“飛ばないバット”とも称された「新基準バット」が採用された今春のセンバツでは、大会通算本塁打が3本にとどまるなど大きな影響をもたらした。球児たちは何を感じてプレーしていたのか。打撃、守備の両視点から、彼らの語った“本音”で振り返る。(全2回の第2回/第1回も)

 長打が出ない。外野手の守備位置が極端に浅い。今春の選抜高校野球大会から導入された新基準のバットは高校野球を大きく変えている。その影響は打撃と外野守備だけにとどまらなかった。バッテリーや内野手のプレーや考え方も変化している。

増えたスローカーブと緩いチェンジアップ

 今大会目立ったのは緩いカーブ。特に左投手が投球の比率を高めていた。山梨学院に敗れた創志学園・門馬敬治監督も相手投手のカーブを敗因に挙げていた。

「緩いカーブが格段に増えました。相手バッテリーに、はまりました」

 山梨学院の先発左腕・津島悠翔投手はスローカーブを操った。電光掲示板に表示される球速は80キロ台。遅すぎて計測できないのか、球速が表示されないカーブもあった。創志学園・門馬監督は序盤、スローカーブを捨てるように指示した。だが、制球が良く、予想以上に多投されたため、中盤以降は戦術を変更。選手に「狙っても構わない」と伝えたが、各打者はカーブの残像で直球に振り遅れ、普段のスイングをさせてもらえなかった。

 この前日、星稜・佐宗翼投手と八戸学院光星・洗平比呂投手の両左腕が先発した試合は、カーブが存在感を放った。象徴的だったのは2回の攻防である。

 佐宗は1死から八戸学院光星・住本悠哉選手に対して2球連続で100キロ台のカーブを選び、3球目に132キロの直球でサードフライに打ち取る。その裏、洗平は先頭の星稜・佐宗に2球連続でカーブを投げてピッチャーライナーに打ち取る。さらに、続く吉田大吾選手には4球中2球がカーブ。レフトフライに打ち取った中谷羽玖選手にもカーブを2球投じた。

 佐宗をリードして勝利に貢献した能美誠也捕手は、緩いカーブがポイントになると踏んでいた。直球を中心にした田辺との初戦から配球をがらりと変えた。ヒントは八戸学院光星が延長11回タイブレークの末に勝利した関東一との1回戦にあったという。

「関東一の畠中(鉄心)投手が緩いチェンジアップを使って、八戸学院光星の打者を抑えていました。八戸の打者は打球を飛ばそうとしているのか振りが大きいと感じたので、球速を落とした球でタイミングを外そうと考えました」

間違いなくスタンドに入ったと…低反発バットのおかげ

 本来、球速が遅い球を使うのは勇気がいる。狙われると長打のリスクがあるためだ。だが、能美は自信を持ってカーブのサインを出していた。

「打者の反応を見る限り、遅い球は捨てている感じだったので不安はなかったです」

 さらに、自信を深めた打球があった。4回、八戸学院光星・三上祥司選手に初球の直球を完璧に捉えられた。マウンド上の佐宗も捕手の能美も「やられた」と本塁打を覚悟した。ところが、打球はレフトフェンス直撃。スタンドインを免れた。能美が振り返る。

「逆風が吹いていたわけでもなかったので、間違いなくスタンドに入ったと思いました。確実に低反発バットのおかげです」

「意外と楽ではないんです」と捕手が語ったワケ

 佐宗も心境は同じだった。

 試合後、「打たれた瞬間、絶対に本塁打だと思いました。バットに助けられましたね」と表情を緩めた。

 佐宗と能美のバッテリーは、たとえカーブを狙われたとしてもフェンスは越えないと確信した。昨秋から今春にかけて精度を磨いてきたという緩いカーブ。時には勝負球、時には直球を生かす見せ球として効果的に使った。

 佐宗は「バットが変わって飛距離が出ないので、ストライクゾーンで勝負できます。自分本来の打たせて取る投球がしやすくなりました」と語る。能美も「投手陣は今まで、丁寧にいく意識が強すぎてボール球が多くなるケースがありました。低反発のバットになって強い球を投げる意識になり、ストライク先行になった部分は大きいです」と話した。

 長打が出にくくなれば、バッテリーの負担は軽くなると想像するだろう。だが、そう単純な話ではない。能美が吐露する。

「意外と楽ではないんです。自分たちのチームの点数も入りにくいので、バッテリーにはプレッシャーがかかります。僅差の展開やタイブレークが増えるので、投手の負担は大きくなります」

 今センバツは1回戦16試合のうち3試合が延長タイブレークに突入し、その他にも1点差の決着が6試合あった。神宮大会を制して優勝候補筆頭にも挙げられる星稜でも、1回戦は田辺に4−2、2回戦は八戸学院光星に3−2と接戦にもつれている。

“参加校有数の守備率”明豊の内野守備が乱れたワケ

 新基準の“飛ばないバット”は内野守備にも影響を及ぼしていた。

 守備率の高さが参加校有数だった明豊は内野が乱れた。

 昨秋の大会は9試合で失策4つ。1試合平均の失策0.44は、センバツに出場した32校の中で3番目に少ない。だが、健大高崎との2回戦では内野手が計3つの失策。さらに、初回と6回にはフィルダースチョイスで1点ずつを失い、0-4で敗れた。

 守備力の高さを評価されているショートの江藤柊陽選手は2つの悪送球を記録した。1つ目の失策は三遊間の深いところからの送球で、球を上手く握れず、ファーストがジャンプしても届かなかった(記録は内野安打と失策)。2つ目は正面へのゴロ。落ち着いてさばけばアウトにできる打球だったが、ファーストへの送球がライト側に逸れた。

「ゴロが思ったよりも来ない」ゆえに…

 明豊の内野陣は1回戦の敦賀気比戦で、ゴロの勢いが弱いと感じていた。この試合では、「前に出て捕球する意識」を共有していた。

 ゴロのスピードが遅くなれば、内野安打の確率は高くなる。内野手にとっては捕球も送球もより早くしなければならない重圧や焦りが生まれる。そこに落とし穴があった。江藤は「弱いゴロが増えて、送球を急ごうとする気持ちが出てしまいました」と声を落とした。6回1死三塁からフィルダースチョイスを記録したセカンドの舩見侑良選手も、バットが変わったことによる打球の違いを口にする。

「低反発のバットはゴロが思ったよりも来ないので、ゴロだと判断した瞬間に前に出る意識を持つようにしました。打球が死んでしまう分、ギリギリのプレーが増えるので送球の正確さが一層必要になると感じています」

 守備から攻撃のリズムをつくる明豊は、内野が乱れて流れをつかめなかった。江藤も舩見も「夏に向けて守備を鍛え直す」と声をそろえる。

 チームが重視する送球の精度を磨くには、弱いゴロへの対応も不可欠になる。木製バットを使用する選手が現れた打撃はもちろん、投球、守備とあらゆるプレーに作用する新基準のバット。その特徴を把握して味方にできるチームが勝利に近づく。

<つづきは第1回「木製バットを折られた選手の本音は…打者編」>

文=間淳

photograph by JIJI PRESS