IWGP世界ヘビー級王者ジョン・モクスリーは5月4日、福岡国際センターで成田蓮を倒して2度目の防衛に成功した。

 モクスリーは4月12日にシカゴで行われた『WINDY CITY RIOT』で内藤哲也から血だらけでIWGP世界王座を奪った。そして、次のチャレンジャーに海野翔太を指名したが、そこに強引なやり方でちょっかいを出してきたのが、EVILら悪の軍団ハウス・オブ・トーチャーで存在感を高めている成田だった。

IWGP王者モクスリーが成田蓮に呈した“苦言”

 モクスリーは4月24日、AEWのリングでパワーハウス・ホブスを相手に初防衛戦を強行した後、日本に乗り込んできた。成田は同王座初挑戦だが、軍団の助っ人を得て一気にベルト取りをもくろんでいた。

 海野と共に「令和闘魂三銃士」とも呼ばれる3人の中では、辻陽太が先を走っている感があった。そこに負けじと食い込んできたのが成田だった。

 ヤングライオン時代はこの3人の中で成田が一番「新日本らしかった」のだが、悪に身を投じてからは不敵な笑いを浮かべて、トレーニング用のプッシュアップボードを凶器として使用している。

「いろいろなベルトを手にしてきたが、IWGPのベルトは一番権威があり、先人たちの気持ちや魂が込もっているものだと思う。だから、その王者としての責任感と少し謙虚な気持ちも持ち合わせている。でも、リングに一歩足を踏み入れたら、リスペクトの気持ちなどどうでもいいと思っている。対戦相手はみんな同じようなやつらばかりだ。誰でも一緒だ。グレート・レスラーは世界に何人かいるだろうが、ジョン・モクスリーはオレ一人しかいない」

「オレはオレがやりたいようにプロレスをやってきた。首を絞めて、腕を折って、頭を蹴り上げてきた。有刺鉄線にぶつけたいと思ったら、そうしてきた」

 さらにモクスリーは成田についても語った。

「ヤングライオンの若い時から道場で練習して、自分は特別な存在だと思い込んでいるかもしれない。でも、オレが知っている95%のやつらとまったく同じで、子供みたいなものだ。オマエ自身、自分が何なのか、何者かをまだ理解していないだろう。そんなスーツを着て、他人が設定したスタンダードを求めて生きているように見える」

 モクスリーは成田に言った。

「試合までオマエは眠ることができないだろう。オマエの人生はこれから変わる。オレの王座を奪いに来るものはこの冷酷な両手で容赦せずに叩きのめす。価値のあるレッスンを経験することになる」

孤軍奮闘のモクスリーを救ったエル・デスペラード

 福岡でのIWGP戦は通常のルールで行われたのに、モクスリーが入場中、ゴング前に襲撃されていきなりの無法地帯となってしまった。ハウス・オブ・トーチャーは次から次へとモクスリーを落とし込もうとした。金丸義信、SHO、ディック東郷、EVILが次々にちょっかいを出し続けた。

 状況を見かねて飛び込んできた海野も手錠をかけられてバックステージに連れ去られてしまった。リングのライトも消された。海野の手錠を切り、孤軍奮闘していたモクスリーを救ったのが放送席にいたエル・デスペラードだった。昨年、血みどろの激闘を繰り広げた2人には言葉を交わさなくてもわかる不思議な信頼関係がある。プロレスに対する考え方で共感しているからだ。

「日本でIWGP王座防衛をしたってみんなに言えるんだ。これはすごいことだよ。オレの周りにはそんなヤツはいない。オレの国にも数人しかいない。ハードな試合になることはわかっていた。負けないように必死だったよ。1対1の試合がまるで10人タッグのようになってしまった。相手側は5人もいた。こっちは1人、いや1人半か」

「あれほどででたらめな状況は初めてだった。でもジョン・モクスリーは仕留められない。オレなら5人で戦えば、世界中のどのタイトルだって取れるさ。まあ、1人でも取れるけどな。あいつらも出直してこいよ。ノアのやつらも気を付けておけよ」

 モクスリーはこのばかげた状況をあえて受け入れている様子もあった。そして、「ノア」と名指しした。どうやら近いうちにノアのリングにも上がるということのようだ。

“師匠”モクスリー超えを誓う海野翔太

 38歳のモクスリーの20年のプロレス人生の中で、WWEやAEWに続いて手にしたのがIWGP世界のベルトだった。

 モクスリーは日本が好きだ。技は強烈だが、決してクリーンなファイトではない。場外もふんだんに使う。そして流血も辞さない。テーブルも使う。

 福岡でも、モクスリーは十字を切ると場外の成田に向けて飛んだ。

「オレはいつリングで死んだっていいと思っている。キャリアは永遠ではないこともわかっている。いつかその時は来る」

 だから、やりたいようにやる。後悔がないようにエルボーを叩き込み、首を絞めて、血を流して戦う。最後はデスライダー(DDT)で成田を仕留めた。

 IWGP王者モクスリーは言う。

「人生は後悔の連続だとも言える。だが、悔いのない人生を送りたい。オレは心臓が止まるまで戦い続ける」

 この日は流血こそなかったが、モクスリーは自由に戦えたことに満足げだった。試合後プレゼンターとしてリングに上がったJR博多シティの前田勇人社長にはヘッドロックなどをサービスした。

「モクスリーがオレを指名してくれたんだ。正面からオマエを超えてやるよ。オマエの血と汗と涙。この新日本プロレスへの想い。チャンピオンとしての偉大さ。オレは尊敬している。ただ、いつまでたっても弟子のままじゃあいられない。オレは次のステップに進むんだ。師匠を超えてIWGP世界ヘビー級チャンピオンになって、新日本プロレスを変えてやるよ」

 そう語る海野は5月11日、アメリカ・カリフォルニア州オンタリオTOYOTA ARENA大会でモスクリーにチャレンジする。結果は見てのお楽しみだ。

 ただ、ハウス・オブ・トーチャーの首領EVILがこのまま黙っているとは思えない。

 モクスリーvs.海野が終われば、その勝者にEVILが何か仕掛けてきそうな気配は十分にある。

文=原悦生

photograph by Essei Hara