【芸能界クロスロード】

 放送批評懇談会が選ぶギャラクシー賞月間賞のひとつに1月期ドラマで話題を集めた「不適切にもほどがある!」(TBS系)が選ばれた。

 昭和から令和にタイムスリップした阿部サダヲ演じる主人公の不適切な発言が物議を醸したが、不良高校生の娘役で出演していた河合優実(23)の存在感が際立っていた。放送開始直後は「この子、だれ」と言われていた河合だったが、父親とのやりとりで飛び出す過激なセリフも「本当にこんな子いそう」と思わせる演技に視聴者は魅せられた。

「可愛い女優はたくさんいますが、スケバン風のセーラー服と表情、吐き捨てるようなセリフを言えて絵になる女優はそういない。河合はまさに適役でした」(テレビ関係者)

 山口百恵に似た顔も話題になったが、見る人に与えた印象は百恵と似た一面もあった。デビュー時の百恵は暗い印象すら感じる歌唱スタイルで「アイドルらしくない」と呼ばれた。5曲目のシングル「ひと夏の経験」は、「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」という過激な歌詞で大ヒット。「百恵ってどんな子」と関心を呼び、女性誌は生まれ育ったルーツまで特集した。河合も「何者なの」と思わせる不思議な魅力を持っている。

 河合は日大芸術学部在学中「女優になりたい」と舞台で活動を開始。2022年に出演した映画「由宇子の天秤」の高校生役でブルーリボン賞新人賞。若手実力派と業界内では評されていたが、目立つ女優ではなかった。阿部が所属する劇団「大人計画」の舞台にも出演して鍛錬を重ねた。息の合った阿部との共演も必然だった。

 脇役からのブレークは“朝ドラ”でお馴染みだが、民放連ドラから現れた河合にメディアも「天才女優」「底知れぬ魅力を持つ」と絶賛する記事が相次いだ。演劇関係者は、「事務所のプッシュより演劇界全体も彼女を後押しするような雰囲気が流れている」という。

 テレビ・映画界も河合の担ぎ出しに動き出した。4月期ドラマ「RoOT/ルート」(テレビ東京系)に探偵事務所のクールな調査員で主演。6月公開の映画「あんのこと」では親から虐待を受けて育ち、薬物中毒と売春をする21歳の女性が立ち直る姿を演じる。7月は昨年NHK・BSで放送した「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」が総合テレビで再放送。祖母と車椅子の母、ダウン症の弟と暮らす女子高生役で高評価を受けていた。河合人気はNHKを動かし総合に格上げさせたのか。

■2年前に池松壮亮との熱愛発覚も、仕事への影響なし

 スキャンダルはすでに一足早く経験済み。2年前、「週刊文春」が10歳年上の俳優・池松壮亮との熱愛を報じた。今も交際が続いているともいわれるが、人気優先のアイドル系女優と違い、仕事に影響することはない。百恵のように私生活も含め応援したくなるタイプと思う。

 デビュー5年目にして開花した背景には独自の事務所選びがある。河合は「同世代が多い事務所ではチャンスに恵まれないのでは」と、オダギリジョーら男性俳優が多く所属する少数精鋭の「鈍牛倶楽部」に所属。バラエティーなどに出演することなく俳優業に専念できる環境を選んだ。

 ベテラン俳優が次々と独立するなか、俳優を目指す若手は「自分の将来を見越して事務所を選ぶ」時代。芸能界も売り手市場の到来を告げている。

(二田一比古/ジャーナリスト)