そのヘンダーソンのインタビュー。2人が明かす、号泣の舞台ウラ。【全3回の後編/前編、中編へ】
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「しんどかったM-1」
――M-1への挑戦が終わったわけですけど、今の心境はいかがですか。
中村フー ちょっとホッとしてますね。めっちゃ嫌だったので。
子安裕樹 しんどいです、心が。
――毎年、M-1の季節が近づくたびに……。
中村 2週間後M-1やでってなると、やばい、やばいみたいになるんで。ネタを仕上げなきゃならないじゃないですか。
子安 あと何回、舞台で試せるか数えてな。
中村 うわ、最後、ここか。お年寄りが多いから、試すんどうかなとか。
―――そういう意味では解放されたという思いもあるわけですか。
中村 あのストレスがなくなるのはちょっと嬉しいかもしれない。あと、最後、決勝は行けませんでしたけど、一番良いところまで行けたので。少しは名前も覚えてもらえたと思うんですよね。今年もまだあって、この成績を超えなあかんとなったら、かなりしんどかったと思うんですよ。
LINEで「なんもなかったら解散しよう」
――ヘンダーソンと言えば、コント漫才に入りそうで入らないというのを繰り返す形がもはや代名詞となっています。2021年、初めて準決勝行った年に観て、こんなおもしろい漫才コンビがいたんだと思いました。あれはどういう経緯で思いついたのですか。
子安 2021年は、その前にキングオブコントの2回戦で落ちていて。解散の匂いがプンプンしていました。
中村 あの年は最初、もう漫才をあきらめて、がっつりコントと向き合おうと話し合っていたんですよ。もともとは僕がボケで、相方がツッコミで、しゃべくりができないので、ちょっとポップな漫才コントみたいなのをやっていたんです。ただ、ウケるけど、言うたらインパクトがない。ヘンダーソン、どんなネタやったっけ?と。そんな漫才をずっとやっていた。だから、俺らM-1向いてないわみたいな感じで。周りからも言われてましたし。
――2016年、2017年とM-1で準々決勝まで進んでいるのに、そのあとの3年間はそれぞれ3回戦、3回戦、2回戦で負けています。2度も準々決勝まで行った経験のある10年以上のコンビが2回戦で負けるって、そうないですよね。
子安 辛かったわー、あのとき。
中村 ほんまにウケずに終わって。それもあって2021年はキングオブコントの決勝を目指そうとなったんですよ。コントの単独ライブもやり始めて。
――にもかかわらず、そのキングオブコントで、またしても2回戦で敗れ……。
中村 あんときやんな、LINEで相方に「今年、なんもなかったら解散しよう」って送ったの。僕がけっこう抱え込んでしまう性格なので、無理やってなったとき、何回か言うたことはあるんです。けど、LINEは初めてやったな。
子安 LINEは初めてでしたね。LINEで言わんといてくれよとは思いましたけど。
中村 とりあえず、キングオブコントがダメだったんで、またM-1に向けて漫才をせなあかんくなって、もう、全部変えよう、と。僕、楽屋とかでも普段からめっちゃイジられるんですよ。誰かがボケたら、それに乗っかって、自分で自分にツッコむみたいな。この感じをネタにしたらおもしろそうやなと思っていて。僕がボケとツッコミをやって、子安は子安みたいな。子安は真面目そうに見えて変なやつなんで、それはそのまま引き出して。そうしたら、それが最初からけっこう手応えがあったんです。周りの先輩とかも、おもろいな、と言ってくれて。
吉本の社員さんも「ヘンダーソンがいたら…」
――子安さんは抵抗はなかったのですか。
子安 もう、最後の一手だと思っていたので。相方がネタも考えてくれてるし、文句言ってる場合ちゃうやろ、と。
中村 以前にもボケとツッコミを入れ替えてみようって提案したんですけど、そのときは相方が「もうええわ」って言われへんねやったら、俺は芸人を辞める、と。最後、「もうええわ」と締めくくるのはツッコミの役割なんでね。
子安 憧れていたんです。もうええわ、って言うのに。カッコつけたかったというか。
――いつも思うのですが劇場でウケるコンビが、必ずしもM-1に強いわけではなくて。逆も然りじゃないですか。そこへ行くとヘンダーソンはやはり劇場向きなんだろうなという気はしますよね。老若男女を問わず受け入れられやすいというか。
中村 M-1独特の審査基準がありますよね。同じシステムを続けたらダメみたいな。僕ら2022年もすごい自信あったんですけど、準々決勝で落ちて。今大会、審査員が一新したので、チャンスかなと思ったらまたダメで。
――今大会の決勝は後半がやや尻つぼみだったじゃないですか。そうしたら吉本の社員さんが、真っ先に「ヘンダーソンがいたら……」と言ってましたね。
中村 ありがたいです。ほんま、僕らの敗因はなんやったのか……。
吉本芸人の“ギャラ事情”
――最後になりますが、この春から、ついに東京進出を果たします。
中村 ほんまは大阪にいたいんです。でも一度、全国的な知名度を上げないと未来がないんかな、と。もう関西で出られる賞レースもないですし。賞レースで勝ったりすると、1ステあたりのギャラが上がるんです。賞レースで勝って僕らよりもらっている後輩もたくさんいますから。大阪におったら、単価を上げるチャンスもなかなかないんでね。
――東京の落語家なんかは寄席1回ぶんのギャラをもらっても昼飯を食べたら終わりです、みたいなことをよく聞きますけど。
中村 うちの会社やと、僕らは昼飯は食えます。1ステで1回飲むぐらいは行けると思いますよ。店にもよるけどな。
子安 わかりにくいな。夢があるけどないくらいのギャラです。
中村 もっとわかりにくいわ。
<前編、中編から続く>
(写真=山元茂樹)
文=中村計
photograph by Shigeki Yamamoto