2023年3月に亡くなった音楽家・坂本龍一さん(享年71歳)の最後のピアノソロ演奏を記録した長編コンサート映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』の公開記念トークイベントが10日、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で行われ、音楽家の大友良英氏と文筆家・佐々木敦氏が登壇した。

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』や、大河ドラマ『いだてん』の劇伴などで知られる大友氏は、2010年以降、即興演奏のパートナーとして坂本さんと国内外でステージを共にしてきた。佐々木氏は、1990年代から坂本さんにインタビューを行い、プライベートでも親交を深め、今年4月に刊行された批評本『「教授」と呼ばれた男 ――坂本龍一とその時代』(筑摩書房)を執筆した。

 本作は、闘病生活を続けていた坂本さんが、最後に演奏したピアノソロを記録した最初で最後の長編コンサート映画で、作中では自ら選曲した20曲が披露されている。収録は2022年9月、東京のNHK 509スタジオで行われ、坂本さんのためにカスタムメイドされ、長年コンサートで愛用したヤマハのグランドピアノだけで臨んだ。

 大友氏は「テレビでも一部放送されたんですよね。ただ、そのときは気持ちの整理がまだできていなくて見られなかったんです」と当時の心境を吐露。佐々木氏も「ちょうど本を書いていた頃だったので、気持ちの問題…映画に気持ちが引っ張られてしまうと思って見られなかったんです」と言い、「試写で見たのが初めてだった」と明かした。

 コンサートは「Merry Christmas Mr. Lawrence」、2023年に発表された最後のアルバム『12』の収録曲、初めてピアノソロで演奏された「Tong Poo」まで、自身が選曲した20曲で構成。坂本さんが全面的に信頼を寄せた監督と撮影クルーたちが入念に撮影プランを練り上げ、親密かつ厳密な映画空間を生み出した。

 鑑賞後の感想を聞かれると、大友氏は「やっと落ち着いて、先日新宿(での先行公開)で見ました」とし、「普段音楽映画を見ると、どんなにいい作品でも音楽や映像に対して『もう少しこうしてほしい』といった部分がどうしても出てきてしまうんです。でも、この映画はまったくストレスなく見ることができた。率直に、これは音楽を聞かせるための映画だなと思いました」と感動を伝えた。

 佐々木氏もこの言葉に賛同しながら「ドキュメンタリーではあるんですが、“コンサート映画”なんです。客席にいるみなさんがそうだったように、本当に観客の目の前で演奏している坂本さんを見られる映画。カメラワークから音響まで、なにもかもがそういうことのために考え抜かれている」と絶賛した。