3月15日、ラ・リーガ29節 レアル・ソシエダ対カディス戦の撮影に向かった。

 ソシエダのホームタウンであるサンセバスチャンでは、暖かな日差しが春の訪れを感じさせる。

 オープンテラスのカフェに人が集まり、賑やかなスペインの人々の良さを感じさせる風景が広がる。冷えたビールだけでなく、バスク地方ならではの微発砲ワイン「チャコリ」の喉越しが心地よい。

 キックオフは金曜日の21時だったが、17時頃にはスタジアム周りが活気付き始めていた。

 カディスサポーターに話しかける地元サポーターの姿があり、近くの広場では子供たちがボールを追いかけ回している。

 冬の間、ユニホーム姿のサポーターはダウンジャケットに隠れてしまっていたが、草木が芽吹くように、ジャケットの影から姿を現したユニホームの様々な色が、街に彩りを与え始めている。

 そしてごく自然に〈TAKE 14〉と日本人選手のユニホームを纏ったサポーターの姿が街に馴染む。

「Take」の歓声に応えるようにCKから…

 前節、アウェイでのグラナダ戦では、ハムストリングと背中の違和感によりベンチ入りはしたものの出場のなかった久保だった。

 ソシエダ指揮官イマノルによると、今節までも当初は練習に参加できていなかったという。ただすでに違和感はなくなり、今節では先発出場に返り咲いた。

 今節は反・人種差別のキャンペーンが張られた試合でもあったため、両チーム入場時には特別ユニホームを着用しており、肩を組んでの撮影の場面もあった。

 試合が動いたのは前半28分、ソシエダボールでのコーナーキックの場面だった。

 キッカーとしてコーナー付近へ向かう久保には、期待のこもった大きな「Take」という歓声がかかっていた。そして久保は、ボールをセットしながら相手の陣形が整っていないことを察知すると、素早くグラウンダーのパスを蹴り込んだ。

 ニアポスト付近でミケル・オヤルサバルがヒールキックで軌道を変えると、フリーで待ち構えるミケル・メリノがゴールへ蹴り込んだ。

 不振が続くチームは、ホーム、アウェイ問わず先制点を奪われている試合が続いてきていたが、希望の光となる先制点奪取に喜びを爆発させた。

 そしてサポーターの喜びも一際大きく、スタジアムを揺らした。

 ソシエダは、昨年11月26日のホームで勝ったセビージャ戦より、ホームでの勝利に見放されていた。ファンのフラストレーションも溜まりに溜まっていたはず。ピッチに背を向けて肩を組み、飛び跳ねるその姿を撮影するのも実に久しぶりのことだった。

ケガ明けを感じさせるようなシーンもあった

 右サイドに入った久保は、先制点の起点となったCKの場面だけではなく、ノールックで右サイドのパートナーであるSBのアマリ・トラオレのオーバーラップに合わせてパスを通すなど閃きあるプレーを見せた一方で、本調子ではないことを感じさせるシーンも散見された。

 実際、前半の半ばには腰の様子を窺うようなシーンを撮影した。

 また、単純にトラップの置き所が意図したものとズレてしまっていると感じたシーンや、サイドチェンジを狙ったパスが大きくそれてラインを割ってしまうなど、今まで見たことのないシーンが。そこには身体の痛みの影響もあっただろうか。

 対面するカディスの左サイドには、ソシエダからレンタル移籍中のロベルト・ナバーロがいて激しい攻防を見せた。

 守備面においては前線から相手バックラインへプレスをかけるシーンより、中盤まで戻って対応を迫られる場面が多くなり、久保の持ち味を発揮しにくい展開となってしまった。

 決して悪くはない。ただ絶好調時のプレーを知っているからこそ――調子の良くないチームにあって、久保に対する期待が高まるゆえに物足りなさを感じてしまう。そんなファンも少なくなかったのではないだろうか。

ソシエダは久々のホーム勝利、CL圏へ好転なるか

 久保は後半21分にピッチをあとにしている。

 その直後の23分、ソシエダは追加点を奪う。久保の抜けた右サイドで、トラオレ、シェラルド・ベッカーとのパス交換からブライス・メンデスが抜け出しクロスを送る。ニアへ走り込んだオヤルサバルが、先制点と同じくヒールでフリックすると、大外から走り込んだアルセン・ザハリャンが押し込んだ。

 今季ソシエダへ加入したザハリャンにとっての初ゴールとなったが、本人だけではなく、チーム一体となっての祝福に、苦しい戦いが続く中でもチームワークの良さを感じられた。

 試合は2-0のまま終了を迎え、ソシエダは約4カ月ぶりとなるホームでの勝利をサポーターに届けることができた。

 前節アウェイでの勝利に続き2連勝となり、徐々にチーム状況の好転を感じさせ始めている。

 今節が終わり、EL出場圏内6位のソシエダは、CL出場権を得る4位とは10ポイント差をつけられている。また7位ベティスとは4ポイント差となっており、着実に確実にポイントを獲得していく必要がある。

暴力的ファールを受けた相手との再会に…

 また試合後には、相手ボランチのルベン・アルカラスから話し込まれる久保の姿があった。

 昨年末、カディスがホームにソシエダを迎え撃った一戦でのこと。久保は度重なる暴力的なファールに苦しんだ。その主犯格だったのが、久保への対応に遅れをとったアルカラスだった。

 この会話の詳細は明かされていない。ただ写真を見る限り、謝罪というよりは“言い訳”をしているように感じられるが……。

 とはいえ当の久保は〈もういいよ、気にするなよ〉とでもいうように、10歳上のアルカラスに肩を組み宥めるような姿が印象的だった。

 ソシエダの次節は、代表ウィーク明けの対アラベス戦となる。日本代表へ選出された久保はワールドカップ予選の北朝鮮との2連戦へ臨む。

文=中島大介

photograph by Daisuke Nakashima