後は外資系IT企業で活躍している。30代前半にもかかわらず、年収は1000万円を優に超えるトップ層だが、幼少期から現在に至るまで、外見で差別され続けたルッキズム起因の弱者だ。

「もともと肌が白くて太っているので『大福』っていじられて、嫌でしたね。高校生のころは、通学路が自転車で坂を下るルートだったんですが、せっかくカッコつけてセットした髪が、下り坂の風でブワッと広がって、先ほどのひどいあだ名につながりました」

◆恋人いない歴=年齢。友人に相談するも…

これまでに恋人ができたことはない。大学時代は、友人に「彼女が欲しい」と相談したこともあるが……。

「『歯を矯正しろ、痩せろ、学歴もあるんだから、それならモテるはずだ』と厳しい指摘を受けました。ただ、僕はストレスが溜まると食べてしまうタイプ。だから、ダイエットが本当に難しいんです」

◆家庭の事情を話すとLINEをブロックされる

さらに、身長が168㎝だったことから、婚活でハンディを背負ったという。

「相手の候補を検索するときに、170㎝以上でフィルターをかけている女性が多いのか、マッチングアプリでは、一切マッチしませんでした。登録した結婚相談所には、160㎝台の男性で構わないという女性もいましたが、自分は顔写真で切られてしまう」

しかし、サライさんの年収はなんと毎年200万円ずつ上がっている。それに比例して、会える人の数は増えた。

「デートはしてもらえるのですが、いざ結婚の話になると、。実は、私の弟は精神障がいを患っていて、さらに父が要介護の状態。その事情をお話しすると、その場では笑顔で対応してくれても、帰宅したらメッセージをブロックされてしまいます」

◆「女性を責める気にはなれない」

高学歴・高年収、さらに性格も穏やか。その長所を持っているからこそ、サライさんは「女性を責める気にはなれない。そういう原理で結婚相手を選びたい、女性の気持ちもわかるので」と語る。

「結婚したら、ATM扱いでも構わない。高学歴・高年収。自分の武器は、もうこの2つしかないんです。だから、ほかのことを頑張るよりも、年収を上げていくしかないんじゃないかって思います」

容姿に介護、きょうだいの病気。複数の弱者性が悲痛な叫びをもたらしている。

【サライさん(ハンドルネーム・34歳)】
大阪の高専を卒業後、新潟の国立大に編入。英語やプログラミングの難関資格を取得し、外資系IT企業でソフトウェア開発を担当。人生で彼女ができたことがない

<取材・文/週刊SPA!編集部>

―[[高学歴弱者]の肖像]―