大谷翔平がナ・リーグ安打数でトップに立つともに、松井秀喜を超えるメジャー通算176本塁打を放った。一方で得点圏打率について取りざたされるなど、話題になったスタッツから序盤戦の大谷を読み解いていく。(全2回/第2回も配信中)

 4月21日のメッツ戦で、大谷翔平はMLB通算176本塁打を記録。松井秀喜を抜いて、NPB出身の日本人選手最多となった。さらに23日のナショナルズ戦でも2試合連続の本塁打を打ち通算177本となった。今季6号の打球速度118.7mph(191km/h)はキャリアハイ、飛距離136.8mという特大の一発だった。

〈NPB出身の日本人選手、MLBでの本塁打数5傑〉※カッコ内は本塁打率。現地時間4月23日現在
 大谷翔平 177本塁打/741試合2582打数(14.59)
 松井秀喜 175本塁打/1236試合4442打数(25.38)
 イチロー 117本塁打/2653試合9934打数(84.91)
 城島健司 48本塁打/462試合1609打数(33.52)
 井口資仁 44本塁打/493試合1841打数(41.84)

 松井秀喜が10年1236試合かけて打った175本を、大谷翔平は7年740試合で抜いた。

 巨人で10年間主軸打者として活躍した松井秀喜は、29歳になる年に周囲の慰留を振り切る形でMLBにFA移籍した。これに対して大谷翔平は入団時から「MLB挑戦」が前提になっていて5年でMLBにポスティング移籍。24歳になる年だった。5歳の年齢差があったことは留意すべきだろう。

松井と大谷、両方から本塁打を打たれた3人とは

 松井秀喜が引退したのは2012年。大谷はこの年のドラフトで日本ハムに入団し、2018年からMLBに挑戦した。

 2人のMLBでのキャリアは重なっていないし、6年のブランクがあったが、松井秀喜、大谷翔平両方から本塁打を打たれた投手は3人いることが分かった。

★ジェームズ・シールズ
 松井(ヤンキース)2006年9月14日デビルレイズ戦2回右翼ソロ
 松井(ヤンキース)2007年7月22日デビルレイズ戦2回右翼ソロ
 松井(ヤンキース)2008年4月6日レイズ戦4回右翼2ラン
 松井(アスレチックス)2011年7月27日レイズ戦4回右翼3ラン
 大谷(エンゼルス) 2018年7月25日ホワイトソックス戦5回右中間2ラン

★エドウィン・ジャクソン
 松井(ヤンキース)2008年4月15日レイズ戦2回右中間ソロ
 大谷(エンゼルス)2019年6月17日ブルージェイズ戦2回左翼3ラン

★ジャスティン・バーランダー
 松井(エンゼルス)2010年4月22日タイガース戦5回左中間ソロ
 大谷(エンゼルス)2018年8月25日アストロズ戦4回左中間2ラン

 3人とも実績十分の先発投手だ。

 ジェームズ・シールズは、レイズ(デビルレイズ)、ロイヤルズ、パドレス、ホワイトソックスで2006年から18年まで通算145勝139敗、オールスター出場1回。松井はシールズのデビュー年に1本目を打ち、大谷はシールズの最終年に本塁打を打っている。エドウィン・ジャクソンは2003年から19年までドジャースを皮切りに15回も移籍を繰り返して通算107勝133敗、オールスター出場1回。

 そしてジャスティン・バーランダーは2005年タイガースに入団後、アストロズ、メッツ、アストロズと移籍し40歳の今年も現役で通算258勝141敗。サイヤング賞3回、オールスター出場9回。殿堂入り確実の大投手だ。大谷は初対戦では手も足も出ず三振したが、この年の8月にさっそく1発を打っている。

同じ左打ちの強打者でも、数字を見るとタイプが違う

 松井秀喜も大谷翔平も左打ちの強打者だが、タイプはかなり違う。

〈安打に占める長打の比率〉
 ・松井1253安打
  二塁打249本(19.9%)三塁打12本(0.9%)本塁打175本(14.0%)
 ・大谷717安打
  二塁打140本(19.5%)三塁打30本(4.2%)本塁打177本(24.7%)

 筆者は本塁打より二塁打が多い打者は「中距離打者」だと思っているが、NPBでは二塁打より本塁打が多かった(二塁打245本17.6%、本塁打332本23.9%)松井は、MLBでは二塁打の方が多くなった。反対に大谷はNPB時代、二塁打の方が本塁打より多かった(二塁打70本23.6%、本塁打48本16.2%)のが、MLBに来て逆転した。

 多くの日本人打者と同様、松井はMLBに来て「小型化」したが、大谷は「大型化」したのだ。数ある日本人打者の中で、これは大谷翔平だけだ。

 三塁打は大谷の方がはるかに多い。足に関しては、松井がMLB10年で13盗塁9盗塁死、大谷はMLB7年目で91盗塁33盗塁死と、大谷の方が圧倒的に勝っている。大谷は「走れるスラッガー」なのだ。

