レアル・ソシエダ久保建英(22)の右足から放たれたシュートが、ゴールネットを揺らした。

 篠突く雨にレンズ越しの視界が白くぼやける。相手はラ・リーガ首位を独走するレアル・マドリー。1点を追いかける展開の中、反撃の狼煙にスタジアムは喜びを爆発させたが……。

 ただVARにより、攻撃の起点となったアンデル・バレネチェアのプレーが反則を取られ、幻のゴールとなった。

3万7000人、大観衆が詰めかけたホームゲームだったが

 試合は終始ソシエダが主導権を握ったが、ゴールを決めきることができないでいた。するとこの日先発起用されたアルダ・ギュレルが一発のチャンスをものにし、マドリーが先制した。

 直近の試合で宿敵バルサとのクラシコを制し、リーグ優勝をほぼ手中に収めているマドリーは、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝、アウェイでのバイエルン戦が控えており、大幅なローテーション策を取っていた。

 ビニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガムら主力に代わって出場した19歳FWが大きな期待に応えてみせた。

 4月26日、ラ・リーガ33節、ソシエダ対マドリー戦の撮影のためスペイン北部サンセバスチャンを訪れた。当初の開催予定は27日だったが、マドリーのCLの日程との兼ね合いにより、急遽開催が前倒しされた。

 それでも、やはり注目のカード。この日の観客数は3万7000人を超えてほぼ満席に近かった。

 直近にホームで行われた対アルメリア戦での観客数が2万6000人ほどだったことを考えれば、地元ファンとしても、敵ながらもマドリー戦を観戦したいという気持ちが強くなるのだろう。

タケはマドリーに…と聞くと「ふー、難しいな」

 また、マドリーユニホームのファンの姿も多く目についた。ベリンガムのユニホームを纏い、マドリードからやってきたというファンに話を聞く。

――ラ・レアルの日本人選手、知ってますか?

「もちろんだよ、Takeだろ。元々マドリーにいたんだよ」

――今日は活躍できますか?

「今日は主力が出ないと思うから、チャンスはあると思う。ベルナベウで良い感じだったのを覚えているよ」

――マドリーに戻るのを想像できますか?

「ふー、難しいな。ベンチにいてくれるのは嬉しいけど、今チームは充実してるからね、ポジションを奪うのは本当に難しいと思う」

 そんな風に答えてくれた。

シュートを弾かれた久保が浮かべた悔しそうな表情

 キックオフは21時。

 右サイドに入った久保には、相手左SBフラン・ガルシアがマークについた。戦力を落としたマドリーに対し、ホームチームがボールを保持する時間が長くなる。

 その中で久保はパスの出しどころとなり、攻撃を活性化させた。また久保がカットインする際には、中盤のルカ・モドリッチが対応にあたるシーンが多くなった。

 前半15分、最初のチャンスがやってくる。

 左サイドからバレネチェアが切り込みサイドへパスを送る。走り込んだ久保は左足を一閃。鋭いグラウンダー性のシュートを放ったが、相手GKケパ・アリサバラガに弾き出された。

 CKのキッカーとしてスポットへ向かう久保へとレンズを向けると、その表情には悔しさが浮かんでいた。

 ソシエダが決定機を活かせないままでいた29分、中盤オーレリアン チュアメニからのロングパスを受けた右SBダニエル・カルバハルがダイレクトでクロスを送る。中に走り込んだギュレルが冷静にゴールへ蹴り込み先制に成功した。

VARによる“幻のゴール”に会場は大ブーイング

 直後32分、前述した久保による幻のゴールが生まれている。

 バレネチェアが、GKからショートパスを受けたチュアメニへとプレッシャーをかけミスを誘う。こぼれ球に反応したミケル・オヤルサバルのシュートは跳ね返されたが、ボックス外で久保がボールを拾うと、キックフェイントで対応にあたったミリトンをかわして右足でシュート。見事にニアサイドを破った。

 ただ直後VARでプレーが中断。会場のモニターに映像が映し出されると、大きなブーイングがスタジアムを包んだ。

 後半も、久保を中心としたソシエダの攻撃がマドリーに襲い掛かった。

 久保のパスからオヤルサバルが決定機を迎える場面もあった。それを見てマドリー指揮官カルロ・アンチェロッティは、CBアントニオ・ルディガーを投入。CBで先発していたナチョを久保に対応させることで、ソシエダの右サイドへの蓋を強めている。ただソシエダは、ゴールを奪うことができぬままホームで0-1の敗戦を喫した。

 マドリーを相手に久保が突出したプレーを見せたのは間違いないが、もう一段階ゴールへ近づくプレー、ボックス内への侵入回数が増えるようなプレーを期待したい。

 撮影しながらも、右サイドでパスを受けた久保が、縦への突破、もしくは内側へ向かうドリブルだけでなく、直接ゴール方向――つまり斜めへ侵入するドリブルがあまりないことに若干物足りなさを感じる。

スペイン語で「CLなら、あのプレーで笛は鳴らないはず」

 その久保は試合後のフラッシュインタビューにスペイン語で応じていた。

「残念だよ、見ていた人たちは僕たちが勝利に値したと分かっている。こんな雨や、日程変更にも関わらず来てくれたファンのためにも残念だよ」

 また「彼らは90分で1、2回しかチャンスがなかったのに運があった。僕たちは6、7回のチャンスがあった。僕たちの方が優れていたのに」、そして幻となったゴールに関しては、「チャンピオンズリーグでは、あのプレーでは笛は鳴らないはずだ」とも苦言を口にしていた。

文=中島大介

photograph by Daisuke Nakashima