高橋一生(43)にとって「岸辺露伴は動かない」シリーズで演じる岸辺露伴は「どこまでが露伴でどこまでが自分なのか、自分の中では質問しないようにしている」相互関係を感じる存在だ。

6日にNHK総合で、昨年公開の映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」がテレビ初放送。10日にはドラマ最新第9話「密漁海岸」の放送を控え、高校時代に原作と出会い、精神性に大きな影響を受けた作品を通し、自身を語った。【村上幸将】

特殊能力「ヘブンズ・ドアー」を駆使し、リアルな漫画を書くことを追及する、岸辺露伴。人の頭部を本にすることで人生、思考、秘密などを読め、指示を書き込むことで操ることまでできる。現実離れした物語と露伴に、現実に生きているであろう血肉を通わせる高橋の芝居は、原作の再現などという次元を超えている。その源が「高校生の頃から見て、精神性のようなものには多分に影響されている」と語る、人生における露伴との密接なつながりだ。

高橋は「すごく冷静で何が正しいとか、悪いとかある意味、超えちゃうところがある」と露伴を評した。「密漁海岸」では、料理で客の体の悪いところを改善させる力を持つ、シェフのトニオ(アルフレッド・キャレンザ)のイタリア料理店を編集者の泉京香(飯豊まりえ)と訪れる。婚約者の初音(蓮佛美沙子)が重い病気を抱えるトニオから、どんな病気でも治すと言われる伝説のヒョウガラクロアワビの密漁を持ちかけられ、協力する。

人の命を救うために、違法を承知で密漁に協力する露伴を踏まえ、高橋は「善悪二元じゃなく、その真ん中に立って何を見極められるか? をやった上で、あえて悪に突っ込んでみたりする」と評した。その上で「自分にとって勇気づけられる性格。それ(芝居)をやることができるのは、自分にとっても影響がある面白い相互関係」と、演じることでも露伴から影響を受け続けていると明かした。

見どころの1つが、アワビが全身につき海中に沈んでいく露伴を描くアクションシーンだ。水中で回転し、苦悶(くもん)する姿は「呼吸しないで(息を)吐ききった状態でないと体は沈まない」「カットがかかっても水面に上がっていけない。息ができなくて、こんなに一瞬で気を失いそうになるんだ」と振り返る過酷な撮影のたまものだ。

現在、43歳だが「年齢に対する衰え、きつい、痛いな…みたいなことを全く感じたことがなくて。体が丈夫で良かったな」と笑みを浮かべる。「あまり上半身に(筋肉を)付けないように、下半身に強く意識を持っていっていますが、20代から同じ運動を毎日、欠かさずやっている」。何事でもないように口にするが、スイムスーツからのぞく露伴の腹筋が割れていることからも、積み重ねた鍛錬は画面からもにじむ。

作品、役を選ぶ基準は「自分がその人格をやれるか、自分の人生にフィードバックがあるか、やりたいか、やりたくないか」だという。その中でも、露伴は人間としての精神性だけでなく、俳優としても大きなものをもたらしてくれた、仕事としても特別な存在だ。

「自分の中で、あり得ないことを、あたかもあり得るように、どれだけ腑に落とせるかということ。そんじょそこらの、ぶっ飛び方だったら別に何てことはないだろうと思えるようになった。落とし込むことに対しての自信は、俳優として、すごく強い力になる」

次回作への期待は増すばかりだが「多分、応えることがないんだと思います」と言い切る。「何よりも、露伴を作りこんでいくことに執心している。これからも多分、そのスタイルで行くと思います」。共に歩いて行ける限り、高橋は身も心も露伴であり続ける。

◆「岸辺露伴は動かない」 漫画家・荒木飛呂彦氏の人気シリーズ「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する、S市杜王町に住む人気漫画家・岸辺露伴を主人公に描いたスピンオフ作。97年に第1作「懺悔室」が発表され、08年の第2作「六壁坂」以降シリーズ化。実写ドラマは20年にNHK総合、BS4Kで1〜3話が連続放送されて以降、23年まで3年連続で12月に放送(同年まで全8話)。昨年5月公開の「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」は、興行収入12億5000万円とヒットした。