森保一監督率いる北中米W杯アジア2次予選・ホームでの北朝鮮戦に1−0で勝利した。この一戦を国立競技場で現地観戦した日本通のブラジル人記者は、3カ月の長期間にわたって日本に滞在している。日本独自のカルチャーや日本食、さらには“大谷翔平報道”などを含めて、幅広く話を聞いた<全2回の第2回/第1回も配信中>

日本フットボールを追い、ドラゴンボールも大好き

 チアゴ・ボンテンポ記者は、サンパウロ出身の38歳。子供の頃から日本のアニメや漫画が大好きで、日本文化に興味を持ち、長年、日本語を勉強してきた。日常会話はほとんど問題なく、読み書きもかなりできるようだ。

 3月8日に『ドラゴンボール』、『Dr.スランプ』などの漫画とアニメ、『ドラゴンクエスト』などのゲームやマスコットのキャラクター・デザインなどで知られる漫画家、デザイナーの鳥山明さんが亡くなったことが発表された際には、このように語っていた。

「90年代に少年時代を過ごしたブラジル人で、ドラゴンボールを知らない者はいない。私も、夢中になってアニメを見て、漫画を読んだ」、「ブラジルで発売されたポルトガル語版の漫画をすべて購入し、2019年に初めて日本へ行ったときには日本語のオリジナル版も買ってきた」

 大学でジャーナリズムを専攻し、2010年からフリーのスポーツライターとして活動を始めた。2011年からリオの有力日刊紙『オ・グローボ』が運営するスポーツ電子版『グローボ・エスポルチ』に「フッチボール・ノ・ジャポン」(日本のフットボール)という連載コラムを持ち、もっぱら日本のフットボールに関する記事を書き始めた。

 2019年、JICA(国際協力機構)の短期留学生試験に応募して合格して初来日。40日間滞在し、日本文化の研修を受け、ワークショップに参加し、日本各地を旅行してフットボールの試合も観戦した。そして、「長年の夢が叶って、人生で最も素晴らしい体験をした。でも、必ずまた戻ってくる、と心に誓った」そうだ。

 その後も、ブラジルと日本のメディアへ記事を寄稿し、SNSなどで日本のフットボールに関する情報提供を続ける傍ら、日本のフットボールの歴史を紹介する本を書き始め、2022年11月、514ページに及ぶ大著『サムライス・ブルース(SANURAIS AZUIS/青いサムライたち)』をブラジルの出版社から出版。ジーコや在サンパウロ日本総領事館の総領事らにも進呈したほどである。

すでにJリーグ、ACLも観戦している

 そして、今月12日から約3カ月の予定で日本を訪れている。

 到着翌日の13日、横浜国際総合競技場でアジア・チャンピオンズリーグ準々決勝の横浜F・マリノス対山東泰山の第2レグ(マリノスが1−0で勝って準決勝進出)を皮切りに、16日には三協フロンテア柏でJリーグ第4節の柏レイソル対名古屋グランパス(名古屋が2−0で勝利)を観戦した。

 そして、21日、彼が「日本のフットボールの聖地で、ブラジルならマラカナン・スタジアムに相当する」と語る「コクリツ」を初めて訪れ、サムライブルーの北朝鮮戦の勝利を見届けた。そんな彼に、まだ短期間ではあるが――ここまで日本で体験したことを聞いた。

ドンキで買い物。どこで何を食べてもおいしいね

――来日してからまだ間もないですが、フットボール観戦以外には何を?

「渋谷や秋葉原を訪れ、ドン・キホーテで買い物をした(笑)。日本人やブラジル人の友人たちとも会っている。今は千葉県市川市の本八幡に滞在しており、そこも歩き回っているよ(笑)」

――これまで、日本食は何を食べましたか?

「できるだけ色々なレストランへ行って、おでんなど違ったものを食べている。日本は、どこで何を食べても、とてもおいしいね。特に気に入ったのは、うどん、お好み焼き、カレーライス」

――天候はどうですか? 真夏のブラジルから冬の終わりの日本へやって来たわけですが。

「2019年に来たときは、7月から8月にかけてで、暑い盛りだった。今度は、季節が全く違う。3月はまだ寒いのは知っていたけれど、東京は風が強いので余計に寒く感じる」

――首都圏に滞在していて、困ったことは?

