先制ゴールをあげたキャプテンの酒井宏樹がまったく笑顔を見せずに吠えながらガッツポーズを繰り返せば、スマートにプレーするタイプのサミュエル・グスタフソンが渾身のタックルでユニフォームを汚し、ゲームを終わらせた――。

 その様子から、まだ開幕3試合目ながら、浦和レッズがこの試合に背水の陣の心境で臨んでいたことが窺えた。

「この第3節はターニングポイントになると思っていたので良かった。今日はみんなが本当によく闘っていた。こういう試合ができるんだ、ということを見せられたと思う」

 J1リーグ通算出場試合数を591に伸ばし、歴代4位となったGK西川周作は安堵の表情を覗かせた。

初勝利を呼び込んだ初先発・前田と興梠の働き

 開幕から2戦未勝利、1分1敗同士の対戦は、アウェイチームがセットプレーから奪ったゴールを守り切り、北海道コンサドーレ札幌を下して12位に浮上した。

 優勝候補と目されながらスタートダッシュに失敗した浦和に初勝利を呼び込んだのは、今季初先発となった右ウイングの前田直輝と同じくセンターフォワード興梠慎三だった。

 古巣の東京ヴェルディとの対戦だった前節を体調不良のために欠場した前田は、そのうっぷんを晴らすかのようにガンガン仕掛け、2分、3分、14分と立て続けに際どいシュートを放ち、チームに勢いをもたらした。

「結局0ゴール・0アシストなので。『前田、良いところまで行ってるんだけどな』で終わる選手にはなりたくない」と悔しさを滲ませたが、ウイングで優位性を作るというペア・マティアス・ヘグモ新監督のスタイルを紛れもなく体現していた。

決勝点のCKで見せた、前田の気転とは

 待望の先制点にして決勝ゴールも、前田の気転によるものだった。

 前半30分、センターバックのアレクサンダー・ショルツからのロングボールを前田が競り合って獲得したコーナーキックの場面。本来はサミュエル・グスタフソンが蹴るところだが、前田がショートコーナーを敢行して素早くグスタフソンにボールを預ける。

 あまりにクイックリスタートだったから、ショルツも、マリウス・ホイブラーテンも、酒井もゴール前に入っていくのが遅れてしまう。

 しかし、それが奏功した。

 マークする相手が近くにおらず、ボールウォッチャーとなった札幌の選手たちの間隙を縫うように、ペナルティエリアの外から飛び込んできた酒井がフリーで合わせ、完璧なヘディングシュートを叩き込んだのだ。

「僕が見ていないうちに始まっていたんですけど、あそこにスペースがすごく空いていたので」と酒井が振り返れば、前田も胸を張る。

「2対1を作れる場面があるのはリサーチ済みで、これは(自分とグスタフソンで)2対1が作れるぞ、もうフリーだぞ、ととっさに思って。中の準備が整うよりも、ここでアクションを加えれば何かが起こるんじゃないかって」

興梠は「チアゴさんに…」と謙遜するが

 一方、チアゴ・サンタナに代わって先発した興梠は、左右に流れたり、中盤まで落ちてきたりして攻撃の基準点となった。「得点を取りたかったですけど、チームが勝つために前で(ボールを)収めることを一番に考えた」と振り返ったが、実際、興梠が生み出すスペースや1、2秒の時間が攻撃を好転させていた。

 実は昨シーズンも、開幕2連敗で迎えた3節で興梠が先発復帰した途端、チームは4連勝を飾って勢いに乗った。その再現を期待する声に対して、「いやいや、それじゃあダメですよ(笑)。チアゴさんに早くコンディション上げてもらって、それまでの繋ぎとして頑張りたい」と笑いを誘ったが、37歳がスタメンを張っているようでは優勝なんてできない――そんな本音が見え隠れしていた。

 いずれにしても、ここまで見せ場を作れずにストレスを溜め込むチアゴ・サンタナにとって、この日の興梠のプレーがヒントになればいいのだが。

 前田と興梠が同時にピッチを去った52分以降、浦和の攻撃がトーンダウンしたことからも、ふたりの貢献度の高さは明らかだ。

“チームの綻び”を消す小泉、伊藤敦の頑張り

 とはいえ、インサイドハーフの小泉佳穂と伊藤敦樹の働きぶりも見逃せない。

 ウイングやセンターフォワードをサポートし、ゴール前まで飛び出し、中盤ではボールをシンプルに動かし、アンカーをヘルプし、ビルドアップにも関わって、サイドバックのカバーもする……。

 前掛かりの4-3-3に取り組む浦和はまだまだ発展途上で、“戦術の隙間”や“布陣の穴”や“機能性の綻び”が少なくない。そうした弱みをインサイドハーフが頑張って消すことで、チームが機能している面がある。

 後半38分、小泉と伊藤はふたり同時に足が攣ってベンチに下がったが、ピッチ状態が悪くて足に負担がかかったことだけが理由ではないだろう。この日のふたりの運動量とタスクの多さには、目をみはるものがあった。

 だからこそ、小泉は力を込めて言う。

「やることが多くて大変なんですけど、やり甲斐があります。僕と敦樹が選手としてもう一段階上に行ったら、安定して勝てるチームになるなって感じています」

 ゲーム終盤は防戦一方となったが、「選手全員がすごく神経質になっていたというか。勝たなきゃいけないっていう気持ちがすごく強かった」という小泉の言葉を聞けば、仕方のない面もある。

キャプテン酒井は「全然納得いってない」

 ジョーカーの中島翔哉の投入を検討しつつも、ベンチ前で即席会議が行われ、最終的にサイドバックの大畑歩夢を左ウイングに送り出して逃げ切るという判断を下したベンチワークについても――時間はかかり過ぎたが――理解できるものだった。

 ゲーム内容について「全然納得いってないし、満足もしていない」と酒井も振り返ったように、特に後半は褒められたものではないが、「みんなが気持ち良くプレーできるようになるまで、自分たちで頑張らなければいけない。待たなければいけない」ともキャプテンは言う。

 なんとか勝ち点を積み重ねながら、ヘグモ新監督の戦術を浸透させるための時間を稼いでいく、ということだろう。

 浦和レッズのファン・サポーターにとっては、しばらくは焦れるようなゲームが続くかもしれないが、勝利こそが最高の良薬――。泥臭くも白星を掴んでいくうちに、ヘグモレッズが持つ本来のポテンシャルを発揮するだけの精神的余裕も生まれてくるに違いない。

文=飯尾篤史

photograph by J.LEAGUE