2年連続M-1ファイナリストになったカベポスターのNumberWebインタビュー。今大会は『おまじない』のネタで、「ずっゼリ」という印象的なワードを残した。
「『見せ算』どう思う?」「スベると思います」強烈なインパクトを残したさや香の『見せ算』。事前に相談されていたというカベポスターが明かすウラ側。【全3回の後編/前編、中編へ】

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「『見せ算』どう思う?」「スベると思います」

――今大会、もっとも衝撃的だったのは、さや香が2本目に披露した『見せ算』だったという気がしないでもありません。最終決戦に勝ち進んだ場合、さや香は『見せ算』をやるということは芸人のみなさんは知っていたのですか。

浜田順平 大阪の芸人はみんな知っていました。

永見大吾 僕らはその内容も知っていましたけど、東京の芸人たちは『見せ算』というのをやるらしいな、どんなネタなの? みたいな感じでしたね。

――劇場ですでに何回か見ていたわけですか。

浜田 はい。優勝予想で令和ロマンの名前を挙げたのは、それもありました。さや香さんの『見せ算』がスベってるのを何回も目撃していたので。さや香さんは厳しいやろな、と。

――さや香も、もちろん勝つつもりだったと思いますが、『見せ算』には別の意志も感じましたよね。とにかく、やりたいネタをやるんだ、という。

浜田 ほんまにそうやと思いますよ。新山さんに聞かれたんですよ。『見せ算』やるつもりなんやけど、どう思う? って。なので、スベると思います、と。でも、僕はたまたま調子が悪かったときの『見せ算』しか見てなかったみたいで。めっちゃいい、って言ってくれてた人もいたらしいんです。どうであれ、『俺はこれ、やりたいねん』とおっしゃったので。ただね、僕は『見せ算』がおもろないんじゃなくて、1本目のネタの完成度が高いので、その期待とのギャップが大きいのでスベると思います、という言い方はしました。

永見 僕は『見せ算』については聞かれなかったんですけど、新山さんとはネタの話をよくするんです。で、1本目のネタ(『ホームステイ』)、どうすればもっとよくなるかなみたいなことを聞かれて。でも、ライバルはライバルじゃないですか。よくなっても困るというか。ただ、この人たちは2本目に『見せ算』やるんだもんなと思ったら、そういうのも関係なくアドバイスできましたね。こんな風にしたらいいんじゃないですか、って。

「やばいやばい…」楽屋で見た『見せ算』

――つまり、永見さんも『見せ算』はM-1では受け入れられないだろう、と思っていたということですよね。

永見 でも、新山さんにやめといた方がいいですよと言っても、絶対、変えなかったと思うので。

浜田 みんながみんなスベる、スベるって言ってたら変えてたかも。いや、わからんな。そう言われれば言われるほど、逆にやり倒したかも。

――決勝の現場で、『見せ算』を見ているときの他の芸人の反応はどうだったのですか。

浜田 やばいやばい、逸れていってるな、っていう感じでした。終わる前に、これは令和ロマンとヤーレンズの一騎打ちやな、と。

永見 楽屋はアハハハハじゃなくて、ハハッ、ハハッみたいな、ちょっと種類の違う笑い声になっていましたね。

「いまは『見せ算』で拍手が起きる」

――令和ロマンとヤーレンズはどちらが勝ったと思いましたか?

浜田 令和ロマンかな、という感じでしたね。ギリギリで。

永見 僕は正直、わかりませんでした。それよりも誰かがさや香さんに1票入れるんだろうってハラハラしていました。粋なネタなので、誰か入れるんじゃないかな、と。

――結果的に『見せ算』は1票も入らず惨敗しました。それでも賞レースが中心になっているネタ番組の現状に一石を投じましたよね。

浜田 いや、ほんまにカッコイイと思いましたよ。M-1でスベって、ボロ負けしたからおもんないネタとは思わないので。いま、さや香さんがイベントとかで『見せ算』の話をすると絶対ウケますから。劇場でも『見せ算』が始まると拍手が起きますしね。

――それも1つの勝利と言っていいですよね。

浜田 あれをやったことで得たものは相当、大きかったと思いますよ。

「M-1を卒業した芸人はおもしろくなる」

――永見さんもネタをつくっているときに、やりたいネタと賞レースで勝てるネタの間で葛藤することがあるのですか。

永見 僕はそこまでエゴが強くないので、勝てるネタと、やりたいネタは、そんなにぶつかり合ったりすることはないですね。基本的に自分がおもしろいと思ったネタをできてると思います。

――カベポスターのネタは毎度、パターン化しないのがすごいですよね。いつもぜんぜん違う切り口で。

永見 武器があんまりないんでね。いろいろなネタをつくるしかないんです。

――今大会のネタも、めちゃめちゃハマる展開もありえたと思うのですが。

浜田 優勝は運もありますから。M-1を卒業すると芸人ってめっちゃ生き生きし始めるんですよ。前よりもおもしろくなる。そういう人たちを見ていて、ここ1、2年で考え方が変わりましたね。めっちゃ優勝したいし、負けるとほんまきついんですけど、そこに縛られ過ぎるのもよくないな、と。それよりも自分たちが楽しいなって思えるネタを作り続けて、M-1の時期がきたら、いちばんいいネタをギュッとM-1用にするぐらいでいいと思うんです。

「さや香さん、いちばん化け物でしたね」

――前回は8位で、今回は6位と少し順位が上がりました。頂上の景色みたいなものはちらりとでも見えましたか。

浜田 優勝するには、もう1パンチないとダメなんでしょうね。それを見つけにいくのか、自然と身につくのを待った方がいいのか。そこはわかんないですけど。今は優勝するよりも、1回でも多く決勝に残れるような漫才を目指す方がいいような気がするんですよね。優勝よりも、そっちの方が価値あるような気もしていて。

永見 最終決戦に残るには、何かで圧倒しないとダメなんだろうなという気はしました。それがネタなのか、人なのか、その両方なのか。まあ、両方なんでしょうけど。今大会は令和ロマンが勝ちましたけど、最終決戦に残った3組の中で誰がいちばん圧倒的だったかと言えば、さや香さんだったと思いますよ。言葉を変えるなら、いちばん化け物でしたね。

<前編、中編から続く>

(写真=山元茂樹)

文=中村計

photograph by Shigeki Yamamoto