元セクシー女優でフリーライターの「たかなし亜妖」がお届けする連載コラム。2016年に「ほかにやることがなかったから」という理由でセクシー女優デビュー。女優生活2年半が経過したところで引退を決意し、現在は同人作品やセクシービデオの脚本など、あらゆる方面で活躍中。
◆「AV新法」が業界にもたらした影響は

「AV新法」が施行されてからまもなく2年。どうやら2024年6月頃に内容の見直しが入り、さらにルールが変更されるらしい。女性の被害を根絶し、業界のクリーン化を図るために世の中が動き出すなんて、一昔前の概念では考えられなかったことだろう。

 筆者は以前から新法に関する話題を避けていたが、見ているとツッコミを入れたくなる点がわんさかあるので、今回は敢えて記事にしようと思う。考え方は人それぞれなので、あくまで以下の文章は「いち個人としての意見」として捉えてくれると嬉しく思う。

 まず最初に、新法の内容についてよくわかっていない人も多いと思うので、簡単に解説しよう。正式名称は「AV出演被害防止・救済法」であり、女性を守るために作られた新しいルールだ。新法制定後は出演に関する契約を徹底的に行い、女優の希望でビデオの販売停止が可能になった。

 なぜこのような法が作られたのかというと……、時は遡り2016年頃。ビデオ出演強要被害に遭った女性たちが声を挙げ、世間を大きく騒がせた。

「事務所やメーカーがグルになって囲い込まれ、断れなかった」
「グラビアと聞いて現場に入ったら、ビデオ撮影だった。到底断れる雰囲気ではなかった」
「事務所との契約解除を申し出ると、法外な金額の違約金を請求されて……」

 ぶっちゃけ、涙ながらに訴えた女性の中には事実を“盛った”人もいるそうだが、もちろん被害者がゼロなわけではない。このような人たちが今後一切出ないようにするため、新法が作られることになった。

◆新法によって出演者の立場が最優先に

 女性を守るために制定されたルールのため、内容としては完全なる“演者ファースト”である。事務所やメーカーよりも出演者の立場が圧倒的に上となる内容のため、セクシー女優の自由度がかなり上がったと言えるだろう。

 先ほどの項目でビデオの販売停止可能について書いたが、これは流通前の作品も対象である。

 新法により、撮影から販売まで4カ月以上の時間を空けることがマストに。つまり、デビュー作を撮ってギャラを受け取った後であっても、女優側が「あ、やっぱビデオ販売されたら困るかも……」となれば、販売中止することが可能になったということだ。

◆契約を気にせず引退することも可能に

たかなし亜妖さん また、新法制定後は事務所の契約期間を一切気にせず、いつでも退所ができる。

 よく芸能界で「あと契約まで〇カ月残ってるからやめられない」なんて話を聞くが、セクシー業界にはそれがない。たとえ明日明後日現場が決まっていても、今すぐ引退したければ、すべてをキャンセルしたって違約金も何も払わずに速攻やめられる。

「覚悟ができないなら最初から出演すんなや」なんてキツイお言葉は一旦置いておいて……。とにかく演者が最優先となれば働き手としての負担が減るので、新法は業界のブラックなイメージを払拭するのに一役買っているのだろう。

◆新法制定で現場のあり方が大きく変わる

 しかし、残念ながら制定後はいいことばかりではない。演者としては負担が減って有難いものの、その分のしわ寄せが事務所やメーカーにきている。

 例えば現場が明日決まっていて、女優が「今すぐ辞めたいです!」と言ったとしよう。もちろん本人の意思を尊重し、人権を守らねばならないから申し出を引き受けるほかないのだけれど、事務所や制作側からすれば“勘弁してくれ案件”でしかない。当然、撮影のための人員(監督、ヘアメイク、ADetc.)とスタジオは押さえてしまっている。単体作品ならその女優に合った衣装の購入までしているかもしれない。いろいろな人のスケジュールをバラしたとしても、ギャラを支払う必要があるため、飛ばれると見事にマイナスまみれなのである。

 だからこそ撮影前に本人の意思確認を入念に行い、「この子は本当に大丈夫か」なんて見定めを以前よりしっかりと行うようになったが、それでも“明日やめます勢”をゼロにするのは難しい。女性が被害に遭わないのが一番重要なポイントではあるものの、その裏では真面目にやっているスタッフ陣がひたすら歯を食いしばっているのだ。

 かつて強要問題を引き起こしたメーカーや事務所のせいでこうなった、といっても過言ではないけれども、新法が必ずしも業界にプラスの影響を与えているわけではない。締め付けが強くなる分メリットデメリットは必ず起り得るものだが、演者ファーストと言いつつ実は現役セクシー女優にもしわ寄せがきているとか……。

 グレーな業界のクリーン化は難しく、大きな課題がいっぱいだ。来週公開するAV新法にまつわる話の後編では女優たちの苦悩についてもお話していく。

文/たかなし亜妖

―[元セクシー女優のよもやま話]―



【たかなし亜妖】
元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。