2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。サッカー部門の第3位は、こちら!(初公開日 2024年3月10日/肩書などはすべて当時)。

『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ』などの漫画とアニメ、『ドラゴンクエスト』などのゲームやマスコットのキャラクター・デザインなどで知られる漫画家、デザイナーの鳥山明さんが68歳で亡くなったことは、ブラジルをはじめとする南米各国でも大きな衝撃をもって伝えられた。

「漫画の天才アキラ・トリヤマがこの世を去って1週間が過ぎた。ブラジルに出現したジーコが地球の反対側の人々(日本人)を魅了したように、日本で生まれたトリヤマは我々ブラジル人を完全に魅了した。自分の能力以上のものを手に入れるために努力することを教えてくれたドラゴンボールの作者に、オマージュを捧げたい」(フラメンゴ)

「アキラ・トリヤマは我々の世代を虜にし、その芸術によって我がクラブが大切にしている価値である精神的な逞しさと結束力の重要性を改めて知らしめてくれた」(グレミオ)

「これからの世代の若者たちも、この漫画の魅力的な登場人物たちのことを決して忘れないだろう」(ブラジルリーグ)

「アキラ・トリヤマ、安らかに眠ってください。お悔やみ申し上げます」(サントス)

ブラジル1部クラブの半数、リーグも公式SNSで追悼

 ブラジルでは、ドラゴンボールが1996年から2002年までテレビでアニメが放送され、ストリーミングサービスでは現在に至るまで放映されている。コミックスは00年に発売され、これまでに600万部以上を売り上げている。

 それゆえ「鳥山明=ドラゴンボール」というイメージが強いのだが、とりわけフットボールの選手とファンの間で人気が高かった。

 3月8日、鳥山さんの死が伝えられると、ブラジル1部20クラブの実に半数にあたる10クラブ、2部4クラブ、3部1クラブの計15クラブ、そしてブラジルリーグが公式SNSで追悼した。

 アルゼンチンでもボカ・ジュニオルズ、リーベルプレート、インデペンディエンテなどの主要クラブが死を悼んだ。南米では、この両国以外にもチリ、ペルー、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ、パラグアイの計8カ国でアニメが放送されたほどの人気だった。

ネイマール、ガビゴール…タトゥーを入れている選手も

 南米選手の中で、とりわけ熱狂的なファンとして知られるのがブラジルのスーパースター、ネイマール(アル・ヒラル)である。

 20年に背中の左下に孫悟空の大きなタトゥーを入れており、自分でも悟空の顔のスケッチを描いたことを自身のSNSで伝えている。

 元ブラジル代表CFガビゴール(フラメンゴ)も大ファンで、右足のふくらはぎに悟空のタトゥーを彫っている。さらに、ゴールを決めるとチームメイトを呼び寄せ、悟天とトランクスが「フュージョン」するポーズを取ることでも有名だ。

 強豪クルゼイロのFWラファエル・ビルーも、背中に悟空とボールの見事なタトゥーを彫っている。

M・ジュニオールはゴール後に「かめはめ波」

 また、ブラジル3部レモーには、カカロット(注:悟空のサイヤ人としての本名)という18歳のMFがいる。フルネームは、アレジハンドロ・カカロット・ナガタ・メーロ。父親がドラゴンボールのファンだったから――だそうだ。さらには、Jリーグでは19年から横浜F・マリノスで活躍し、23年8月にサンフレッチェ広島へ移籍したFWマルコス・ジュニオールも、ゴール時に悟空の必殺技の一つである「かめはめ波」などのパフォーマンスを繰り出すことで知られ、左腕にはクリリンのタトゥーを入れている。

 3月8日のアルゼンチンのスポーツ紙『オレ』も、鳥山さんの追悼記事を掲載した。アルゼンチンリーグが彼の死を悼んでいるほか、2019年4月、バルセロナ時代のリオネル・メッシが欧州チャンピオンズリーグの準々決勝マンチェスター・ユナイテッド戦のホームでの第2レグの前にベジータのキャップを被った写真を掲載している(その後方には、やはりドラゴンボールのキャラクターのキャップを被ったウルグアイ代表FWルイス・スアレスが写っている)。

日本通ブラジル人記者も…“鳥山作品”が愛されるワケ

 ブラジルメディアの中で日本のフットボールと文化全般に造詣が深いことで知られるチアゴ・ボンテンポ記者も、鳥山作品についてこのように語っている。

「物語のスケールが大きく、ダイナミック。作画が素晴らしいし、登場人物もそれぞれに魅力的。90年代に少年時代を過ごしたブラジル人で、ドラゴンボールを知らない者はいない。皆、夢中になってアニメを見て、漫画を読んだ。

 私自身、ブラジルで発売されたポルトガル語版の漫画をすべて購入し、日本へ行ったときに日本語のオリジナル版も買ってきた」

 そして、特にフットボールの選手とサポーターに熱狂的なファンが多い理由についても、このように考察している。

「主人公の悟空が最初は弱かったのに精進を積み重ねて少しずつ成長し、たとえ自分より強い相手に負けても諦めることなく努力を続け、ついにはとてつもなく強い相手を打ち負かす。そのような巧みな設定と友情や克服の物語が共感を呼び起こすからだろう」

 漫画というポップなジャンルと、ドラゴンボールの中で描かれる成長譚。それが少年期にあったブラジルや南米のフットボーラーの心を捉えたのは間違いない。

文=沢田啓明

photograph by Kiichi Matsumoto,DPA/JIJI PRESS