【パリ五輪を目指す注目女子アスリートの履歴書】

 原わか花
 (女子ラグビー/24歳・東京山九フェニックス) 第4回

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 2022年のW杯後、原は引退を考えたという。

 東京五輪の1年延期に伴い、パリ五輪に向けた準備はすぐに始めなくてはいけない。女子ラグビーのワールドシリーズは目前に迫っていた。

「五輪を目指すということは想像以上に過酷です。代表合宿に呼ばれてから、さらにメンバーが絞られる。誰もが選ばれたいという気持ちを持っているから、凄まじい重圧があるんです。いいパフォーマンスを見せなきゃいけない。ミスしたら落とされるかもしれない。そういう焦りもあり、精神的にかなり苦しい。またあの過酷な日々が待っていると思ったら、しんどくて。だったらもう引退しようと」

 新潟の実家に帰省した際、家族に胸中を打ち明けた。原は一度決めたことは曲げない性格だという。両親はそれを理解しているからか、娘の決断をすんなり受け入れた。

 しかし、2歳下の妹だけは違った。不機嫌そうな態度で、ソファーに寝ころびながら顔をうずめていた。その日の夜、妹の自室からはすすり泣くような声が聞こえた。

「どうしたんだろうと思っていましたが、東京に戻ってきてから、母が教えてくれました。妹は私が引退するのがすごく嫌だった、プレーしている姿を見られなくなるのが辛い、と。普段はラグビーの話なんてまったくしないのにです。私のプレーをここまで楽しみにしてくれている人がいるのなら、もう1回頑張ってみようと。パリ五輪を目指す覚悟ができました」

 原の身長は156センチと、女子ラグビー選手の中では小柄な部類に入る。他の日本代表選手の体格も海外選手には及ばない。一見すると不利にも見えるが、「世界の舞台で戦う時に、日本人の小柄な体型は強みにもなる」とこう続ける。

「体が小さくてもできることはすごくたくさんある。足りない部分を補うことも大切だけど、今あるもので戦っていくことも同じくらい大切。例えば、大柄な選手にタックルをする時は、相手の膝の的が大きく感じるんです。だから成功しやすい。他にも、私なんかは足が短い分だけ細かくステップを刻むことでアジリティ(機敏性)を生かしたプレーができる。考え方によっては十分戦えます。日本代表はみんな同じ意識を持っているはずです」

 こう話す原の持ち味はスピードだ。その脚力は少女時代に山遊びなどで培われたという。(つづく)

▽原わか花(はら・わかば) 2000年1月6日、新潟県新潟市生まれ。石見智翠館高(島根)でラグビーを始め、3年時に日本代表入り。慶大に進むと、学校の体育会には所属せずに東京山九フェニックスに入団。21年東京五輪に出場した。好きな食べ物は新潟県の特産品であるサーモンの塩辛と白米。