「公共交通が素晴らしく発達しているが、少し複雑すぎて戸惑っている。でも、慣れたら大丈夫かな」

――今後の予定は?

「千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、広島、仙台、北海道など日本各地を訪れ、友人と交流し、フットボールの試合を観戦するとともに、様々な日本文化を堪能したい。これらの活動は、記事を書いたり、ユーチューブ(「ヒノマル・ポッドキャスト」)、インスタグラム、フェイスブック、X(旧ツイッター)などでを発信している」

スポーツ紙の1面は大谷のことばかりだね

――あなたが来日した頃、ちょうどMLBの韓国シリーズがあり、日本は大谷翔平の話題で持ち切りでした。

「日本では、野球人気が本当にすごいね。スポーツ新聞の1面は、連日、大谷や野球のことばかり。フットボールの影が薄いのが残念だ」

――ブラジルやアルゼンチンでは、スポーツ、イコール、フットボールですからね。今後、日本でフットボールが野球を上回る人気を獲得するためには何が必要だと思いますか?

「サムライブルーがワールドカップ(W杯)で好成績を残さなければならないし、大谷クラスの世界的なスター選手が出てくる必要があるだろうね」

最も高い潜在能力を持つのはクボとミトマだろう

――現在の日本人フットボーラーで、野球の大谷のような存在になれる可能性を持つ選手がいると思いますか?

「最も高い潜在能力を持つのは、久保建英と三笘薫だろう。でも、大谷は世界一の野球選手だよね? とすると、フットボールならキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)、アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)のような存在ということになる。現時点ではまだそこまでの選手はいないかな」

――野球の日本代表は、昨年3月に行なわれたWBC、つまりフットボールであればW杯に匹敵するような国際大会で、決勝でアメリカ代表を倒して優勝。多くの日本人は「世界最高峰のリーグはMLBかもしれないが、日本代表は世界最強」と考えています。

「であれば、日本でフットボールが野球の人気を超えるには、W杯で優勝し、世界一の選手を生み出す必要がありそうだね。もちろん、容易じゃない。でも、決して不可能じゃない。日本がW杯でドイツとスペインを倒すなんて、誰も考えていなかった。でも、2022年、サムライブルーはそれを見事に成し遂げたんだからね」

――2022年のカタールW杯以降、日本のフットボールは進歩していると思いますか?

「アジアカップで優勝を期待していたけれど、残念な結果に終わった。これだけ見ると、進歩したとは言い難い。今後、選手たちが欧州と日本でさらに成長し、チーム戦術に磨きをかけ、2026年W杯ではぜひとも2022年大会を上回る成績を残してもらいたい」

日本のフットボールと文化をブラジルで伝えてほしい

 近年、世界中で日本食が大変なブームとなっており、アニメ、漫画、映画などの日本文化も多くの国で人気を集めている。日本のフットボールも、近年のサムライブルーの奮闘や日本人選手の欧州クラブでの活躍などで注目の度合いを高めている。

 とりわけ、ブラジルは世界有数の親日国であり、長年に渡って日本のフットボールに大きな影響を与え、普及と強化を手助けしてくれてきた。

 加えて、チアゴ・ボンテンポ記者のように日本文化を心から愛し、深く理解している人物が日本のフットボールを極めて頻繁に取り上げてくれるのは、本当にありがたい。2019年、JICAが40日間の日本短期留学の機会を与えたが、彼はすでにその数十倍のお返しをしてくれているのではないか。

 これから6月中旬まで、日本各地を巡って素晴らしい体験をしてもらいたい(彼がまた新たな知見を得た際には随時お届けする予定だ)。そして、引き続きブラジルで日本のフットボールと日本文化を広く伝えてくれることを願っている。<第1回からつづく>

文=沢田啓明

photograph by Nanae Suzuki/Thiago Bontenpo