対左投手、本塁打の打球方向も対照的

〈右左投手別の成績〉
 ・松井
  右投手/打率.281 OPS.831、左投手/打率.284 OPS.802
 ・大谷
  右投手/打率.289 OPS.974、左投手/打率.255 OPS.830

 松井秀喜は、やや長打は少ないものの左投手もそれほど苦にせず、対応していたが、大谷の場合、依然として左投手がやや苦手だ。大谷の打順で左投手がマウンドに上がるケースは今もしばしばみられる。

〈本塁打の打球方向〉
 ・松井
  左翼5本(2.9%)左中間5本(2.9%)
  中堅17本(9.7%)
  右翼111本(63.4%)右中間37本(21.1%)
 ・大谷
  左翼16本(9.0%)左中間28本(15.8%)
  中堅39本(22.2%)
  右翼49本(27.7%)右中間45本(25.4%)

 驚くべき違いが出た。

 松井秀喜の本塁打175本の内、85%近い148本は右方向、つまり引っ張った本塁打であり、中堅でさえも9.7%の17本、反対方向の左には10年のキャリアで10本しか打っていない。松井が本塁打を狙うときは、間違いなくバットを振り抜いて引っ張ることを意識していたのだろう。

 これに対して大谷は176本の内、53.1%の94本は右方向。しかし中堅に22.0%の39本、左翼にも24.8%の44本と広角に打ち分けている。大谷が反対方向に本塁打を打つのは珍しくない。大谷にとって本塁打を打つとは「プルヒットすることではなくフルスイング」することなのだ。

「強く、速く打つ」松井と「打ち上げる」大谷

「フライボール革命」の考え方では、ミート力やボールをバットに載せる「技術力」ではなく、バットスイングを速くして打球速度を上げることが最重要だ。打球速度が上がれば、反対方向でも飛距離が伸びていく。全方向に本塁打を打つことができるようになるのだ。

 松井秀喜は175本の内、ライナー性が26本、フライボールが149本
 大谷翔平は177本の内、ライナー性が17本、フライボールが160本

 松井秀喜はボールを「強く、速く打つ」ことを考えていたが、大谷翔平は「打ち上げる」ことを意識しているのではないか。

 松井はフライボール革命以前の打者であり、大谷はアーロン・ジャッジらと共にフライボール革命の申し子というべきだろう。2人が違う時代を生きていることを実感する数字だ。

 さらに三振数にも違いが見える。松井はMLB1236試合で689三振、1試合当たり0.56個に対して、大谷は740試合で775三振。1試合当たり1.05個の三振を喫している。フライボール革命以降「三振はホームランのコスト」という認識が広がっているが、大谷も三振することを全く恐れていない。

大谷は2021年以降のメジャー通算本塁打4位!

 松井秀喜との「比較」は、この日を最後にメディアにはのぼらなくなるだろう。

 日本、アメリカ、中南米……といった国籍を越えて、大谷翔平は「メジャーリーガー」としての競争に身を投じている。

〈2021年以降、今年4月21日までのMLB通算本塁打数10傑〉
 ジャッジ: 434試1573打448安141本315点 率.285 OPS.999
 シュワーバー: 451試1647打365安131本281点 率.222 OPS.952
 オルソン: 501試1870打491安130本366点 率.263 OPS.957
 大谷翔平: 474試1715打484安130本303点 率.282 OPS.932
 アロンソ: 488試1813打454安130本355点 率.250 OPS.971
 ライリー: 499試1929打548安110本310点 率.284 OPS.920
 ゲレーロJr.: 500試1931打542安109本311点 率.281 OPS.925
 アルバレス: 416試1507打439安106本311点 率.291 OPS.894
 セミエン: 508試2076打548安104本303点 率.264 OPS.938
 ベッツ: 440試1715打489安103本266点 率.285 OPS.919

 アーロン・ジャッジを筆頭に現代MLBの最強スラッガーの名前が並んでいるが、大谷はジャッジと12本差の4位タイにいる。

 こうしたライバルたちとの鎬を削る争いが、大谷の「主戦場」なのだ。

 大谷は圧倒的な長打力で、彼らとの争いの頂点に立とうとしている。

そもそも「投手」という衝撃…で、得点圏打率は?

 と、ここまで書いてきて、今年はうっかり忘れてしまいそうだが――大谷翔平は「投手」でもあるのだ。超ハイレベルな打撃争いに加えて、来年は投手としても各チームのエース級と鎬を削る。どこまですごいねん、とあらためて思う次第である。

 そんな大谷が今季序盤戦のスタッツで取りざたされているのが「得点圏打率」である。MLBで重要視されるセイバーメトリクスの観点に立った場合、現状の低打率はそれほど心配するものではないと見ている。

<第2回「得点圏打率と初球打ち」編につづく>

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki/Koji Asakura