オリックスにとって、パ・リーグ4連覇を目指すシーズンが開幕する。

 山本由伸(ドジャース)が抜けた今季、新たなエースと期待されているのは、左腕の宮城大弥と右腕の山下舜平大だ。

 22歳の宮城は2019年、21歳の山下は2020年のドラフト1位。仲のいい2人はファンの間で“ぺやぎ”と呼ばれて愛でられている。

宮城から舜平大へ

 宮城は昨年まで、投手四冠の山本に対して「由伸さんからタイトルを奪いたい」と挑発的なことを言っては返り討ちにされていた。それでも3年連続で二桁勝利を挙げ、昨年の防御率はリーグ3位の2.27。現チームではトップの実績と安定感だ。その宮城は、山下の存在をどう捉えているのだろうか。単刀直入に聞いてみた。

 山下舜平大投手はライバルですか?

「いや、まったく」

 まったく?

「彼のほうが、すごいんで。ポテンシャルあるんで。成績見たら一番わかりやすいです」

 もちろん山下のポテンシャルは規格外だ。身長190cm、体重100kg超の体格から最速160kmの剛速球を投げ込む。昨年、開幕投手として一軍デビューを果たすと、ほぼストレートとカーブの2球種で組み立て9勝を挙げた。8月末に怪我で離脱したこともあり規定投球回には達しなかったが、防御率は1.61で新人王を獲得した。

2年目から3年連続二桁勝利

 一方の宮城は技巧派だ。正確なコントロールで多彩な球種を操る。コンパクトなフォームからギャップのある150km前後のキレのあるストレートを投げ込んだかと思えば、80〜90km台のスローカーブで50km以上もの球速差をつけたり、絶妙に間を変えたり、宮城のピッチングには打者を惑わす仕掛けがいくつも施されている。唯一無二のスタイルを築き上げてきたからこそ、高卒2年目から3年連続で二桁勝利を積み重ねることができた。

 タイプは違うが、どちらも打者にとっては嫌な投手で、違ったすごさがあるのでは。

 そう伝えても、宮城は納得していないようだった。

「そう言われるのは嬉しいんですけど、彼、本当にすごいんで(笑)。僕のすごさより、彼のすごさのほうが伝わりやすい」

「そこは勝てない」山下の凄み

 確かに山下の剛速球は1球で観る者を唸らせるすごみがあるが……。

「相手に与えるイメージだったり、そういうところはやっぱり、どうしても勝てない。僕はただ3年間ローテーション回った、終わってみたらすごかった、みたいな感じ。それに対して彼は、投げる試合投げる試合、すごい。相手に与える一発のダメージがでかいので、そこは勝てない。それは彼のすごさだと思います」

 3年間ローテーションを守り、二桁勝利を続けることは並大抵のことではないのだが。

「もし彼が1年間ローテーションを回れたらって考えた時のほうが、ものすごい成績が出るんで。回れた時には手も足も出ないです。どのピッチャーに対してもそう思いますけど、彼には特に思います」

“松坂”ではなく“和田”に…

 山下への賛辞が止まらない。だがそれはそれとして、宮城は今、違った境地を目指そうとしている。

「僕は、野球が終わった時に『すごかった』と言われたい。ペータ(山下)とかは、野球をやってるその時に『すごい』とか、『嫌な相手』だと言われるタイプだと思うけど、僕は、終わってから、『地味だったけど、こういう人もいたんだな』みたいな感じで思ってもらえれば。僕の孫世代とかに、こんな、球も普通くらいの速さで、むしろ今の時代ではちょっと遅いぐらいだけど、それなのに打たれなかったんだ、というふうに思ってもらえたら一番嬉しいですね」

 理想として挙げたのが、ヤクルトの石川雅規やソフトバンクの和田毅だ。

「和田さんの世代だったら、松坂大輔さんが今でも語り継がれていますけど、和田さんは今も現役で長くやられています。メジャーにも行かれて、日本に戻ってからも一昨年ぐらいに(41歳で)最速を出したり。あの年齢であのボールを投げられていることはすごい。そういうところを目指したい。憧れている部分はあります。

 松坂さんはよく映像も出てきますし、もちろんすごいんですけど、そっちはペータにお願いして(笑)。僕は、終わってみて、よーく考えたら、あ、すごい投手だったなって思われるように」

「ちょっと自分にムカつくというか…」

 身長171cmとプロ選手の中では小柄な宮城はもともと、長身で体格のいい選手にコンプレックスを抱いていた。1年ほど前、こう話していたことがある。

「身長とか体重とか、持っているものって人間それぞれ違いますけど、なんでそこでそんなに差が出るのか、ちょっと自分にムカつくというか。やっぱり(長身のほうが)有利な部分は多いと思います。もちろん身長が高ければ、体を扱うのが難しい部分もありますけど、本当に、低いよりは高くいたかった。やっぱりリリースが前でできたり、だいぶ差は出ると思う。それは仕方ないなと思いますけど、『190cmあったらどうなってるんだろう?』とは思いますね。

 投げ方も全然違う形になっているかもしれない。もっと投げ下ろせる感が強かったり、スピン量がきいたり。自分が苦にしていたものは簡単にできたのかなと思ったりします。フォークもやっぱり身長が高くて上から投げたほうが、角度がついて、少し落ちただけでも変化が大きく見えるだろうし。そういうところは、僕は身長が低いし、スリークオーターだし、苦戦しているというか……ま、自分の実力不足です」

「他の人ができないことを…」

 U15、U18日本代表を経験し、昨年はWBCにも選出。はたから見れば順風満帆で、普段は和やかにチームメイトとたわむれる“愛されキャラ”の根っこに、こんな葛藤があったとは。どうにもならないものに、それでも抱いてしまう憧れや執着。宮城の人間味が垣間見えた。

 だが体格差を嘆くだけでなく、それを補うための工夫と努力をしてきたから、今の宮城がいる。

「僕も中2で167cmぐらいだった時は、『わ、伸び代あるわ』と思っていたんですけど、中3から全然伸びなくなって、170cmぐらいで止まってしまった。周りの子はどんどん伸びていって……。人より早く止まった分、体の使い方とかで(補った)。ま、手足が短いから使いやすい、動きやすいというのもありましたけど。どうしてもちっちゃく思われがちですし、不利な部分もありますが、それは仕方ないと割り切って、その分、他の人ができないことをしっかりやろうとは思います」

 今は、自分なりの極め方が見えてきているのだろう。

舜平大から宮城へ…

 山下にも逆に、宮城がどんなふうに見えているか聞いてみた。

「宮城さんはピッチャーとしてのレベルが高すぎますよね。勝ち方というか、自分にないものばっかり持っている。コントロールとか、スライダーとか、変化球の使い方とか。波もないですし。すごいっす」

 なにも孫世代まで待たなくても、宮城のすごさは誰もがわかっている。そしてきっと、今年はもっともっと見せつける。

 今年の開幕投手は宮城に託された。1週間前のオープン戦登板後、中嶋聡監督から「言わなあかんの?」と告げられ、握手を交わした。

 投げたいとアピールしてきた念願の開幕投手。

「すごく嬉しかった。反面、(やりたいと)言ってきたからには、というプレッシャーもあります。楽しみと、不安と、緊張と、たくさんありますけど、一生懸命やろうと思います」

 4連覇を目指すオリックスの2024シーズンは、宮城大弥の1球で幕を開ける。

文=米虫紀子

photograph by Hideki Sugiyama